コレクションの舞台裏/埼玉県立近代美術館

7人の学芸部スタッフがつむぐ「美術館の舞台裏」とは【埼玉県立近代美術館】

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2026年3月31日

7人の学芸部スタッフがつむぐ「美術館の舞台裏」とは【埼玉県立近代美術館】

美術館活動の「舞台裏」をのぞき見ることができる、ちょっと変わった展覧会が埼玉県立近代美術館で、2026年5月10日(日)まで開催中です。

展覧会タイトルは「コレクションの舞台裏」。本展は、埼玉県立近代美術館の学芸部7名のスタッフが、同館のコレクションにそれぞれの視点を当て、新しい側面を掘り起こすという内容になっています。

ミュージアムの主要な仕事でありながら、通常はなかなか見ることができない「収蔵品の調査研究」や「教育普及活動」の舞台裏を紹介する「コレクションの舞台裏」展。ここでは本展の見どころをご紹介します。

7人の学芸部スタッフがつむぐ展覧会

“ミュージアム”と聞いて思い浮かべるのは、テーマに沿った作品が並ぶ展示室ではないでしょうか。

例えば、印象派の展覧会ならモネやルノワールの作品。日本美術なら浮世絵や仏像といった作品が展示されていますよね。

こうしたミュージアムの展示空間は、作品が足を生やし、自発的に展示ケースに並んでできるのではなく・・・
ミュージアムで働く“学芸員”という人たちが、主役となって作り上げます。

ミュージアムは、学芸員を含めた「人」がいることで、成立する空間なのです。

展示準備中の学芸員の机(イメージ)

埼玉県立近代美術館は1982年に開館しました。開館以来、継続的な収集活動により、現在約4,200点の作品を収蔵しています。

西洋近代絵画や埼玉ゆかりの美術家を核とした同館のコレクション。本展は、その膨大なコレクションに7名の学芸部スタッフが光を当て、彼らが今注目する収蔵品を紹介するものです。

7名の学芸部スタッフが、それぞれ作りだした展示空間も必見。各スペースごとに、担当者の「色」が出ているようです。

館の「顔」となる作品の軌跡

キスリングの《リタ・ヴァン・リアの肖像》とアンドレ・ドラン《浴女》は、埼玉県立近代美術館の人気のコレクション。
コレクション展の開催時には、展示される機会の多い作品です。

キスリング《リタ・ヴァン・リアの肖像》1927年 埼玉県立近代美術館蔵

《リタ・ヴァン・リアの肖像》のモデルは、パリでヴァン・リア画廊を営んでいたレオナール・ヴァン・リアの妻リタです。

ヴァン・リア夫妻はドランとも交友がありました。彼もまた、リタ夫人の肖像を少なくとも14点描いていると記録されています。

アンドレ・ドラン《浴女》1925年 埼玉県立近代美術館蔵

そしてドランの《浴女》は、コレクターや美術評論家として活躍した福島繁太郎の旧蔵品です。福島もまた、ヴァン・リア画廊にたびたび足を運んでいました。

ここでは、両作品がいかにして埼玉県立近代美術館のコレクションの一員となったのか、両作品の来歴などの裏側を紐解くことで浮かび上がる、作品をめぐる物語を紹介します。

会場では、作品以外にも、学芸員による解説パネルや、展示されている関連資料を時間をかけて読み解いてみてください。

「綺麗な絵画作品」と思うことから、一歩踏み込んだ鑑賞体験が楽しめることでしょう。

調査・研究の現在地を紹介

埼玉県立近代美術館では、2022年に埼玉県にゆかりのある画家、田中保(たなかやすし)の回顧展を開催しました。

田中保はシアトルとパリで活躍した画家で、没後は長らく忘れ去られた存在でした。

22年開催の回顧展終了後、パリから同館に驚きの知らせが届きます。
それは、田中が1924年から亡くなるまで暮らした旧アトリエで、未知の書簡や写真を含む資料がまとまって発見されたという内容です。

本展では、今回新しく発見された資料を読み解きながら、学芸員の大切な仕事のひとつである調査・研究の現在地を紹介します。

田中保《キュビストA》1915年 埼玉県立近代美術館蔵

注目の作品は、本展公式図録の表紙を飾る《キュビストA》。裏面には、田中の妻ルイーズ・カンに宛てた詩が書かれています。

通常の壁面への展示ではなく、本作は裏表が見えるように紹介されています。絵画の裏面を見る機会は、なかなかないので会場でじっくりとご覧ください。

田中保《キュビストA》の裏面 1915年 埼玉県立近代美術館蔵

図録作成の裏側も

展覧会公式図録 1300円(税込)

展覧会の開催時に作成される図録。
展覧会の趣旨や展示作品の情報、図版、解説などが掲載された本です。図録をコレクションする方も多いのではないでしょうか。

本展では、展覧会図録の作成の裏側も少しだけ紹介。

調査・研究、そして展示と大忙しな学芸員は、なんと図録の文章執筆まで幅広い業務を行っています。

1冊の図録が生まれるまでの長い道のりを知ることができます。

美術鑑賞が楽しくなる展覧会

埼玉県立近代美術館の学芸部スタッフが、いま注目する収蔵品の調査研究の成果が見られる「コレクションの舞台裏」展。

ふだん何気なく楽しんでいる美術鑑賞が、より楽しくなるヒントがある展覧会でした。

また、本展では美術史上に名を残すことはなかったものの、埼玉で地道に活動をつづけた作家にもスポットを当てて紹介しています。

この機会じゃないと見ることのできない作品もありますので、ぜひ足を運んでみてくださいね。