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クロード・モネの世界にひたる。日本初公開作品を含む〈睡蓮〉などを堪能【国立西洋美術館】
2024年11月1日
「あ、共感とかじゃなくて。」/東京都現代美術館
東京都現代美術館で「あ、共感とかじゃなくて。」展が開催されています。
「共感」というのはポジティブな言葉のようですが、簡単に「分かるよ」と言われたら軽くあしらわれている気持ちになったり、誰かに共感を押しつけられて複雑な気持ちになる時もありますよね。
家族や友人との人間関係に悩むことも多い10代の若者に向けて企画されたこの展覧会では、「共感しなくても大丈夫」というメッセージとともに、相手の気持ちや状況を想像し、考えつづけることを試みる5人のアーティストの作品をインスタレーションで紹介しています。
5名のアーティストの作品をそれぞれご紹介します。
最初の展示室には、企業紹介のようなブースが並びます。ところが、ここで紹介されている仕事の映像は、いくら観ても何の仕事をしているのか分かりません。
有川滋男作品 展示風景
これは、有川滋男による「架空の仕事」を紹介する映像作品シリーズ。
映像のうちの1つ《ディープ・リバー》は、もともとは木材の貯木場として有名だった深川地域をモチーフに東京都現代美術館内で撮影されたもの。
木がCO2を固定することから発想し、映像の中では「世界のCO2濃度を発表する」という仕事が行われているそうですが、映像からはその目的も、何をしているのかもよく分かりません。
有川滋男作品 展示風景
自分の常識では分からないものを観て、すぐにはわからないことを考え続ける体験をする作品です。
小さな家のようなスペースは、「巨人」「落とし物」「植物」の3つのキーワードをてがかりに、「生き延びること」「待つこと」を考えるアーティスト山本麻紀子の作品。
山本麻紀子作品 展示風景
家の真ん中には、「巨人」の落とし物である巨大な歯が置かれ、山本がその隣で眠って観た夢が、その敷地に生えていた草木で染められた糸で刺繍されています。
山本麻紀子作品 展示風景
部屋のまわりには、小さな瓶や焼き物が置かれています。これらは、京都の崇仁地区というかつて差別的な扱いを受けてきた地域とつながりのあるもの。ここ数年の再開発に伴い、建物が取り壊されたり、植物が伐採されたりする中、そこに残されたものを拾ったり、伐採された植物を挿し木してきたものです。
山本麻紀子作品 展示風景
残されたたくさんの小物から、ここにはいない、もともとの持ち主や、そこに住んでいた人たちに思いを馳せる作品です。
薄暗い部屋に巨大な月が浮かび上がるのは、自身がかつて引きこもりだった経験をもとに制作を続ける渡辺篤の作品《同じ月を見た日》。
渡辺篤(アイムヒア プロジェクト)作品 展示風景
コロナ禍の緊急事態宣言のときに開始したプロジェクトで、「現在孤立を感じている人」を募集し、月の写真を送ってもらうというものです。屏風のように仕立てられたライトボックスには、2020年から現在までに寄せられた、さまざまな月の写真が並びます。
2020年の写真を観ると、先が見えず、誰もが心細かった3年前の感覚がよみがえってくるようにも感じられますね。
渡辺篤(アイムヒア プロジェクト)作品 展示風景
コロナ禍が落ち着くにつれ、写真の数は減ってきたものの、まだ今でも写真が寄せられているそう。
月の写真だけでは、それを撮影した人のことは何も分からないながらも、それでも、あの頃に体験した不安や孤独な感覚を思い出しながら、その気持ちを少しだけ想像できるようにも感じられます。
薄暗い部屋を抜けると一転、ピクニックができそうな広場に1台のトラックが停まっています。
こちらは演出家の武田力による《教科書カフェ》。トラックの中には、むかし誰かが使っていたさまざまな年代の小学校の教科書が詰められ、自由にそれを読むことができます。
武田力作品・中島伽耶子作品 展示風景
カフェといっても、お茶を飲んだりすることはできませんが、芝生でゆっくり教科書を読んだり、小学生の自分を思い出せるようなスタンプラリーが体験できます。
武田力作品 展示風景
トラックの裏には、ひっそりと小さな電話が1台。時々電話がかかってくる電話を取ると、小学生の声で、さまざまな質問が投げかけられ、受話器をとった人はそれに答えます。知らない小学生のことを考えながら、自分の過去についても思い返してしまう作品です。
武田力作品 展示風景
同じ展示室の空間を区切る大きな黄色い壁は、中島伽椰子による作品《we are talking through the yellow wall》。壁を1枚隔てた片方は明るい部屋、もう一方は暗い部屋になっています。
中島伽耶子作品 展示風景
分厚い壁で、壁の向こう側を知ることはできない中、どうしたら壁の向こう側の人のことを知り、コミュニケーションができるのか?物理的な壁ではなくても、日常のなかでも、こうした悩みはよくあるかもしれないですね。
中島伽耶子作品 展示風景
明るい場所だから気づくこと、暗い場所だから気づくこともあるかもしれません。見えないからこそ、工夫をしたり、想像するのが必要であることが伝わってきます。
中島伽耶子作品 展示風景 異なる角度から作品を観ると見えるものもあるかもしれません
こうして作品を観た後、1周して入り口に戻ると、入り口に設置されていたライトが、明るくなったり消えたりすることに気づきます。
「あ、共感とかじゃなくて。」展 「はじまりの部屋」
実は、ここにある7つのライトは、ここにはいない誰かが、どこかからか遠隔操作でライトをつけたり消したりしているそう。どんな人が何のために、今ライトをつけたり消したりしたのか、想像してしまいます。
「共感」はしなくても良いから、正解が分からないものを、自分で考え続けることをさまざまな方法で体験する展覧会です。
学校の人間関係から少しだけ離れる夏休みの今、知らない誰かを想像することに挑戦してみませんか?