ハプスブルク家/10分でわかるアート
2024年12月18日
密やかな美 小村雪岱のすべて/あべのハルカス美術館

あべのハルカス美術館で、「密やかな美 小村雪岱のすべて」が開催中です。
大正から昭和にかけて活躍した美術家・小村雪岱(こむらせったい、1887-1940)。
日本画をはじめ、書籍の装幀や新聞・雑誌の挿絵など、多彩な分野で独自の美意識を表現しました。
情緒と静けさに満ちた雪岱の画業を幅広く紹介する本展は、大阪では初となる大規模展。
その「密やかな美」の全貌に触れられる貴重な機会です。

左から:小村雪岱《菅公幼少》1904年、小村雪岱《写生 ヤマユリ》1904~08年 清水三年坂美術館所蔵(展示:いずれも前期)、小村雪岱《柳》1908年 (有)田中屋所蔵(展示:12/27~2/8)
明治20(1887)年、小村雪岱は埼玉県川越市に生まれました。
父の没後、母は小村家から離籍となり、雪岱は父の実弟・小村萬吉のもとで育ちます。
その後、14歳の時に父の実妹・市川美保の義実家に寄宿。
15歳で上京してからは、日本橋に住む書家・安並賢輔の書生として暮らしながら、絵を描くことに強い関心を抱くようになります。
そして17歳で、東京美術学校(現・東京藝術大学)日本画選科に入学。
そこで古典絵画の模写や写生に励み、絵画の基礎を学びました。

小村雪岱《青柳(絹本着色)》1924年頃、小村雪岱《落葉(絹本着色)》1924年頃 埼玉県立近代美術館所蔵(展示:いずれも前期)
会場に入ってすぐの「プロローグ」では、明治期の日本橋の情景を描いた《青柳(絹本着色)》をはじめとする作品群が並びます。
これらは、雪岱が10代を過ごした当時の風景を思い描きながら、38歳の頃に描いたもの。
江戸の面影が残る日本橋界隈の季節の移ろいが、雪岱らしいモダンさと柔らかな色彩で表現されています。
後期に展示予定の《雪の朝(絹本着色)》でも、「余白」と「静けさ」を通して、その独自の世界観を感じることができそうです。

小村雪岱《模写 光明皇后》制作年不詳 清水三年坂美術館所蔵、小村雪岱《打刀図》1910年 弥生美術館所蔵(展示:いずれも前期)
雪岱の美術家としての人生には、日本画家や文学者、出版人、舞台人といった数多くの人たちとの交流と協働がありました。
本展では、その「人とのつながり」に光をあてながら、雪岱の代表作を中心に約600点の作品と資料を紹介。
雪岱が作り出した「密やかな美」の世界観を、じっくりと堪能することができます。

「密やかな美 小村雪岱のすべて」展示風景 あべのハルカス美術館
雪岱が装幀の仕事をはじめるきっかけとなったのが、小説家の泉鏡花です。
雪岱は学生時代に鏡花の小説を読み、その世界観に引き込まれていきました。
美術学校を卒業後、仕事の関係で訪れた宿で、憧れていた鏡花と出会います。二人はそこから親交を深めていきました。

小村雪岱《泉鏡花『日本橋』》1914年9月18日 牙鳥文庫/(有)田中屋/さいたま文学館所蔵(展示:通期)
偶然の出会いから約5年後、雪岱は鏡花の書籍『日本橋』の装幀者に選ばれます。これが雪岱の装幀本第一作目となりました。
この作品で10代を過ごした「日本橋の情景」を巧みに描き出した雪岱は、その後、鏡花本の大半を手掛けるようになっていきました。

「密やかな美 小村雪岱のすべて」展示風景 あべのハルカス美術館
このほか、雪岱が着実に実績を積み重ねていった装幀本も数多く展示されています。

「密やかな美 小村雪岱のすべて」展示風景 あべのハルカス美術館
大正期になると、雪岱は資生堂の意匠部での勤務を機に装幀や挿絵などを担当。さらに多くの古美術を目にする機会を得ることで、少しずつ「雪岱スタイル」が形作られていきました。

小村雪岱《土師清二「旗本伝法」挿絵原画画帖》『東京日日新聞/大阪毎日新聞』1937年1月23日~9月19日連載 清水三年坂美術館所蔵(展示:通期)
新聞や雑誌の挿絵、そして本物の1/50のサイズで描かれた舞台装置にいたるまで。バラエティに富んだデザインも本展の見どころの一つです。

左から:小村雪岱《「すみだ川」舞台装置原画》1931年4月 弥生美術館所蔵、小村雪岱《「一本刀土俵入」舞台装置原画》1931年7月 埼玉県立近代美術館所蔵(展示:いずれも前期)
大正、昭和という時代を経て成熟していった新聞や雑誌。雪岱は生涯で6000点以上もの挿絵を手掛けました。
まさに“大衆文芸の担い手”として、多忙でありながらも、その丁寧な仕事ぶりで信頼を獲得していきました。

「密やかな美 小村雪岱のすべて」展示風景 あべのハルカス美術館
雪岱の画業を語るうえで欠かせないのが、泉鏡花を囲む集い・九九九会です。
会費の「九円九十九銭」に由来するこの会には、作家の水上瀧太郎や日本画家の鏑木清方といった芸術家たちが集まっていました。
ここでも、多様な縁の広がりの中で大きな活躍を見せていった雪岱の「人とのつながり」が見てとれます。

「密やかな美 小村雪岱のすべて」展示風景 あべのハルカス美術館
長年、敬愛していた泉鏡花が世を去った翌年に、その生涯を終えた雪岱。
生前の円熟期の作品群とあわせて、最後の作品となった《林房雄「西郷隆盛 第二部 月暤の巻」》の挿絵原画なども紹介されています。

小村雪岱《おせん》1941年頃 埼玉県立近代美術館所蔵(展示:前期)
プロローグにはじまり、全8章からなる本展の最後・「エピローグ」には、雪岱の没後に仲間たちが手がけた作品などが並びます。
自身が携わる作家たちに真摯に寄り添い、向き合い続けた雪岱の25年間の画業。
最後の最後まで、その真髄に触れることができました。

「密やかな美 小村雪岱のすべて」展示風景 あべのハルカス美術館
雪岱の没後85年という節目の年に開催された本展。
作家や役者たちに寄り添い、その“素材”を見事な意匠で際立たせた雪岱の一生が、ぎゅっと濃縮されているような展覧会でした。

「密やかな美 小村雪岱のすべて」ミュージアムショップ あべのハルカス美術館
会場の最後には、雪岱の柔らかな色彩が魅力の作品をモチーフにした、素敵なオリジナルグッズも豊富です。
日本画に詳しくなくても、装幀や挿絵、舞台美術とジャンルが多彩なため、初めて雪岱を知る人でも楽しめる内容でした♪
【前期】12月27日~2月1日
【後期】2月3日~3月1日