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2024年11月1日
「10分でわかるアート」は、世界中の有名な美術家たちや、美術用語などを分かりやすく紹介する連載コラムです。
作家たちのクスっと笑えてしまうエピソードや、なるほど!と、思わず人に話したくなってしまうちょっとした知識など。さまざまな切り口で、有名な作家について分かりやすく簡単に知ってもらうことを目的としています。
今回は、ロココ美術を代表する画家「ジャン・オノレ・フラゴナール」について詳しくご紹介。
「この作品を作った作家についてもう少し知りたい!」「美術用語が難しくてわからない・・・」そんな方のヒントになれば幸いです。
ジャン・オノレ・フラゴナール(1732-1806)は、フランスのプロヴァンス地方出身の画家です。
フラゴナールは甘美で官能的な世界を描くロココ美術最後の画家と言われ、盛期から末期かけて活躍しました。
同じくロココ美術を代表する画家フランソワ・ブーシェ(1703-1770)に師事したフラゴナールですが、ずっとロココ調の甘美な絵を描いていたわけではなく、元々は歴史画を描いていました。
20歳の時にはフランスの王立アカデミーのコンクールで受賞し、ローマ留学の経験もあるほど、アカデミーで評価されていたフラゴナール。
その後、歴史画よりも需要の多かったロココ美術へと方向転換し、貴族など上流階級の人びとから個人的に注文を受け、ロココ美術を代表する画家へとなっていきます。
フラゴナールの作品は、甘美で官能的な軽いタッチで描かれているのが特徴です。
ジャン・オノレ・フラゴナール《読者する娘》1776年 油彩 ナショナル・ギャラリー
柔らかそうなソファーに横向きで若い女性が集中して読書をしているようすが描かれた《読書をする娘》。
ルイ15世のもと始まったロココ美術は、1774年にルイ15世が逝去することにより衰退していきます。その後に描かれた本作は、甘美なロココ調の作品よりも落ち着いた色味の作品となっています。
こちらの作品は、2007年2月に発行された図書カード「名画シリーズ」のデザインとしても採用されました(現在は発行終了しています)。
ジャン・オノレ・フラゴナール《かんぬき》1777年 油彩 ルーヴル美術館
本作は色味などの雰囲気は歴史画を思わせるところもありますが、主題はロココ美術の特徴でもある閨房画(けいぼうが・貴族たちの寝室によく飾られて誘惑的な女性の姿を描いたもの)です。
女性を部屋に入れて出ていかないように「かんぬき」に手をかける男性と、抵抗するその姿にも優美な雰囲気のある女性が描かれています。
歴史画を描き、模範生のような絵描きの道を進んでいたフラゴナールですが、ロココ美術を描きはじめてからはアカデミーに属することはなく、上流階級の人びとから個人的に注文を受けて作品を制作していきます。
ジャン・オノレ・フラゴナール《ぶらんこ》1768年 油彩 ウォレス・コレクション
《ぶらんこ》は、サン・ジュリアン男爵から依頼を受けて描いたものです。当初は別の画家に依頼したとのことですが、主題を受け入れられずにフラゴナールの元に依頼がやってきました。
それもそのはず、この作品は不倫愛が描かれています。
ブランコに乗る女性は、足を大きく開いて足先にいる若い男性にスカートの中を見せています。この茂みに描かれた若い男性は、なんと依頼主のサン・ジュリアン男爵。そして奥の暗いところに描かれたブランコを押す男性は、彼女の夫です。
ブランコを押している夫の位置からは、男爵の姿は見えないのかもしれません。サン・ジュリアン男爵の上にある天使像が「しーっ」と指を立てているのも彼らの関係を示唆しています。
ルイ15世の愛人であったデュ・バリー夫人から「部屋に飾る絵を4枚描いてほしい」と注文を受けて描いた連作《恋の成り行き》。
デュ・バリー夫人は、ロココ美術を愛していたポンパドゥール夫人が亡くなった後に、ルイ15世の愛人となりました。
デュ・バリー夫人がルイ15世の愛人になったころは、ロココ美術の時代から新古典主義へと移ろうとした時代。そのため、フラゴナールらしい大胆なタッチで官能的に描かれた《恋のなりゆき》は、時代遅れの作品と評価され、夫人に受け取りを拒否されてしまいます。
その後、ロココ美術が衰退していくと同時に、フラゴナールへの制作の注文は激減。晩年は画業を諦め、ルーヴル美術館の館長として仕事をしました。
東京富士美術館は1983年に「世界を語る美術館」をモットーに設立されました。
西洋絵画を多く所蔵しており、フラゴナールの作品では《豊穣の恵み》を所蔵しています。白いブラウスに赤いスカートを履いた女性が子どもを抱き上げており、窓からは男性とロバが顔を出しているシーンが描かれています。
同じ絵柄の作品が本作以外に4点描かれているほど当時人気を集めた主題でした。
国立西洋美術館は東京・上野公園内に唯一の国立美術館として1959年に設立されました。
実業家の松方幸次郎氏が収集した作品「松方コレクション」を保存・公開するために設立され、西洋美術に関する作品を展示する同館。フラゴナールの作品では《丘を下る羊の群》を所蔵しています。
本作は、フラゴナールが最初にイタリアからパリに戻った時期に描かれた作品で、イタリアで学んだ絵画技法とオランダ風景画からも影響受けた柔らかい光の表現を観ることができます。
時代の流れに左右されながらも美術に関わり続けたジャン・オノレ・フラゴナール。歴史画から需要のあるロココ美術へと方向転換し、晩年は新古典主義に押されて仕事が減ってしまうなど、まさに激動の流れを生きた画家だったのだと思います。
彼の人生を知ってから作品を見てみると豪華で優美な華やかさと、のちに訪れる時代の切なさも感じられるかもしれませんね。
【参考書籍】
・日本博学倶楽部『「名画の巨匠」 謎解きガイド』株式会社PHP研究所 2016年
・池上英洋『いちばん親切な西洋美術史』株式会社新星出版社 2016年
・瀧澤秀保『366日の西洋美術』株式会社三才ブックス 2019年