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2024年11月1日
アンドリュー・ワイエス展―追憶のオルソン・ハウス/アサヒグループ大山崎山荘美術館
草原に手をつき横たわる女性の後ろ姿。見上げる女性の視線の先、丘の上には一軒の屋敷が建っています。
アメリカの国民的画家アンドリュー・ワイエスの《クリスティーナの世界》は、美術の教科書で見知っている人も多いでしょう。
この有名な作品に登場する丘の上の家「オルソン・ハウス」に焦点を当てた『アンドリュー・ワイエス展―追憶のオルソン・ハウス』が、京都・大山崎の自然豊かな天王山中腹に建つ、アサヒグループ大山崎山荘美術館で開催されています。
関西の実業家だった加賀正太郎氏が大正から昭和初期にかけて建てた「大山崎山荘」を、創建当時の姿に修復した美術館の本館です。
国の登録有形文化財に指定されている趣き深い建物が、11月の抜けるような青空に映えます。
館内には木のぬくもりが醸し出すレトロな雰囲気が漂い、ゆったりとした時間が流れています。
歴史ある山荘で鑑賞するワイエスの作品は、ホワイトキューブの美術館で観る展覧会とはまた違った魅力が味わえそうです。
9月14日から開催されているワイエス展ですが、10月29日からは一部作品を展示替えした後期展示が始まっています。
今展は、前期後期合わせて約60点のワイエスの貴重な水彩・素描コレクションが展示されています。
これらはすべて埼玉県朝霞市の丸沼芸術の森が所蔵している作品。
丸沼芸術の森は、アーティストの制作活動を支援する場として1985年に設立されました。
約40年にわたる支援活動の中で、村上隆氏をはじめ多くの作家が巣立っています。
今回展示されたワイエス作品も、「若手作家たちの勉強になれば」と蒐集されたものといいます。
会場には本展の主役「オルソン・ハウス」の精巧な模型が据えられ、来場者を迎えます。
オルソン・ハウスは、メイン州クッシングの海をのぞむ丘の上に建つ古い屋敷。ワイエスの別荘の対岸にありました。
屋敷には、40歳半ばになるクリスティーナとアルヴァロの姉弟が暮らしていました。姉のクリスティーナは、名作《クリスティーナの世界》のモデルとなった人です。
ワイエスをオルソン家へ案内したのは、ワイエスの知人でオルソン姉弟の友人のベッツィ。彼女は後にワイエスの妻になる人です。
この家と姉弟に惹かれたワイエスは、対岸の別荘からボートでオルソン・ハウスへ通うように。そして2階の一室を借り、姉弟とオルソン・ハウスを描きはじめます。
この時ワイエス22歳。それから30年間、ワイエスは姉弟が亡くなるまでこの家を描き続けたのでした。
《クリスティーナの世界》は、この長い時間の中の一場面として生まれたのです。
展示会場には、ワイエスの目を通したオルソン・ハウスの風景がずらりと並びます。
一見、普通の風景画に見えますが、よく見ると、玄関に座るアルヴァロの姿やブルーベリーを収穫するようすなどオルソン家の生活が描きこまれており、姉弟の静かな慎ましい生活が伝わってきます。
姉のクリスティーナは先天性の病のため手足が不自由で、年齢とともに症状が悪化していきました。
聡明で気高いクリスティーナは、歩けなくとも身の回りのことは自分でこなしていたそう。弟のアルヴァロは漁師の仕事を辞め、農業や牛舎の仕事に切り替えて姉を支えていたといいます。
ワイエスは、屋敷の中のようすも多く描き残しています。納屋のツバメ、破れたカーテン、パイを作るために籠に入れたブルーベリーや計量器まで、実に細かく描写されています。
このコーナーは展示室の壁が黒で統一されているため、まるで自分が古い屋敷内でその光景を見ているような臨場感に包まれます。
クリスティーナの病状が悪化してアルヴァロの負担が大きくなると、家の手入れは行き届かなくなり屋敷は荒れていきます。
ワイエスは荒涼としていくオルソン・ハウスを、慈しむように丁寧に描き続けました。ワイエスは、そこで暮らす姉弟も含めた「オルソン・ハウスの肖像」を残そうとしたのでしょう。
ワイエスがオルソン・ハウスを描き続けて30年。姉弟は年老いて、家屋はますます荒廃していきます。
やがてアルヴァロが病に倒れ亡くなると、ひと月後にクリスティーナも息を引き取ります。
ワイエスは姉弟が亡くなった後にオルソン・ハウスを訪れ、主のいなくなったオルソン・ハウスの肖像を残します。
オルソン・ハウスをのぞむクリスティーナの墓を描いた一枚は、時の流れがどっと胸に流れ込んでくるようでした。
オルソン・ハウスをめぐるワイエスの一連の作品を観れば、まるで長い物語を読んだ後のような気分になります。
余韻に浸りながら次の会場へ向かいます。
最終章では、《クリスティーナの世界》が誕生するまでを習作を通して見ることができます。
ある日オルソン・ハウスの上階にいたワイエスの眼に、家に向かって草原を這いながら進むクリスティーナの姿が映ります。彼には、この作品の構想がすぐに浮かびました。
ワイエスは、クリスティーナの後ろ姿や体を支える右手を、角度を変えていくつもデッサンに残しています。
ワイエスの試行錯誤に触れられる貴重なデッサン群です。
ワイエス展の人気は高く、訪れた多くの人で賑わっていました。ゆっくり鑑賞するには平日の15:00以降がおすすめとのこと。
鑑賞後は、ぜひ本館2階の喫茶室へ。テラス席で雄大な景色をのぞみながら、企画展にちなんだオリジナルスイーツを楽しむのはいかがでしょう。
クリスティーナがよく作っていたというブルーベリーパイ、ワイエスの好物のアップルパイや、嗜んだというウォッカベースのカクテルなどもあわせて楽しめますよ。
※前期・後期で作品を入れ替えます
前期:9月14日–10月27日
後期:10月29日–12月8日