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クロード・モネの世界にひたる。日本初公開作品を含む〈睡蓮〉などを堪能【国立西洋美術館】
2024年11月1日
ベル・エポック ―美しき時代/パナソニック汐留美術館
ジュール・シェレ《音楽》1891年頃《パントマイム》《コメディー》《ダンス》以上3点、1891年 全てデイヴィッド・E・ワイズマン&ジャクリーヌ・E・マイケル蔵
「ベル・エポック ―美しき時代 パリに集った芸術家たち ワイズマン&マイケル コレクションを中心に」が、パナソニック汐留美術館で12月15日まで開催中です。
19世紀末、パリの華やかだった時代の知識人たちの交流や、街角で生まれた芸術文化をファッション、美術、工芸、音楽、文学など網羅的に紹介、作品が誕生した背景をトータルに体感できる貴重な機会となっています。
第1章展示風景より 左のドレスは《アフタヌーン・ドレス》1870-1880年代 文化学園服飾博物館蔵 写真提供:パナソニック汐留美術館 撮影:Yukie Mikawa
本展は、フランスで著名なアニメーション作家ミッシェル・オスロの映画「ディリリとパリの時間旅行」に着想を得て企画されたもので、米国の実業家デイヴィッド・ワイズマンとジャクリーヌ・E・マイケル夫妻のコレクションを中心に280点余の作品が展示されています。
第1章展示風景
人気歌手アリスティド・ブリュアンを描いたロートレックのポスターです。
第2章展示風景より 中央のポスターはアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック《ブリュアンはモンマルトルに戻り『オ・バ・ダフ』を歌う》1893年 デイヴィッド・E・ワイズマン&ジャクリーヌ・E・マイケル蔵
会場入り口のロビーで上映されている映像では、ブリュアン本人の姿を見ることができます。ロートレックは浮世絵に影響を受け、画面を単純化した新たなポスター芸術を生み出しました。
第2章のタイトルは「総合芸術が開花するパリ」。
1900年頃のモンマルトルとその周辺には、劇場やサーカスを含む40軒以上のエンターテインメント施設があったそうです。そうした場所は若い芸術家の活動拠点となり、絵画、演劇、音楽などジャンルを超えたクリエイターたちが触発し合いながら、多くの作品を制作しました。
パリ北部の下町、モンマルトルの地図
このコーナーでは、1890年代にはパリ市内に350軒以上存在したという、お酒を飲みながら演劇や音楽を楽しむカフェ・コンセールで生まれた作品を紹介しています。
第2章展示風景より 写真右のポスターはテオフィル=アレクサンドル・スタンラン《シャ・ノワール》1896年 デイヴィッド・E・ワイズマン&ジャクリーヌ・E・マイケル蔵
文芸カフェ「シャ・ノワール」のポスターも。ロドルフ・サリスが経営するこの知識人のキャバレーでは、映画の先駆けとなった影絵芝居が上演され、異端児のサティや印象派の作曲家ドビュッシーらがピアノを演奏していました。
第2章では、ドビュッシーの傑作「牧神の午後への前奏曲」の音声が流れるコーナーがあり、作品の元となった詩人ステファヌ・マラルメ作「半獣神の午後」の初版本が展示されています。
エドガー・アラン・ポー、ステファヌ・マラルメ(フランス語訳)、エデゥアール・マネ(挿絵)《大鴉》1875年 獨協大学図書館蔵
推理小説「モルグ街の殺人」などで有名な米国人作家ポーの詞「大鴉(おおがらす)」を、象徴派の代表的な詩人マラルメがフランス語訳し、絵画《草上の昼食》で物議を醸したマネが挿絵を描いた限定本のレプリカです。
文学と絵画の大家がコラボレーションした贅沢な作品ですね。1人の天才が総取りではなく、才能ある人びとが集まって触発し合っていた雰囲気が伝わってきます。
第2章には、フロベール「ボヴァリー夫人」やボードレール「悪の華」の初版本など文学作品の展示が他にもあり、本が好きな方にもおすすめです。
第3章のタイトルは「華麗なるエンターテイメント 劇場の誘惑」。
第2章で紹介されたキャバレーやカフェ・コンセールの舞台で上演されていたパフォーマンスにまつわる展示です。
第3章展示風景
当時人気を博した米国人ダンサー、ロイ・フラーの幻想的なダンスを描いた作品
前出のキャバレー「シャ・ノワール」で実際に飾られていた4枚組のポスター(本記事トップ画像)をはじめ、劇場の挿絵付き上演目録やプログラム、当時興行が盛んだったサーカスを描いた作品などが展示されています。
テアトル・リーブル(自由劇場)のプログラム。自然主義演劇を上演することで知られ、「人形の家」を書いたヘンリック・イプセンや「居酒屋」などで知られるエミール・ゾラの作品も上演された
アンリ=ガブリエル・イベリス 上段左から《強奪|開放された女性》《時代遅れの人々》《義務》下段左から《蜃気楼》《眠れる森の美女|銀婚式|アハシュエロス》
以上 1892-1893年 デイヴィッド・E・ワイズマン&ジャクリーヌ・E・マイケル蔵
ジョゼフ・ファヴロ《月を持つピエロ》1883年 デイヴィッド・E・ワイズマン&ジャクリーヌ・E・マイケル蔵 サーカスは芸術の一形態として評価されていた
第4章展示風景
第4章のタイトルは「女性たちが活躍する時代へ」。19世紀末はノーベル賞を受賞したマリー・キュリーを筆頭に、女性の社会進出が進んだ時代でした。
モーリス・ユトリロの母でもある、シュザンヌ・ヴァラドンの作品
精力的に活動した女性画家シュザンヌ・ヴァラドンの絵画や、大女優サラ・ベルナールのポスターと舞台「遠国の姫君」で使用した冠、コルセットから解放されて現代と同じようなデザインになったイブニング・ドレスなど、女性たちの活躍が紹介されています。
第4章展示風景 写真提供:パナソニック汐留美術館 撮影:Yukie Mikawa
雑誌やアクセサリー、映像など見どころ満載です。また、4章の奥の部屋はルオー・ギャラリーとなっていて、同時期のジョルジュ・ルオーの作品がまとめて展示されています。
映像《スポーツと気晴らし》 写真の楽譜は第3曲「イタリア喜劇」
エリック・サティの曲集「スポーツと気晴らし」は、モード雑誌のイラストレーター、シャルル・マルタンによる挿画集に曲を添える目的で作曲されました。楽譜にはサティ自筆の文章が付いていて、朗読とともに演奏されます。
サティの曲は「食欲をそそらないコラール」「官僚的なソナチネ」など、ひねりの利いたタイトルが多いですが、そうした言葉選びの背景も第2章の展示を見ると分かってきます。
筆者は学生時代にピアノを専攻していたので同時期の作品はよく弾きました。しかし、背景についての理解は書籍や絵画を参考にした程度で、断片的だったと思います。
本展のようにファッションやポスター、文学作品の原稿などを間近に見て、当時のようすをリアルに想像できる機会は大変貴重なものと感じました。
音楽や美術に限らずファッションや文学、演劇、何でもこの時代の作品が好きな方にはおすすめしたい展覧会です。見た後はお気に入りの作品の理解がより深まるに違いありません。