河鍋暁斎/10分でわかるアート

10分でわかるアートとは?

10分でわかるアート」は、世界中の有名な美術家たちや、美術用語などを分かりやすく紹介する連載コラムです。

作家たちのクスっと笑えてしまうエピソードや、なるほど!と、思わず人に話したくなってしまうちょっとした知識など。さまざまな切り口で、有名な作家について分かりやすく簡単に知ってもらうことを目的としています。

今回は、幕末から明治にかけて活躍した浮世絵師「河鍋暁斎(かわなべきょうさい)」について、詳しくご紹介。

「この作品を作った画家についてもう少し知りたい!」「美術用語が難しくてわからない・・・」そんな方のヒントになれば幸いです。

「画鬼」と呼ばれた絵師・河鍋暁斎とは

河鍋暁斎(1831-1889)は、類まれな画力で日本のみならず海外でも高い評価を得た幕末・明治の絵師です。

7歳のころに浮世絵師の歌川国芳(1797-1861)に入門・師事し、武者絵、妖怪絵、美人画、戯画など、幅広い画題で活躍しました。

歌川国芳について詳しく知りたい方はこちら▼

幼い頃から興味を持ったものを一心不乱に写生し続けてきた暁斎。

9歳で神田川で拾った生首を写生したという逸話も語られており、のちに「画鬼」として呼ばれるようになります。

ちなみに、誰もが知る浮世絵師・歌川広重(1797-1858)も、暁斎と同時代に活躍していました。

広重は暁斎同じ歌川派に属し、良きライバルとして互いに影響を与え合っていました。

歌川広重について詳しく知りたい方はこちら▼

河鍋暁斎の代表作

河鍋暁斎の代表作には、武者絵《月百姿》、妖怪絵《惺々狂斎画帖》、風刺画《阿武山人狂画百面相》などがあります。

歌川広重が風景画を得意とするなか、暁斎は数多くの画題に取り組み、その才能を発揮してきました。

特に妖怪画は、その発想力と再現性に驚く作品が多くあります。

ここでは代表的な作品の一部を紹介していきます。


河鍋暁斎「猫又と狸」

《鳥獣戯画 猫又と狸》は、暁斎の描いた妖怪画として有名な作品の一つ。まるで人間のように踊る猫又と狸(たぬき)のユーモラスな姿に注目です。

狸の大きなお腹や猫又のふたまたの尻尾など、日本の民話に登場する動物たちの特徴を捉えており、細部までこだわられていることが伝わります。


河鍋暁斎「暁斎百鬼画談」

《暁斎百鬼画談》は、従来の妖怪画とは異なり、親しみやすい画風が特徴です。

天狗や河童、鬼、狐、猫又、狸など数多くの妖怪が描かれており、のちの妖怪画に強く影響を与えた作品となります。

また、西洋の美術技法を取り入れるなど、独創的な表現も用いられています。


河鍋暁斎「惺々狂斎画帖」(1853-1889)

22年という長い年月をかけて描かれた《惺々狂斎画帖》。暁斎が亡くなる直前まで描いていたとされる作品です。

本作からは、彼の絵に対する想いと決して忘れないユーモラスさを感じます。

「妖怪」という恐怖を表す存在に、自身が得意とするユーモラスな表現を入れた暁斎の妖怪画。そのギャップに惚れ惚れする作品が多くあります。

暁斎の良き理解者である愛娘を弔う絵
《地獄極楽めぐり図》


河鍋暁斎「地獄極楽めぐり図」(1869-1872)

《地獄極楽めぐり図》は、地獄と極楽のようすを描いた絵巻物で、暁斎の代表作の一つとして知られています。

本作は、暁斎の有力なパトロンであった勝田五兵衛の愛娘「たつ」に贈られた作品です。

たつは14歳という若さで亡くなってしまい、弔いのため五兵衛が暁斎に依頼して描かれた背景があります。

地獄と極楽という正反対の対象を描くことで、人びとに善業を勧め、悪行を戒めるという意味が込められた本作。

鮮やかな色使いからも、五兵衛が暗く悲しまないようこの作品を通して励みになるようにと情緒深い作品となっています。

《地獄極楽めぐり図》は、静嘉堂@丸の内(静嘉堂文庫美術館)が所蔵しています。

暁斎の画才をこよなく愛した外国人

暁斎の作品は、海外で高い評価を受けています。

その中でもお雇い外国人のイギリス建築家ジョサイア・コンドルは、24歳にして暁斎に弟子を申し出て師弟関係を築きました。

20歳以上も歳の差が離れているにもかかわらず、絵画の指導はもちろんのこと、一緒に旅行に行ったりとその仲はとても良好的なものでした。

ちなみに、暁斎はコンドルのことを「コンデル」と呼んでいたそうです。

暁斎の死後もコンドルは、彼の作品を海外に広めるなど功績を讃えていることからも、師弟関係を超えた深い絆で結ばれていたことがわかります。

おわりに

今回は河鍋暁斎について紹介しました。

幕末日本を代表する絵師の一人であり、その多くの作品からは、彼のユーモア的センスと独創的な発想力が掛け合わさり魅了されるものがあります。

埼玉県蕨市には、暁斎の曾孫が設立した美術館「河鍋暁斎記念美術館」があります。

1、2ヶ月ごとにテーマを替えて暁斎のバラエティに富んだ作品を展示する同館。

実際に作品に触れることでしか味わえない感覚もありますので、ぜひ実物を鑑賞してより楽しんでいただければと思います。

【参考書籍】
・ATP書房『デジタルで見る浮世絵 鬼才 河鍋暁斎 暁斎画談』ATP書房 2021年
・野口米次郎『河鍋暁斎:酒酔の画鬼。北斎の再来。』近代芸術研究会 2017年