アンリ・ルソー/10分でわかるアート

10分でわかるアート

今回の「10分でわかるアート」では、素朴派を代表画家である「アンリ・ルソー」について、詳しくご紹介していきます。

素朴派を代表する画家
アンリ・ルソー

アンリ・ルソーは、19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍した「素朴派」の画家です。
素朴派とは、正規の美術教育を受けていない画家たちによって生み出された芸術の一潮流を指します。

アンリ・ルソー《自画像》1903年、ピカソ美術館蔵

ルソーは1844年、フランスのラヴァルで生まれました。

彼は40歳を過ぎるまで税関吏として働いていたことから、「税関吏ルソー」という愛称で親しまれています。

独学で絵を学んだルソー。その素朴な表現の中には、夢のような幻想的な世界が広がっています。

彼の作品は、見る人の心に不思議な魅力を与えます。

アンリ・ルソーの代表作

ルソーの代表作をいくつか紹介します。

アンリ・ルソー 「田舎の結婚式」 (1905)

素朴な筆致で結婚式のようすを描いた《田舎の結婚式》

本作は実際にルソーが結婚式に参列して描いたものではなく、古いアルバムの記念写真をもとに制作した作品です。

木々の緑と人びとの衣装の色彩が鮮やかで、素朴ながらも祝福に満ちた雰囲気が伝わってきます。

しかし、絵をよく見てみると、花嫁が浮いているように見えませんか?また、手前にいる犬の大きさも気になりますね。

違和感のある不思議な絵ですが、背景の木の幹や葉が簡略化されていることにより、人物の表情が際立つように感じます。

こうしたメリハリがルソーの作品で多く見られます。

 

《私自身、肖像=風景》1890年、プラハ国立美術館蔵

次に《私自身、肖像=風景》を見てみましょう。
本作は、ルソー自身の姿をパリの風景と融合させて描いたものです。

こちらも背景は描き込まれていますが、人物の表情はデフォルメされていますね。

足元に注目すると、これもまた少しだけ浮いているように見えます。

左上の雲の形ですが、日本列島に見えませんか?

当時のフランスでは「ジャポニスム」が流行っており、浮世絵などをはじめとした日本の作品が大流行していました。

ルソーも浮世絵の大ファン。日本にあこがれがあった彼は、実際に日本列島の地図を見ながら雲を描いたというエピソードも残っています。

自画像でありながら、背景と一体化した不思議な作品となっています。

《夢》1910年、ニューヨーク近代美術館蔵

最後に、ルソーの最高傑作とも言われる《夢》をご紹介します。

熱帯のジャングルを背景に、裸婦が横たわっているようすが描かれています。

緻密に描かれた植物や動物たちが、幻想的な雰囲気を醸し出しています。

これらの作品は、世界中の美術館で鑑賞できます。

日本でも、世田谷美術館がルソーのコレクションを所蔵しているので、ぜひ足を運んでみてください。

脱サラして画家となる

ルソーは27歳の時にパリの税関に勤めはじめました。
その仕事は、物売りがパリ市内に入るときに税金を徴収する門番のようなものでした。

興味深いのは、ルソーの上司が彼の創作活動に理解を示していたことです。

絵が描きやすいように楽な仕事を回してくれたというエピソードも残っています。

このように、日々の仕事をこなしながら、ルソーは独学で絵を学び続けました。

そして49歳で税関の仕事を辞め、画家として生きる道を選んだのです。

まさに、夢を追いかけた脱サラ画家と言えるでしょう。

彼の勇気ある決断が、後の素晴らしい作品群につながったのです。

天才パブロ・ピカソが認めた才能

ルソーの才能は、当時の若手芸術家たちにも認められていました。特に、パブロ・ピカソとの出会いは印象的です。

64歳になったルソーは、まだ若かりしピカソに誘われて、モンマルトルにある「洗濯船」でパーティーを開催しました。

「洗濯船」とは、1889年に設立され、粗末な環境ながらも多くの画家が集う芸術の拠点です。

1910年頃の洗濯船 モンマルトル美術館所蔵

ピカソ、ゴーガン、モディリアーニなどがここで創作しています。

このパーティーで、ピカソはルソーのことを「いい画家」だと紹介したのだそう。
ちなみに、ピカソがルソーの絵を見つけたのは、パリの骨とう屋だったといいます。

このエピソードは、ルソーの才能が、当時の前衛的な芸術家たちにも認められていたことを示しています。

正規の美術教育を受けていなくても、その独特の感性と表現力が高く評価されていたのです。

おわりに

アンリ・ルソーの生涯と作品を通じて、私たちは「素朴さ」の中に潜む深い魅力を感じ取れます。

正規の美術教育を受けていなくても、独自の視点と感性があれば、人びとの心を動かす芸術を生み出せるのです。

ルソーの作品は、私たちに「自分らしさ」の大切さを教えてくれているのかもしれません。

美術館でルソーの作品を見る機会があれば、ぜひじっくりと鑑賞してみてください。

素朴な筆致の中に広がる幻想的な世界が、きっとあなたの心を捉えて離さないはずです。

【参考書籍】
レブン『小学生のための「世界の名画」がわかる本』(2018年 メイツ出版株式会社)
ヘザー・アレグザンダー/メレディス・ハミルトン『子どものための美術史 世界の偉大な絵画と彫刻』(2017年 西村書店 東京出版編集部)
勅使河原純『アンリ・ルソーにみるアートフルな暮らし-史上もっとも成功した熟年アート術-』(2004年株式会社ミネルヴァ書房)

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「10分でわかるアート」は、世界中の有名な美術家たちや、美術用語などを分かりやすく紹介する連載コラムです。

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