塩田千春の作品から他者との「つながり」を考える。圧巻のインスタレーションに注目
2024年10月3日
ピーター・シスの闇と夢/練馬区立美術館
ピーター・シスの闇と夢 展示風景より
手前:《『飛行士と星の王子さま サン=テグジュペリの生涯』原画》
作家蔵(エリック・カール絵本美術館寄託)2014年 ©Peter Sis, 2014
練馬区立美術館は、2021年10月1日で開館36周年を迎えました。同館に隣接する緑地「練馬区立美術の森緑地」は、20種類・32体のファンタジーな彫刻群や遊具があり、多くの子どもたちが遊ぶ賑やかな空間となっています。
そんな同館で、チェコ出身でアメリカで活躍する絵本作家、ピーター・シス(1949₋)の創作の軌跡を紹介する展覧会「ピーター・シスの闇と夢」が開催中です。
日本ではじめてのシスの展覧会である本展では、貴重な初期のアニメーション作品や絵本原画、スケッチなど、さまざまな作品や資料約150点で、彼の創作活動を紹介します。
※展覧会情報はこちら
ピーター・シスは、共産党統治下のチェコスロヴァキア(現チェコ共和国)に生まれました。
幼い頃から絵を描くことが大好きだったシス。彼が生まれた冷戦時代(1945₋91)のチェコスロヴァキアは、ソ連(現・ロシア)の支配下に置かれて、共産主義に統制された厳しい社会でした。
子どもが絵を描くことさえも管理される難しい環境の中で育ちましたが、シスは芸術的創作への意欲を失うことなく成長しました。
プラハ工芸美術大学とロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートで学び、短編アニメーションの制作でその才能を広く認められるようになります。
ピーター・シスの闇と夢 展示風景より
西ベルリン映画祭で金熊賞を、トロント映画祭でグランプリを、そしてロサンゼルスの映画祭では金鷲賞を受賞するなど、その才能を開花させたシスは、1982年に、政府よりロサンゼルス・オリンピック(1984年)の映像制作のためアメリカに派遣されることになります。
しかし、祖国を含めた東側諸国がオリンピックのボイコットを表明したことを受け、シスはこの時、自由を求めてアメリカへの亡命を決意しました。
ピーター・シスの闇と夢 展示風景より 《ニューヨーク・タイムズ・ブックレビュー誌の挿絵》1984₋96年
アメリカへ移住したあとはニューヨークに拠点を定め、新聞や雑誌、絵本などのジャンルを中心に活動を続け、絵本作家としての人生をスタートさせたシス。
意欲的な創作活動の中で、ニューヨーク・タイムズ紙が選ぶ年間ベストテンや、パブリッシャーズ・ウィークリーのベストセラーリストの常連となるなど、シスはアメリカでの絵本作家としての地位を築き上げました。
シスが出版した30冊近くの絵本は、国際アンデルセン賞や三度のコールデコット・オナー賞を受賞するなど、多くの絵本賞で称えられ、今もなお世界中の人びとを魅了しています。
ピーター・シスの闇と夢 展示風景より 『かべ 鉄のカーテンのむこうに育って』
代表作の一つである『かべ 鉄のカーテンのむこうに育って』は、シスの人生のアイデンティティを表す作品です。
この絵本の執筆のきっかけは、アメリカで生まれ育ち、当然のことのように「自由」のある恵まれた環境で育ったシスの子どもたちに、自分がアメリカに渡った理由を自らの言葉で伝える必要性を感じたからだと言います。
同時にそれは、子どもたちにシス自身のルーツを教えることでもありました。
ピーター・シスの闇と夢 展示風景より 『かべ 鉄のカーテンのむこうに育って』絵本原画
本作では、当時のチェコスロヴァキアの環境や社会情勢、そして自らの経験を、日記に基づいて振り返っています。
2008年、コールデコット・オナー賞を受賞した本作は、自由の尊さや夢をあきらめない強さを持つことの大切さを私たちに語りかけてくれる作品です。
童話『星の王子さま』の著者アントワーヌ・サン=テグジュペリは、作家であり、また飛行士でした。
ピーター・シスの闇と夢 展示風景より
シスは12歳のとき、『星の王子さま』を父ヴラジミールから贈られ、大切に読んでいました。そして、20年後のアメリカで、訪ねて来た父と街を歩いているときに、サン=テグジュペリがニューヨークで『星の王子さま』を書いたことを教えられます。
その話を聞きいてシスは、好奇心と勇気を失わず、子どもの頃からの夢をかなえて空を飛び続けた偉人が、自分と同じく他国へ移住する孤独を感じていたと知り、絵本にしたいと思ったそうです。
そして、『飛行士と星の王子さま サン=テグジュペリの生涯』(2014年)という伝記絵本が誕生しました。
ピーター・シスの闇と夢 展示風景より 映画『アマデウス』のポスター 1984年
本作は、映画監督ミロシュ・フォルマンによる映画『アマデウス』のポスターです。
フォルマンは、『カッコーの巣の上で』など数多くの名作映画を製作し、アメリカに移住したチェコ出身の映画監督です。『アマデウス』は謎に包まれたモーツァルトの生涯を描き、アカデミー賞を受賞しました。
シスの父ヴラジミールの友人だったフォルマンは、シスの絵を気に入り、当時ハリウッドにいたシスにポスター制作を依頼します。シスも期待に応え、モーツァルトに忍び寄る闇を劇的に描き、映画の世界観を見事に表現しています。
絵本作家、イラストレーターとして世界的に有名なピーター・シスの仕事の全貌を、豊富な資料で紹介する本展。
展示室内の特設ミュージアムショップでは、本展で展示されている作品をプリントしたオリジナルグッズが販売されています。
ここでしか買えないグッズを、本展の思い出として買ってみてはいかがでしょうか。
練馬区立美術館の次は、伊丹市立美術館へ巡回が予定されています。関西にお住まいの方は、そちらでの開催もお楽しみに。