PROMOTION
クロード・モネの世界にひたる。日本初公開作品を含む〈睡蓮〉などを堪能【国立西洋美術館】
2024年11月1日
スフマートでは、「つくる」「つたえる」という2つの視点をもとに、アートに関係するさまざまな人へのインタビューを隔週・前後編でお届けします。
西武池袋線「中村橋」駅から徒歩3分と、アクセス良好な場所に位置する練馬区立美術館。日本の近現代美術を中心にさまざまな企画展を開催し、多様な美術作品を紹介するとともに練馬にゆかりのある作家の作品をはじめとした作品収集や調査研究を行っています。
練馬区立美術館館長 秋元雄史さん ※撮影時、マスクを外していただきました。
今回お話をお聞きしたのは、練馬区立美術館の館長を務める秋元雄史さんです。
前編では、秋元館長が練馬区立美術館でどのように芸術・美術を発信しているのかについてお聞きしました。
──練馬区立美術館が開館した背景をお聞かせください。
練馬区立美術館は、1985年10月1日に都内3番目の区立美術館として開館しました。当館は開館当初から、日本の近現代美術を中心に多種多様な切り口の展覧会を開催しています。
練馬区民のみなさんをはじめ、来館していただく方に寄り添った“開かれた美術館”を目指しており、区民ギャラリーと創作室の貸出も実施しています。ほかにも、子ども連れの来館者の方にも美術の面白さを体感してもらえるようなワークショップも定期的に開いています。
──都内で3番目に開館した区立美術館というのは驚きです。隣接する緑地も、2015年に生まれ変わったと聞いています。緑地はどのようなコンセプトでリニューアルされましたか。
練馬区立美術の森緑地は、天然芝を敷きつめた園内に20種類・32体のファンタジーな動物たちの彫刻を展示しています。キリンやゾウ、ライオンなど誰もが一度は見たことのあるなじみ深い動物たちを、誰も見たことのないアート作品にし、見て触れて想像を巡らせる「幻想美術動物園」をコンセプトとしています。
緑地の入口では、当館のロゴマークから生まれた「ネリビー」が皆さんをお出迎えし、幻想美術動物園を案内してくれますよ。ネリビーの元となっている当館のロゴマークは、公募により最優秀賞に選ばれた作品をベースにデザインしています。このデザインは、1粒の種が芽吹いて実となっていく「誕生から実り」をイメージとし、当館が地域に根付いた美術への思いを発信拠点となることを願いに込めています。
──練馬区ゆかりの作家の作品のほかにも、日本の近現代美術を中心に紹介している理由について教えていただけますか。
例えば、コレクターや企業などが主導している美術館であれば、浮世絵や西洋美術といった、その美術館独自のコンセプトに沿った作品を紹介する展覧会を開催します。しかし区立美術館である当館は、区民の皆さまはもちろんどなたにでも満足いただける作品として、馴染みやすい近現代美術を中心に紹介しているのです。
また、国内の近現代美術は今もなお現役で活躍されている作家が多いことから、コレクションしやすいというのも背景としてあります。
──なるほど。日本の近現代美術だと、美術初心者の方も親しみやすそうですよね。練馬区立美術館ならではの特徴はありますか。
駅からも近い美術館ですので、近隣の方に気軽に立ち寄っていただけるのが特徴ではないでしょうか。実際、当館では“親しみやすさ”を意識しています。
例えば、2021年には練馬区に長く居住した漫画家・馬場のぼるにスポットライトを当てた「没後20年 まるごと馬場のぼる展 描いた つくった 楽しんだ ニャゴ!」(2021年7月25日~9月12日)と題した絵本の展覧会を開催しました。馬場のぼる氏は、絵本『11ぴきのねこ』シリーズの作者であり、三世代にわたる同シリーズのファンはもちろん漫画を愛読していた年配の方など、さまざまな層の方に来館いただきました。
昨年の「収蔵作品による 小林清親展【増補】-サプリメント-」(2021年11月23日~ 2022年1月30日)は、小林清親を長年研究していた当館の加藤陽介学芸員の研究成果として、とても評判の良い展覧会になりました。
小林清親展では未公開や再発見の作品を展示しましたが、今後もあまり世に出ていない作家や作品をクローズアップして、他の美術館にはないスタイルで美術の幅広さも発信していきたいです。
「収蔵作品による 小林清親展【増補】-サプリメント-」(2021年11月23日~ 2022年1月30日)展示風景 スフマート編集部撮影
また、2022年6月26日からは、画家・舞台美術家として活躍した朝倉摂(あさくら せつ)の展覧会の開催を予定しています。このように、画家のみならず絵本作家や舞台芸術家といったさまざまなジャンルで活躍する作家を取り上げ、より幅広い視点で美術に親しんでもらえるような工夫をしています。
──来館者からの感想などで印象深い思い出はありますか?
このエピソードは、当時展示を担当した当館の学芸員より聞いたのですが、当時高校生だった来館者が展覧会を観て「感動した」と伝えに来てくれたことがあったそうです。
その展覧会は2015年に開催された開館30周年記念「アルフレッド・シスレー展-印象派、空と水辺の風景画家-」なのですが、印象派を代表する風景画家のアルフレッド・シスレーを紹介するのと同時に、当時のフランスにおける河川工学の発達についても紹介するものでした。単なる印象派展ではなく、「なぜ印象派の画家が河川にギリギリまで近づいて、時には舟まで浮かべて描けるようになったのか」という当時の社会状況まで理解できる展覧会でした。
このような造形的な美しさだけで終わらない、社会史実的な観点や生活文化史的な観点が加わった展覧会を構成することは、観客の視野を広げるのに一役買ってくれます。本展に足を運んでくれた高校生は「最初は単なる印象派展と思って来たら、まったく予想もしないような切り口で驚きました。」という感想を伝えてくれました。そう感じたのは、美術作品の鑑賞を通じて知識の広がりを実感したからです。
このようなエピソードを聞くととても嬉しくなります。館を運営するスタッフもやりがいを感じる瞬間です。
──すてきなエピソードですね。練馬区立美術館では「トコトコ美術館」などのワークショップや社会科見学を開催されていますね。子どもに対して美術の面白さを伝える際、意識しているポイントについて教えてください。
大人向けのものも含め「敷居を単に下げて簡単にする」のではなく、「美術に対するさまざまなな入口を用意する」という意識を持ってすべての事業を行っています。お子さんに対してはもちろん対象年齢などでアプローチは変えますが、“子ども扱い”はしないようにしています。また、集団であってもなるべく一人ひとりのようすを見ながら話すように気を付けています。
こうした活動から子どもたちに美術や美術館が存在することを記憶してもらい、なにかしら心に残るよう、話題や見せ方を考えて工夫しています。
──ワークショップなどは、どのような方がいらっしゃいますか。
子どもから大人まで、幅広い方が参加してくれます。特に館内事業では常連の方も多く、小学生で初めて来館し、高校生になって大人向けの講座に参加するという例もあります。長年当館に足を運んでくれているので、ワークショップでの作品づくりはもちろん、美術鑑賞にも参加していただいています。
親子で長年ご参加いただいている方の中には、「子どもがこんなことができるようになった」など、成長を感じてくださる方も多く、ワークショップを継続することの重要さを感じています。
最近ですと、小学4年生時から通ってくれている高校1年生の来館者から感想を書いたお手紙をいただきましたよ。
──「スクールプログラム」などの学校関連事業も取り組まれていますね。どのような内容なのでしょうか。
スクールプログラムは、児童・生徒の皆さんに、作品鑑賞や施設見学、体験学習など、さまざまな角度から美術館をご利用いただくプログラムです。
団体鑑賞では、当館の担当者が、美術館での鑑賞マナーや展示の概要を説明し、美術館での過ごし方や見学のコツなどをお教えします。また当館の学芸員が各学校へ赴き授業のお手伝いをする「出張プログラム」もあります。
このほかにも、展覧会ごとに区内小中高等学校の先生を対象とした無料鑑賞会「ティーチャーズデイ」も開催するなど、より当館が皆さんの生活に寄りそうようなさまざまなプログラムを用意していますので、こちらもご活用いただければと思います。
美術ファンだけでなく、家族連れや学生の来館も多くある練馬区立美術館。まさに“まちの美術館”として多くの人たちに愛されていることがわかる、すてきなエピソードをたくさんお話いただきました。
2020年に開館35周年を迎え、現在は地域にさらに密着する美術館としてのリニューアルも企画されています。
後編では、秋元館長が考える美術館の楽しみ方についてお話を伺います。次回の更新もお楽しみに!