志村ふくみ 百一寿/細見美術館

101歳の人間国宝・志村ふくみが織りなす色と言葉の世界【細見美術館】

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2026年3月17日

101歳の人間国宝・志村ふくみが織りなす色と着物の世界【細見美術館】

京都の細見美術館で、特別展「志村ふくみ 百一寿 -夢の浮橋-」が開催中です。

染織家・随筆家の志村ふくみは、紬織(つむぎおり)の重要無形文化財保持者(人間国宝)であり、101歳を迎えた今も活躍を続ける現代美術作家です。

『源氏物語』の世界を主題とした染織作品をはじめ、自然への深い思索から生まれた独自の色彩表現が活きる代表作、初公開の新作などが紹介されています。

人間国宝・志村ふくみの自然や言葉への想い、そして植物から生まれる染織の色の魅力に触れられる特別展です。(※会期中の展示替えあり)

テーマは『源氏物語』。
志村ふくみの色と文学


第1章「夢の浮橋」展示風景

1924(大正13)年、滋賀県近江八幡市に生まれた志村ふくみ。

31歳のときに思想家・柳宗悦(やなぎむねよし)の民芸運動に感銘を受け、母・小野豊の指導を経て植物染料や紬糸による織物をはじめます。

70年にわたる創作活動のなかで、さまざまな植物から色を引き出し、その「自然の色」を作品に昇華させてきました。

1990(平成2)年に紬織の重要無形文化財保持者(人間国宝)として認定されたほか、『一色一生』などの随筆でも知られています。


志村ふくみ 監修・都機工房 制作《夢の浮橋》2025年 個人蔵(通期展示)

志村は70代半ばから『源氏物語』をテーマにした連作を手掛けてきました。全3章で構成される本展のはじまりは、1章「夢の浮橋」。

作品のタイトルは各帖の名から取られ、物語の色や香り、情感が織物として表現されています。

今回とくに注目したいのが、本展のために制作された新作《朧月夜》と《夢の浮橋》。


左から:志村ふくみ《若紫》2007年 個人蔵(前期展示)、志村ふくみ 監修・都機工房 制作《朧月夜》2025年 個人蔵(通期展示)

《若紫》をはじめ多くの作品に使われている「紫」は、古くから高貴な色とされてきました。

紫は国産の紫草(ムラサキ)の根「紫根(しこん)」から抽出されていますが、土壌環境や暑さに弱く、絶滅危惧種に指定されています。

金糸を使って表現された月の光の加減と、希少な紫根から生まれた淡い紫の絶妙な色合い。思わずため息が出るような美しさでした。

関西初公開作品も!
新作能『沖宮』の全装束を展示


第2章「沖宮」展示風景

第2章では、熊本県天草出身の作家・石牟礼道子(いしむれみちこ)原作の新作能『沖宮(おきのみや)』の装束がずらりと並びます。

『沖宮』の舞台は、「島原の乱」の後の天草。干ばつに苦しむ村のために龍神への人柱になる少女・あやを、島原の乱を率いた天草四郎の亡霊が、生命の源「沖宮」へ導くというストーリーの能舞台です。


志村ふくみ 監修・都機工房 制作 舞衣《紅扇》2021年 個人蔵(前期展示)

本章では、志村ふくみが追求してきた色彩の魅力が表れた衣装が展示されています。

「死と再生」の物語である本作では、あやの舞衣《紅扇》の紅花で染め上げた鮮やかな「緋色」が目を引きます。


左から:志村ふくみ 監修・都機工房 制作 舞衣《大妣君》2020年 個人蔵(前期展示)、志村ふくみ 監修・都機工房 制作 小袖《Francesco》2020年 個人蔵(前期展示)

そして、天草四郎をイメージした小袖《Francesco》は、海の色を連想させる水縹(みはなだ)色がとてもさわやか。どちらも再演に向けて制作された、関西初公開の貴重な能衣装です。

東日本大震災の後、生命の尊さや自然への畏敬の念が薄れている現代社会に、石牟礼と志村は危機感を抱きました。

“自然に生かされている人間の在り方”を問い直すものとして生まれた作品群は必見です。

“小さな布”から生まれる志村ふくみの創造の世界


志村ふくみ《雛形(模様)》2006年 個人蔵(通期:前後期で展示替)

志村は、長年織ってきた着物の残り布である「小裂(こぎれ)」を自在に組み合わせ、新たなコラージュ作品を生み出してきました。

最終章「志村ふくみの世界」では、「裂」への想いが詰まった作品や、随筆家でもある志村の言葉が紹介されています。

志村は着物の残り布を「雛形」に当てはめることで、100枚以上の“小さな着物”に生まれ変わらせたのだそう。


第3章「志村ふくみの世界」展示風景

さらに、染織だけではなく「書くこと」も大切にしてきた志村。

本展では、日記のようにその時々の気持ちが伝わってくる書き物などを通して、志村独自の繊細な言葉の魅力にも触れることができます。


志村ふくみ《小裂帖「春・夏・秋・冬」》2012年 個人蔵(展示:「春夏」前期、「秋冬」後期)

《小裂帖「春・夏・秋・冬」》は、織りためた小裂を季節ごとのテーマに分けて箱に収めた作品です。志村のこだわりを感じる、それぞれの季節に合わせた箱の装幀も見どころですよ。

人間国宝・志村ふくみの自然への深い敬意や、色と言葉への尽きない探求心に触れられる素敵な展示でした♪

日常では体験できない“色と着物の世界”に触れよう


志村ふくみさんの長女であり、染織家・随筆家の志村洋子さん

「家族も驚くくらい元気」だという、御年101歳の志村ふくみ。

その表現をどのように次世代へ継承していくのか。また、気候変動などの影響で国内の染織材料の確保が難しくなっているという課題もあります。


志村洋子さん、長男の昌司さん・次男の宏さんご夫妻によるフォトセッション

志村ふくみの色と表現を次世代へつないでいくため、染料となる植物などの希少な材料を育てる取り組みも、家族で協力して進めているそう。本展では、そうした志村の創作の背景や思想にも触れることができます。

この春のお出かけに、ぜひ細見美術館で“色と織りの世界”に浸ってみてはいかがでしょうか。

Exhibition Information

展覧会名
志村ふくみ 百一寿 ― 夢の浮橋―
開催期間
2026年3月3日~5月31日
会場
細見美術館
公式サイト
https://www.emuseum.or.jp/
注意事項

前期:3月3日~4月12日
後期:4月14日~5月31日