塩田千春の作品から他者との「つながり」を考える。圧巻のインスタレーションに注目
2024年10月3日
「買上展」藝大コレクション展2023/東京藝術大学大学美術館
東京藝術大学の伝統ともいえる「買上」。東京藝術大学では昔から卒業、終了制作の中から特に優秀とされる作品を大学が買い上げてきました。
東京藝術大学大学美術館で開催中の「『買上展』藝大コレクション展2023」は、過去に買い上げられた作品の中から約100件を厳選。
明治、大正、昭和のレジェンドたちの若き頃の快作、そして平成、令和の新鋭による優秀作品が一挙にみられるまさに贅沢な展示となります。
第1部は「巨匠たちの学生制作」と題し、卒業後日本近代史を牽引した作家たちを各分野から選りすぐりデビュー作を、第2部では「各科が選ぶ買上作品」と題し、各科が特に優秀だと認めてきた作品を展示。
本展を観ればきっと、日本における近代美術史がどのように生まれ、そして変化を遂げてきたのかを垣間見ることができますよ。
東京藝術大学では、今日までに多くの優れた芸術家が誕生してきました。そんな芸術家たちのスタート地点ともいえるのが「卒業・修了制作」です。
東京藝術大学では前身である東京美術学校時代から、卒業・修了作品の中から各科ごとに特に優秀とされる作品を買い上げる制度があり、現在では美術館に収蔵されている学生制作品は1万件以上にのぼります。
本展では、そんな歴史ある買上作品の中から厳選された秀作が贅沢に展示されます。
第1部では日本画から西洋画、彫刻、工芸など、巨匠たちの学生時代のデビュー作が展示されています。
横山大観《村童観猿翁(そんどうかんえんおう)》をはじめ、和田英作《渡頭の夕暮(ととうのゆうぐれ)》、朝倉文夫《進化》などをはじめ、さまざまな作品が並びます。
のちに巨匠とも呼ばれた芸術家たちの作品が並ぶ展示室からは、それぞれの芸術家の独創性を肌で感じることができます。
朝倉文夫《進化》1907年(明治40年)東京藝術大学蔵
金観鎬《夕ぐれ》1916年 東京藝術大学蔵
写真の左に写る作品は金観鎬(キム・カンホ)の《夕ぐれ》。
彼は1891年に平安南道平壌軍に生まれ、18歳で来日、明治学院で学んだのち東京美術学校西洋画科選科に入学しました。
《夕ぐれ》は、大学美術館准教授からもおすすめされる作品の一つで、当時裸体の女性が野外に佇むという構図は衝撃的なものとされました。
言語や文化の枠を超え、留学生として飛び込んできた金観鎬の力強い本作は、ぜひ会場で観ていただきたい作品の一つです。
第2部では東京藝術大学となった1949年から2021年までに買い上げられた作品群から、各科が選抜した全52作品が展示されています。
時代の移り変わりとともに技術が進化し、表現方法も多様化。第2部ではより表現の自由さ、広がりを感じることができます。
梅原幸雄《遠い記憶》1978年 東京藝術大学蔵
村岡貴美男《夢遊病》1997年 東京藝術大学蔵
梅原幸雄《遠い記憶》は、簡潔な描写と若々しい色彩によるイメージの響きあいが清新な作品。
また、村岡貴美男《夢遊病》は、人物の描写に新しい表現様式の萌芽を見せるとともに、彼独自の神秘的な世界観が表現されています。
上述した2つの作品はテイストは異なれど、それぞれ鑑賞者の心に残る作品。このように異なる感性を持つ芸術家の作品を、同時に楽しむことができるのも本展の魅力といえます。
大西博《LA TRUITE(鱒)》1987年 東京藝術大学大学美術館
大西博《LA TRUITE(鱒)》は、まる一年かけて制作された作品で、魚鱗の表現を知り尽くした眼と手で描かれたこの人物は、女体であると同時に魚でもあるそう。絵から伝わる緊張感に惹きつけられますね。
橋本和幸《時空の顕在化》1991年 / 大小田万侑子《藍型染万の葉文様灯籠絵巻》2018年 東京藝術大学蔵
そのほかににも、橋本和幸の木を素材として時間と空間を意識した作品「時空の顕在化」や大小田万侑子の丹念な絵付けとスケールの大きな作品世界を両立させている「藍型染万の葉文様灯籠絵巻」など、デザインや美術教育などさまざまな分野からの秀作も観どころの一つといえるでしょう。
本展示開催に合わせて、藝大生がそれぞれ思う「買上」についてのショートムービーが東京藝術大学大学美術館公式Twitter、YouTubeで公開中です。
現在、大学にて学んでいる学生たちの独創的で面白い作品の数々がアップされています。本展と合わせてぜひチェックしてみては。
東京藝術大学大学美術館 公式Twitter / 公式YouTube
上野駅から徒歩10分、東京藝術大学大学美術館で開催中の『買上展』藝大コレクション展2023。
歴史の変化を垣間見るような感覚で、揺れ幅の大きいさまざまな作品を一挙に観られるまたとない展示です。各時代で芸術の「最先端」とし評価された作品に触れれば、きっと何か感じるものがあるはず。
また近隣では、東京国立博物館にて「東福寺展」、国立西洋美術館にて「憧憬の地 ブルターニュ―モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷」などが開催中です。ぜひ、合わせてチェックしてみてくださいね。
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