PROMOTION
クロード・モネの世界にひたる。日本初公開作品を含む〈睡蓮〉などを堪能【国立西洋美術館】
2024年11月1日
よきかな源氏物語/嵯峨嵐山文華館
エントランス
京都・嵐山は源氏物語ゆかりの地。作者である紫式部が大河ドラマに登場したことで、当地の注目度は急上昇中。そんな嵐山で源氏物語にちなんだタイムリーな企画展が開催されていると聞きつけ、嵯峨嵐山文華館を訪れました。
「よきかな源氏物語」・・・キラキラのポップな看板がお出迎えしてくれます。
「源氏物語の展覧会」と聞くと思わずかしこまってしまいますが、これはなんだか楽しそうです。
嵯峨嵐山文華館は、この地で誕生した百人一首の歴史や魅力と、日本画の粋を伝えるミュージアム。百人一首関連の常設コーナーにも紫式部が登場しています。
長谷川宋圜《百人一首手鑑》17世紀 (前期展示)
こちらは国宝「松林図屏風」で有名な長谷川等伯(はせがわとうはく)の門人・長谷川宋圜(はせがわそうえん)の作。和歌と、詠んだ歌人の姿を描いた江戸時代初期の百人一首画帖です。
右が紫式部、左が紫式部の娘・大弐三位(だいにのさんみ)。天皇の乳母を務めるなど母譲りの才能で出世しました。母娘で百人一首に撰ばれています。
会場に、紫式部をめぐる当時の人びとの相関図が掲げられていました。
一見複雑に見えますが、見知った名がたくさん出てきますね。紫式部が権力の中枢に近いところにいたことがわかります。
紫式部をめぐる人びとがわかりやすく一覧に
嵯峨嵐山文華館名物の百人一首歌仙フィギュアの紫式部。たおやかな雰囲気ですね。
百人一首歌仙フィギュアの紫式部
『枕草子』で有名なライバルの清少納言のお姿もありました。こちらは自信満々の立ち姿。
ライバルの清少納言の姿も
「清少納言こそ、したり顔にいみじうはべりける人。(清少納言は、本当に得意顔でエラそう)」
紫式部日記に記された一節からイメージしたポージングでしょうか。
・・・ちょっと脱線。話を源氏物語に戻しましょう。
平安時代から今に至るまで源氏物語は広く読み継がれてきましたが、印刷方法がなかった時代にどうやって広まっていったのでしょう。そう、一文字一文字書写していったのです。
書き写したものをまた書き写していくうちに、誤記や抜け落ちた部分が出てきてしまう。原文が残されていない源氏物語は、平安時代末期には既に混乱状態でした。
藤原定家《小倉色紙 はなさそふ》13世紀 (前期展示)
小倉百人一首の編纂で知られる藤原定家は、物語の原型を取り戻そうとします。
いくつもある写本を比較研究し、自ら写本を作成しました。定家が手がけたこの本が、現在まで読み継がれる源氏物語の基本形となっています。
この色紙は藤原定家の自筆。小倉山の山荘で和歌百首を選び色紙にしたためた「小倉色紙」の一枚で、藤原公経の「はなさそふ あらしのにはの ゆきならで・・・」の歌が書かれています。
源氏物語を読破しようとチャレンジしたけど、途中で脱落しちゃった人もいるのでは?
かくいう私もそのひとり。あまりの登場人物の多さにくじけてしまいました。
「あの時、この『源氏物語相関図』があったら・・・」と思ってしまう、一目でわかる図表も展示会場に用意されています。
源氏物語相関図
作品を観ていて「これ誰だっけ?」なんてシチュエーションも、この相関図があれば大丈夫!
それでは源氏物語を題材にした作品を観ていきましょう。
作者不詳《源氏物語図》17世紀~18世紀 個人蔵 (通期展示)
源氏物語全54帖のすべての場面が描かれた屏風。画面いっぱいに所狭しと名場面が並ぶ姿は壮観です。
屏風の下にはそれぞれの場面の解説文が置かれていますので、解説と人物相関図を見比べながら鑑賞すると、いっそう理解が深まります。
狩野山楽《源氏物語押絵貼屏風》16世紀~17世紀 (通期展示)
狩野永徳(かのうえいとく)の高弟で、京都狩野派「京狩野」の祖となった狩野山楽(かのうさんらく)の作品。若かりし光源氏の12場面を描いた屏風です。
ぐっと寄って観て見ましょう。
(右)花宴(第8帖) (左)葵(第9帖)
画面右は「朧月夜」との出会いと別れ、画面左は源氏の正妻・葵の上と愛人・六条御息所の有名な車争いの場面。
端正な筆致の中にも、細やかな動きや躍動感が感じられます。
こちらは、江戸中期の狩野派の画家で尾形光琳の師としても知られる山本素軒(やまもとそけん)の作品。
山本素軒《源氏物語図屏風》 17世紀~18世紀 (通期展示)
明石の方と明石の姫君の母娘の繋がりにスポットを当てています。
右隻は第19帖「薄雲」の一場面。源氏の恋人・明石の方は、悩んだ末に源氏との子である明石の姫君を源氏に委ねます。その別れの場面が描かれたもの。
左隻は第23帖「初音」から、源氏の館・六条院で明石の方が娘に宛てた手紙を源氏が読んでいる場面です。
薄雲 明石の方と明石の姫君の母子の別れの場面
右隻の一部にフォーカスしてみましょう。白い狩衣を着た源氏の隣には明石の方。彼女の手には、お人形さんのような明石の姫君が抱かれています。硬めの筆致で、細かい部分までよく表現されていると思います。
左隻に描かれているのは源氏の館・六条院。源氏が35歳の時に造営した広大な館として物語の中で語られていますが、その六条院の庭園を想像した作品も展示されていました。
狩野興也《源氏物語六条院庭園図巻》17世紀 (通期展示)
六条院は四季をコンセプトにした広大な館で、春・夏・秋・冬それぞれの町に庇護している女性たちを住まわせるという、現代の感覚ではちょっとびっくりな邸宅でした。
江戸時代前期に描かれた水戸藩御用絵師・狩野興也の図巻では、春夏秋冬の庭園の遠景を見ることができます。
狩野玉円永信《源氏五十四帖図》19世紀 (通期展示)
この2幅の掛軸は源氏物語の場面が描かれているのですが、人物はどこにも見当たりません。
主人公をあえて描かず、風景や道具などで観る人に連想させる手法を「留守模様(るすもよう)」といいます。
この技法に触れるには、絵師にも鑑賞者にも見識が必要ということ。観る側の私達も教養が試されますね。
神坂雪佳《舟遊祭之図》19世紀~20世紀 (通期展示)
第24帖「胡蝶」での、船を浮かべて楽人奏でる音楽を楽しむ場面を描いた作品。
平安時代には、嵯峨嵐山の大堰川(おおいがわ)でこのような御舟遊びが催されていました。
現在でも車折(くるまざき)神社の神事で再現されており、初夏の嵐山で見ることができます。
源氏物語ゆかりの地MAP
配布されていた「源氏物語ゆかりの地MAP」。ここ嵯峨嵐山文華館付近は、明石の方が上京して住んだ邸宅があったとされる場所だそう。
文華館周辺には源氏物語ゆかりの場所が点在しており、その世界観がとても身近に感じられます。
展覧会を観た後はちょっと足を延ばして、ストーリーゆかりの地を巡ってみる『聖地巡り』はいかがでしょう。
きっと趣きある一日になりますよ。よきかな。
前後期で展示替えあり
前期:1月18日(木)~3月4日(月)
後期:3月6日(水)~4月7日(日)