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2024年11月1日
8月15日は終戦記念日です。終戦からまもなく78年ですが、現在もこの世界で戦争は起こり続けています。
今夏、スフマートでは戦争や平和に関するテーマを取り扱う4つの館にインタビューしました。1か月の集中連載で毎週お届けします。
私たちは「平和」について考えるとき、「戦争」がない状態をイメージしがちです。
もちろん「戦争」は直接的に「平和」を脅かすものですが、戦争が起きていない現代日本、私たちが生きる世界は果たして本当に「平和」と言えるのでしょうか?
戦争がなくても、ギリギリの状態で日々の生活を送るワーキングプアの問題、性や出自などによる差別がなくならない世界は、すべての人にとって「平和」とは言い難いものです。
川崎市平和館
川崎市平和館は、戦争をはじめ、貧困や差別、環境問題など、私たちの「平和」を脅かす問題に関する展示を通して、「平和」とは何かを問いかけてきます。
同館で専門調査員を務める暉峻僚三(てるおか・りょうぞう)さんに、川崎市平和館の特徴や展示の工夫、「平和」のために私たちができることをお聞きしました。
川崎市平和館 暉峻 僚三専門調査員
──まずは川崎市平和館について教えてください。こちらはどのような場所ですか。
川崎市平和館は、平和学的デザインに基づいて創られた平和博物館です。
平和博物館には大きく分けて2種類あります。一つは広島平和記念資料館や長崎原爆資料館などに代表されるような、地域を切り口に過去の戦争に関する展示を行うところ。
そして、もう一つは当館のように平和学に基づき、戦争だけでなく、貧困や差別、環境問題など平和を阻むさまざまな問題を切り口に平和への理解を深める展示を行うところです。
実は日本は平和博物館大国で、世界の平和博物館の4分の1以上が日本にあるんですよ。
──平和学をベースにした平和博物館は国内でも珍しいですよね。
常設展示では地域に焦点を当て、先の戦争での川崎大空襲をテーマにした展示もありますが、戦争だけに限らず、幅広い視点から平和を考える場にされたのは何か理由があるのでしょうか。
川崎市は、産業都市としての公害問題をはじめ、多くの工場労働者たちを抱える中で生まれた貧困問題、さらには古くから在日韓国・朝鮮人の方々も多く住んできたエリアでもあることから差別の問題など、さまざまな問題と向き合い、いろいろな境遇の人たちとの共生を考えてきた街でもあります。
そんな多様性に満ちた街だからこそ、過去の戦争を振り返るだけでなく、包括的な平和への理解を促したい思いが強かったのだろうと想像できます。
──「平和」というと、「戦争」と対極にあるものと思ってしまいがちです。川崎市平和館で考える「平和」とは、どのような状態・状況を指すのでしょうか。
かつて、あるインドの研究者が世界に向けて次のような問いを投げかけました。
「戦争がなくても貧困が故に飢えや病気でたくさんの人たちが亡くなっているインドを『平和』と呼べるのだろうか」と。「平和」とは「非戦争」ではありません。
平和学では、「平和」が壊れた状態を「非平和」と呼び、「暴力」によって作り出されるものだと考えます。
この「暴力」とは、戦争や武力紛争によるものはもちろん、貧困や差別など、社会構造の中に組み込まれた暴力も含まれます。
当館では「平和とは、すべての人間が暴力や差別、貧困や環境破壊におびやかされず安心して生活できる」ことと定義し、「平和」を測るものさしは人権だと考えています。
つまり、「平和」とは暮らしている人、誰もの尊厳が守られている状態です。
──戦争を知らない若い世代に「戦争」や「平和」について伝えるために工夫されていることはありますか。
戦争を含め、すべての平和問題を「自分たちごと」にしてもらえるように心がけています。
戦争を体験しているか、していないか、そこで線を引くことではないと思うんです。過去の戦争は本当にいまを生きる私たちとは関係ないのか?
当館の常設展示では、「川崎と戦争」「日本と戦争」など戦争に関するものから、「国家による弾圧」「さまざまな暴力」など視野を広げて平和について考えるものまで、さまざまな切り口を用意し、コーナー立てで「平和」について考えてもらうようにしています。
戦争をはじめとする「非平和」は、突然降って湧くものではありません。
例えば、「日本と戦争」をテーマにしたコーナーでは、明治維新から終戦までを一括りとして捉え、日本と戦争の関わりを解説しています。そして、そうした歴史のうえに、いまの自分たちがあるのだという連続性を感じ取ってもらえるように工夫しています。
2023年度中には常設展示をリニューアル予定です。手に取って重さを体感できる焼夷弾の実物大模型や、お子さん向けにクイズに答えて迷路を進むようなゲーム感覚で楽しめる体験型の展示を採り入れることを考えています。
──常設展示だけでなく、毎年恒例の「川崎大空襲記録展」(3〜5月)や「原爆展・特別展」(8月)、さまざまなテーマのミニ企画展などの企画展も開催されています。展示をつくるうえで大切にしていることを教えてください。
多くの人に興味を持ってもらえるように時事的なテーマを扱うことが多いですね。
また、最近では参加型の展示にも注力しています。中高生の平和教育の一環として、当館でテーマを設定し、学生のみなさんが考えたことを展示したミニ企画展を行ってきました。
2022年度には、ミャンマーやウクライナの現状を踏まえて平和へのメッセージをポスターや映像、手紙やスローガンなど文字を用いた形で表現してもらった「へいわへのメッセージ展」、男女間の不平等や性差別について考えるためのプログラムを考案してもらった「男女平等のためのへいわ教育展」を開催しました。
年度末には展示内容を冊子にまとめるのですが、それがそのまま学校で平和学習の教材として使われることもあるんですよ。
同じ年頃の子どもたちが考えたこととあって生徒さんたちも興味を示してくれ、先生方も子どもたちの考えから学ぶことも多々あるようです。
──最後に、平和な世界を築くために私たちにできることとは、どんなことでしょうか。暉峻さんのご意見をお聞かせください。
非平和につながる問題を「自分たちごと」として捉えるかということに尽きると思います。
それは、一人一人が社会をつくる主役として生きることでもあります。そうした問題に対するアンテナの感度を上げることも、個人レベルでできることの一つですよね。そういう意味では、当館にお越しいただいて、平和問題への意識を高めてもらえるとうれしいです。
川崎市平和館では、いかに当事者感覚をつないでいけるかということを大事にした展示を行っています。
いま自分が居る場所からは遠い時代や国のことに見える問題が、実は私たちの暮らしと地続きであることを知ることができるのではないかと思います。
過去の戦争だけでなく、さらに視野を広げて「平和」とは何かを改めて考えてみてください。きっといろんな発見があるはずです。
残すところ本インタビューもあと1回となりました。最終回は、昭和館にお話を伺います。
(2023年8月11日公開予定)