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2024年11月21日
「10分でわかるアート」は、世界中の有名な美術家たちや、美術用語などを分かりやすく紹介する連載コラムです。
作家たちのクスっと笑えてしまうエピソードや、なるほど!と、思わず人に話したくなってしまうちょっとした知識など。さまざまな切り口で、有名な作家について分かりやすく簡単に知ってもらうことを目的としています。
今回は、江戸時代のアヴァンギャルドな画家のひとり「伊藤若冲」について詳しくご紹介。
「この作品を作った作家についてもう少し知りたい!」「美術用語が難しくてわからない・・・」そんな方のヒントになれば幸いです。
色鮮やかでリアルな花や鳥などを描いた花鳥画で知られる画家、伊藤若冲(いとう じゃくちゅう/1716-1800)。
平成に入ってから人気が急上昇した珍しい人物で、国内で若冲展、あるいは若冲の作品を出品した展覧会が開催されると、たちまち評判を呼ぶほど人気の高い画家として知られています。
若冲は、「琳派」を大きく発展させた尾形光琳が亡くなった年に、京都の中心地にある錦市場の青物問屋「升屋」の長男として生まれました。
問屋とは、生産者または仲買・小売などの商人に商売する場所を提供し、そこで商品を販売させて、売り場の使用料を徴収する業者のこと。特に若冲の実家がある錦市場は、さまざまな商人が商売をする場所を求めてやってくる場所でした。
彼と親交のあった禅僧、大典(だいてん)によると、「若冲の家は、錦市場にやってくる商人たちに場所を提供し、代金を取れば、じゅうぶんな利益を上げることができた」と語っています。
23歳で家業を継いだ若冲。しかし、絵の世界にばかり興味を示していたため、40歳で弟に家業を引き継ぎ、自身は隠居してしまいます。
隠居後は、お金持ちの家で育った人らしく、高価な材料を惜しみなく投入し、さらに時間もたっぷりかけて現代までに残るすばらしい作品を制作しました。
そのうちのひとつが、『動植綵絵』です。
伊藤若冲『動植綵絵』のうち、左から
『菊花流水図』1765-66年/『蓮池遊魚図』1761-65年/『群魚図』1765-66年/『群鶏図』1761-65年
『動植綵絵』は、30幅の動植画と、同じく30幅の釈迦三尊像からなる細密画です。
弟に家を継いでもらったことで、好きな絵を好きなように描けるようになった若冲。高価な材料をそろえ、没骨法(もっこつほう*)や裏彩色(うらさいしき*)といったテクニックも駆使して、作画に没頭したといいます。
*没骨法:りんかく線を引かずにモチーフを描く手法のこと。
*裏彩色:絵絹の裏側から色を塗ること。
本作は、10年という長いスパンで制作されたため、制作の後半で描かれた作品には博物学的なものや、琳派の影響が認められるものもあります。
若冲だからこそ描けたぜいたくな作品である『動植綵絵』。完成後は、京都の相国寺になんとタダで寄付したそうです。
若冲が描いた『動植綵絵』を見た京都の人びとは、そのリアルさに大変驚いたのだとか! 以降、若冲の人気は爆発的なものとなりました。
若冲の作品をイメージしてくださいと言われて、真っ先に思いつくのはにわとりが描かれた作品ではないでしょうか。
40歳で隠居した若冲は、その家の庭で何十羽ものにわとりを飼っていたそうです。そのにわとりたちを入念に観察し、写生し続け、独学で画風や技術を身に着けました。
そんな「鶏の画家」とも呼ばれる若冲の作品のなかでも、大阪・西福寺本堂の仏間を飾る『仙人掌群鶏図』(さぼてんぐんけいず)は、と美術史に残るほどの傑作として知られています。
伊藤若冲 重要文化財『仙人掌群鶏図』1790年
寺に残る記録によると、本作は西福寺の檀家で薬種問屋の吉野寛斎という人物が、若冲に依頼して描かせたそうです。
若冲が75歳のときに手がけた作品であるという落款(サインのようなもの)があり、1788年に京都市内を焼き尽くした「天明の大火」で家を失った若冲が、西福寺に身を寄せていた半年のあいだに制作されたものだと考えられています。
『動植綵絵』とは違い、まるで家族のように、ほほえましいようすで描かれたにわとりたち。ジッと鑑賞し続けていると、彼らの声が聞こえてくるようなリアルさもあります。
京都の伝統文化のなかで感性を磨き、若い頃から絵を描いていた若冲。狩野派系の町絵師や写生画の専門家たちから絵を教わっていたといいます。
仕事より絵、もっといえば、勉強も絵というほど、絵を描くことが大好きだった若冲は、中国の新しい花鳥画なども積極的に学び、オリジナル技法を開発していきました。
そのひとつが「升目描き」と呼ばれる技法です。『樹花鳥獣図屏風』は、この技法を使って制作されました。
画面に約1cm四方のマス目を描き、そのなかにさまざまな色を塗り重ねて、モチーフを描いた本作。不思議な描き方ですが、これは西陣織の下絵からインスピレーションを受けたといわれています。
升目描きによる若冲作といわれている現存作品は、『樹花鳥獣図屏風』を含めて3作品あるそうです。
なお、『樹花鳥獣図屏風』は静岡県立美術館に所蔵されています。時期によっては、特別公開もされれているそう。展示時期など、詳しい情報については美術館公式サイトをご確認ください。
奇想の画家、伊藤若冲について詳しく紹介しました。いかがでしたか?
ちなみに、現在の錦市場内の「升屋」があった場所には、立て看板が立っています。錦市場は「京の胃袋」と呼ばれており、総菜や漬物、乾物、魚、京野菜などを扱う店が並び、連日にぎわっているそう!
京都に旅行する際は、若冲の生家跡地を見るために、錦市場へ訪れてみてはいかがでしょうか。
次回は、日本美術のテーマのひとつである「禅画」について詳しくご紹介します。
お楽しみに!
【参考書籍】
・矢島新『マンガでわかる「日本絵画」の見かた 美術展がもっと愉しくなる!』誠文堂新光社 2017年
・佐藤康宏『アート・ビギナーズ・コレクション もっと知りたい 伊藤若冲 生涯と作品 改訂版』 東京美術 2006年