泉屋博古館の名宝/奈良国立博物館

住友コレクションの仏教美術を広く紹介。春翠の多彩な収集品が一堂に【奈良国立博物館】

2024年8月4日

泉屋博古館は、住友家が蒐集した美術品を管理、研究、公開を行う美術館です。

かつて住友家の別邸があった京都・鹿ケ谷と、東京・六本木に建つ「泉屋博古館」で展覧会を開催されているのは皆さんご存じのとおりです。

泉屋博古館(京都)は、現在改修工事中で、2025年春にリニューアルオープンします。

住友コレクションとは

住友コレクションの中核をなすのは、住友家第15代住友吉左衞門友純(すみともきちざえもんともいと 雅号:春翠(しゅんすい)、1864~1926)が、明治から大正にかけて蒐集した美術品です。

現在その所蔵件数は約3,500件となっています。

住友家は、別子銅山開発と大阪での銅精錬事業を300年以上にわたって経営してきました。

春翠は、京都の公家徳大寺家に生まれ育ち、29歳のときに住友家の養子嗣となり、現在の住友グループの礎を築いた財界人です。

春翠の中国青銅器コレクションの形成

春翠は若い頃から中国文人に憧れ、煎茶に傾倒していました。煎茶会での床飾りとして一般的だった青銅器を購入したのが、コレクションの始まりです。


《筒形夔文卣(つつがたきもんゆう)》 1口 銅製 鋳造 中国・西周(紀元前11~前10世紀)

初期の蒐集品は、すっきりとして簡潔な造形、やや控えめな文様表現が特徴の床飾りに相応しい器を選んで購入しています。

欧米視察の後、明治30年代後半から春翠は、体系的なコレクションを目指してさまざまな器種(食器、酒器、水器、楽器など)を網羅的に集めるようになります。

酒器は青銅器の中でも特に種類が豊富で、造形的にも面白いものが多いです。


展示風景:《虎卣(こゆう)》1合 銅製 鋳造 中国・殷(紀元前11世紀)
祭祀や儀礼で重要な役割を果たした酒に関わる器である「酒器」の1つです

どこから見ても何とも複雑な作りです。人が虎にしがみつき、ヒトが小さくて弱い存在として表現されているかのようです。


《象文兕觥(ぞうもんじこう)》1合 銅製 鋳造 中国・殷(紀元前12~前11世紀)

こちらも酒器の1つです。器の表面はびっしりと様々な文様で埋め尽くされています。

こっちを向いてニンマリしている様で、紀元前12~11世紀に作られたものということを忘れてしまうデザインと造形で工人の技術の高さに驚くばかりです。

青銅鏡も当初から購入していましたが、やがて唐鏡を中心に中国鏡を蒐集するようになります。


《星雲文鏡》1面 銅製 鋳造 中国・前漢(紀元前2世紀)

大正期には青銅器に鋳込まれた文字である「金文」を重視して蒐集をするようになりました。


《陳氏旧蔵十鐘のうち八鐘》

鐘は殷周時代に製作された打楽器の一種で、外からバチで叩いて音を鳴らします。

大正6年に、清末の文人で清朝最大の青銅器コレクターであった陳介祺(ちんかいき)が所蔵していた「陳氏旧蔵十鐘」を入手したことは春翠にとって大きな意味を持ちました。

春翠没後も、第16代友成(1909-1993)にその思いは継承されて、コレクションの充実を図り、世界でも有数の中国古代青銅器コレクションが形成されました。

仏教美術にみる春翠の美意識と審美眼

春翠はその早すぎる死の10年ほど前、50歳を過ぎた頃から仏教美術にも関心を持ち始めました。


《石棺 銘「南栢林弘願和尚身槨」》1基 石製 中国・唐~宋(8~10世紀)
後方《毘沙門天立像》1軀 木造彩色・截金 鎌倉時代(13世紀)、《十六羅漢図》16幅の内8幅 絹本著色 室町時代(15世紀)
右端:《龍智・善無畏・恵果像》3幅 絹本著色 鎌倉時代(14世紀)


重要文化財《弥勒仏立像》1軀 銅造 鍍金 中国・北魏 太和22年(498)

仏教美術コレクションは、東アジアの仏教美術を見渡せる作品群となっています。


重要文化財《水月観音像 徐九方筆》1幅 絹本著色 朝鮮半島・高麗 忠粛王10年(至治3年、1323)

なんとも優美で気品ある仏画でしょう。


《地蔵菩薩像》1面 絹本著色 鎌倉~南北朝時代(14世紀)

截金文様も美しい地蔵菩薩像です。

春翠の審美眼は、美術品収集で培ったものでもありますが、京都のお公家さんの出である春翠の原点にもあるのではないでしょうか。

Exhibition Information

展覧会名
泉屋博古館の名宝 ―住友春翠の愛でた祈りの造形―
開催期間
2024年7月20日~9月1日 終了しました
会場
奈良国立博物館 東新館
公式サイト
https://www.narahaku.go.jp/