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クロード・モネの世界にひたる。日本初公開作品を含む〈睡蓮〉などを堪能【国立西洋美術館】
2024年11月1日
「10分でわかるアート」は、世界中の有名な美術家たちや、美術用語などを分かりやすく紹介する連載コラムです。
作家たちのクスっと笑えてしまうエピソードや、なるほど!と、思わず人に話したくなってしまうちょっとした知識など。さまざまな切り口で、有名な作家について分かりやすく簡単に知ってもらうことを目的としています。
今回は、絵画ジャンルのひとつである「肖像画」について詳しくご紹介。
「この作品を作った作家についてもう少し知りたい!」「美術用語が難しくてわからない・・・」そんな方のヒントになれば幸いです。
肖像画とは、特定の個人をモデルにして描かれた絵画のことです。その歴史は古く、古代エジプトまでさかのぼります。
当時のエジプト・アル=ファイユーム地方には、葬儀のときに描かれた一般人の肖像画が残っています。この肖像画は、フレスコ画以外では古代ローマ時代から残っている唯一の絵画だそうです。
紀元前1000年中ごろにエーゲ海周辺で誕生したギリシャ文明では、生きている人間を初めて描いた美術品が確認されています。
古代ギリシャの人びとは、神さまたちは人間と同じような姿をしていて、同じような感情を持っていると考えていました。そのため、理想的な人間の体の形を描くことで、神の姿を表現していたと考えられています。
理想主義に基づいたギリシャ美術が、人間そのものを描く写実主義(現実主義)に移行したのは、紀元前4世紀末以降のこと。美術史では、ヘレニズム時代にあたります。
こちらは、イタリア南部のポンペイ遺跡で発掘されたフレスコ画です。本作を観ると、現代の家族写真と同じように個人を理想化せず、ありのままに描いているようすがわかりますね。
ヘレニズム時代のギリシャとローマでは、肖像文化が根付いていたことがうかがえます。
しかし、4世紀末にキリスト教がローマ帝国の国教となると、「人間は神より劣る」というキリスト教の考えにより、個人を描く肖像文化は一時的に廃れていきました。
作者未詳《フランス王ジャン・善良王の肖像(ジャン・ル・ボン)》1350年頃
14世紀ごろ、王侯や高位聖職者といった「高貴なる人びと」が、画家に対して自分の肖像画を制作するよう依頼します。これにより、再びヨーロッパで肖像画が描かれ始めました。
こちらは、世界最古の肖像画として知られる《フランス王ジャン・善良王の肖像》。モデルが横向きで描かれているのは、古代ローマのコインに描かれた肖像画をお手本としているからだそうです。
本作は、フランス・ルーヴル美術館が所蔵しています。
さらに、肖像画は15世末ごろになると、ますます発展していきます。
このころ、古代ギリシャ・ローマ世界の秩序を規範として「古典復興」をスローガンとした運動である「ルネサンス」の思想が、イタリア・フィレンツェを中心に興りました。
教会による支配への反発や経済の発展による社会の変化にともなって、人びとは自由で人間らしい生き方を求め、古代ギリシャやローマに見られる「人間を中心とした文化」を理想とするようになります。
レオナルド・ダ・ヴィンチ《モナ・リザ》1503₋06年
ルネサンス期の肖像画を象徴する作品である、レオナルド・ダ・ヴィンチの《モナ・リザ》。
《モナ・リザ》の「モナ」はマドンナ、つまりは婦人という意味で、直訳すると「リザ婦人」となります。モデルは、フィレンツェの名士、ジョコンダの妻というのが現在は定説となっています。
ダ・ヴィンチが活躍した時代以降、魅力的な肖像画がたくさん描かれるようになり、肖像画は歴史画に次ぐ重要な絵画ジャンルとして発展していきました。
※レオナルド・ダ・ヴィンチについて、詳しく知りたい方はこちら
ジャック=ルイ・ダヴィッド《サン=ベルナール峠を越えるボナパルト》1801年
フランス革命の英雄、ナポレオンの勇ましい姿が描かれた本作。見たことがある人も多いのではないでしょうか?
タイトルに注目すると、ナポレオンではなく「ボナパルト」が使われていますが、これは、ナポレオンが皇帝に即位する前の統領時代の姿であることを示しています。
帝位につく前、ナポレオンは「ボナパルト」と苗字で呼ばれており、即位後に「ナポレオン」と呼ばれるようになったそうです。
本作では、ナポレオンの“英雄”としての側面が強調して描かれています。若く勇ましい将軍というイメージを各地で宣伝し、フランスの民衆の心をつかみました。
ナポレオンは、本作の制作に対してあまり協力的ではなかったそう。しかし、仕上がった作品をみて大変気に入ったらしく、何枚もレプリカを注文したといいます。
原作はフランスのマルメゾン博物館が所蔵し、そのほかヴェルサイユ宮殿など、ヨーロッパの主要宮殿でも保管されています。日本では、東京富士美術館が所蔵していますよ!
ヴィジェ=ルブラン《ガリア服を着たマリー・アントワネット》1783年
フランス国王ルイ16世の王妃であり、フランス革命で処刑された悲劇のヒロイン、マリー・アントワネットの姿を描いた作品です。
最新のファッションや流行に敏感だったマリー・アントワネット。本作では、当時流行したローブ・アン・シュミーズ(ガリア(*)風ドレス)を身にまとっています。
*ガリア:古代ヨーロッパの、ケルト人(ガリア人)居住地域のこと。現在のフランス、ベルギーの全域から、オランダ南部、ドイツのライン川左岸、スイスの大部分、イタリア北部を含む領土を持っていました。
ヴィジェ=ルブラン《麦わら帽子の自画像》1782年
本作を描いたのは、女流画家ヴィジェ=ルブラン。彼女はマリー・アントワネットのお抱え肖像画家でした。
ルブランは、その人物の特徴をとらえつつ、モデルを理想的な姿で描くことが得意で、女流画家としては異例の高評価を受けていました。
また、ルブラン自身の容姿も美しかったそうで、自画像を何枚も残しています。
一方、東洋や日本では、古くから肖像画が描かれていました。特に、中国では肖像画は、早くから絵画の主要なジャンルとして確立されています。
また、日本の絵画は中国から強い影響を受けて確立されていったことから、肖像画は日本でも多く残されています。
とくに有名なのが、歴史の教科書でもおなじみ、聖徳太子を描いた肖像画「唐本御影(とうほんみえい)」です。
本作は、唐の時代の肖像画の形式を引き継いだ、日本における最初の肖像画といわれています。
国内外で、主要な画家によって描かれた肖像画を所蔵する美術館を、一部紹介します。
千葉県佐倉市にあるDIC川村記念美術館は、DIC株式会社が関連企業とともに収集してきた美術品を公開する施設です。
同館が所蔵するレンブラント・ファン・レイン(1606-1669)が描いた肖像画《広つば帽を被った男》。
本作は、MOA美術館にある《自画像》、アーティゾン美術館の《聖書あるいは物語に取材した夜の情景》と並び、日本のパブリック・コレクションに所蔵されている数少ないレンブラントの油彩画のひとつとして知られています。
日本初の写実絵画専門美術館であるホキ美術館。2010年11月3日に千葉市緑区に開館しました。
ホキ美術館コレクション第一号の森本草介《横になるポーズ》や、野田弘志「崇高なるもの」OP.7など、さまざまな肖像画を所蔵しています。
肖像画のほかにも、写真と見間違うほどの風景画なども展示されていますよ。
※関連コラム:学芸員の太鼓判!/ホキ美術
ナショナル・ポートレートギャラリーは、肖像画を介してイギリスの歴史と文化を築いた人びとをより理解し、肖像画を保存する目的のため1856年に設立されました。
現在では世界最大の肖像画コレクション数を誇り、絵画だけでなく、写真、彫刻といったさまざまなジャンルにおける偉人・著名人の肖像作品約1400点を常時展示しています。
スマートフォンを使ってかんたんに、家族や友人などのそのときの姿をとどめておくことができる現代。
他者、あるいは、自分自身の思い出や記録は、写真のない時代の人たちも残しておきたいと思っていたことがわかります。
気になる肖像画があったら、自分でも調べてみてください。描かれた偉人たちの肖像画を観て、その人やその時代に思いを馳せてみると、美術展がもっとおもしろくなりますよ。
次回は、かわいらしい犬の絵画で有名な「円山応挙」について詳しくご紹介します。
お楽しみに!
【参考書籍】
・早坂優子『巨匠に教わる 絵画の見かた』株式会社視覚デザイン研究所 1996年
・早坂優子『鑑賞のための 西洋美術史入門』株式会社視覚デザイン研究所 2006年
・岡部昌幸 監修『西洋絵画のみかた』成美堂出版 2019年
・木村泰司『知識ゼロからの肖像画入門』幻冬舎 2015年