ロックフェラー・コレクション花鳥版画展 北斎、広重を中心に/千葉市美術館

北斎・広重・若冲も!海を渡った花鳥版画の至宝、35年ぶりに里帰り【千葉市美術館】

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2026年1月28日

北斎・広重・若冲も!海を渡った花鳥版画の至宝、35年ぶりに里帰り【千葉市美術館】

千葉市美術館にて、開館30周年を記念する特別展「ロックフェラー・コレクション花鳥版画展 北斎、広重を中心に」が、2026年3月1日(日)まで開催されています 。

ロックフェラー・コレクションのはじまり

(左から)アビー・オルドリッチ・ロックフェラーの写真、歌川広重 《水葵に鴛鴦》  天保3-6年(1832-35) 、歌川広重 《紫陽花に川蝉》  天保3-6年(1832-35)

アメリカの美術学校ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン付属の美術館が所蔵するこのコレクションを築いたのは、アビー・オルドリッチ・ロックフェラー(1874-1948)

彼女は名門一族ロックフェラー家の一員で、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の設立にも尽力した人物です。

プロローグを飾る歌川広重の2作品は、アビーが最初に購入した作品。
その後10年以上にわたり、花鳥版画の収集を続け、最終的に700点を超える世界有数のコレクションを形成しました。

本展では、その中から葛飾北斎と歌川広重を中心に、厳選された163点の名品が、35年ぶりに日本で公開されます。

叙情豊かな広重の世界

コレクションの約半数を占めるのが広重の作品です。
2枚の《雪中椿に雀》は、冬の寒さの中で咲く椿と雀を描いた作品です。厳しい季節を生きる小さな命のぬくもりを、広重は優しいまなざしで描きました。

(左から)歌川広重 《雪中椿に雀》 天保3-6年(1832-1835) 、歌川広重 《雪中椿に雀》 天保3-6年(1832-35)

武家に好まれた鷹や、長寿を象徴する鶴を描いた吉祥図は、大短冊判という縦長の画面を活かした、ダイナミックな構図が見どころです。

(左から)歌川広重 《旭日巣籠の鶴》 安政元年(1854)3月、歌川広重 《旭日松に鷹》 嘉永5年(1852)4月

広重の花鳥版画の中には、俳諧や和歌などの詩歌が書き添えられた作品もあります。

なかでも《月に雁》は、記念切手の図柄にもなった代表作のひとつ。
画面には「こんなきれいな夜がまたあるだろうか」という句が記されています。

言葉と絵をあわせて味わうことで、作品の魅力がいっそう深まります。

歌川広重 《月に雁》 天保3-6年(1832-35)頃

本作には、芭蕉の弟子・宝井其角の「夕日が燕を山へと帰していくようだ」という句が添えられています。

太陽は描かれていませんが、この句があることで、夕日の光や夕暮れ時の空気感が鮮やかに浮かび上がります。

江戸時代の花鳥版画では、このように詩と絵が互いに魅力を引き立て合う、「詩画一体」の表現が楽しまれました。

歌川広重《姫海棠に群燕》天保3-6年頃

北斎がとらえた生命の躍動

一方、北斎は花や鳥のなかに潜む生命力を、大胆な構図、力強い筆致で表現しました。

《芥子》では、風にたわむ花を、まるで何かに牙をむくような荒々しい筆致で描いています。

葛飾北斎 《芥子》 天保2-3年(1831-32)頃

《鷽 垂桜》では、背景の深い藍色が、桜と鷽(うそ)を鮮やかに引き立てます。

注目すべきは、弧を描いて垂れる桜の枝に、鷽をあえて逆さまに配した大胆な構図。
これにより、今にも鳥が羽ばたきそうな一瞬の緊張感が見事に表現されています。

葛飾北斎 《鷽  垂桜》 天保5年(1834)頃

江戸の夏を彩った団扇絵の美

「団扇絵」とは、団扇に貼るために制作された浮世絵版画のことです。

夏の実用品として実際に使われたため、現存する数が極めて少ない作品群ですが、本展では良好な状態で保存されたものが19点も展示されています。

葛飾北斎 《露草に鶏》 天保3年(1832)頃

北斎の《露草に鶏》では、団扇の丸い画面に鶏の躍動感が巧みに表現されています。

桔梗、女郎花など秋草を描いた作品は、涼をとる道具にふさわしい清涼感が感じられます。

(左から)歌川広重 《月に秋海棠と桔梗と女郎花》 嘉永6年(1853)正月、歌川広重 《月に朝顔と撫子と女郎花》  嘉永期(1848-54)頃

ユーモラスで愛らしいのが、《燕のことろ遊び》。燕の尾羽を足に見立て、まるで人間のように「ことろことろ(鬼ごっこ)」に興じる姿が描かれています。

生き物の特徴を的確に捉えつつ、広重の遊び心が感じられる作品です。

歌川広重 《燕のことろ遊び》嘉永期(1848-54)頃

会場には千葉市美術館所蔵の江戸時代の団扇も展示されています。

実物を見ると、身近な道具にまで美を求めた、江戸庶民の豊かな感性が伝わってきます。

第4章「季節の風情「団扇絵」の名品」 展示風景

日本初公開!世界唯一の若冲版画

日本初公開となる伊藤若冲《雌雄鶏図》は、他に所在が確認されていない、世界で唯一の版とされています。

「拓版(たくはん)」という特殊な技法によって、黒い背景の中に白い鶏が浮かび上がる独特の効果を生み出す本作。
どこかユーモラスで愛嬌のある鶏の表情も、本作の大きな魅力です。

伊藤若冲 《雌雄鶏図》江戸時代(18-19世紀)

本展に関連して、7階展示室では「うるわしき摺物―縁をつむぐ浮世絵」が開催されています。

「摺物」とは、特別な注文で作られた非売品の豪華な版画のこと。千葉市美術館のコレクションから厳選された、贅を尽くした摺物の輝きをぜひご覧ください。

「うるわしき摺物―縁をつむぐ浮世絵」展示風景

かつてコレクターの自邸を飾ったように、千葉市美術館の展示空間も、愛らしい鳥や美しい花々で彩られています。

同じ「花鳥」というテーマでも、絵師によって表現はさまざま。その違いを楽しみながら、江戸の自然と美意識が息づく「花と鳥の楽園」で、心安らぐひとときを過ごしてみてはどうでしょうか。