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2024年11月1日
ホーム・スイート・ホーム/国立国際美術館
国立国際美術館外観
美術館や博物館、コンサートホールなどの文化施設が建ち並ぶ、大阪・中之島。その一角に、ユニークなフォルムで存在感を示しているのが国立国際美術館です。
地上の金属オブジェはゲート部だけで、展示室はすべて地下。世界でも珍しい完全地下の美術館です。
現代美術のコレクションとしては国内最大となる約8,000点を所蔵。
ここでは、そんな現代美術の殿堂で開催されている展覧会「ホーム・スイート・ホーム」を紹介します。
地下へ続く長いエスカレーターでゆっくりと降りていけば、展覧会場に到着します。
会場エントランス
「ホーム・スイート・ホーム」。英語の「ホーム」は、「家」だけでなく「故郷」「祖国」などの意味もあります。
でも現代の「ホーム」は「スイート」ばかりでしょうか。
災害、戦争などで、家を、故郷を、祖国を失った人びと。パンデミック中の「ステイホーム」を機に、私たちは図らずも「家」「ホーム」と直面することになりました。
そんな今こそ、心のよりどころになる「ホーム」を捉え直そうという意欲的な展覧会です。
国籍もバックグラウンドも異なる作家たちがそれぞれ思い描く「ホーム」。
会場では、思い思いのアプローチで「ホーム」を表現しています。
鎌田友介《Japanese Houses》展示風景
鎌田友介は、1910年から1945年までに建てられた日本家屋をリサーチし、その研究成果を立体や写真、映像を使って表現するアーティストです。
かつて日本の植民地だった台湾や朝鮮半島での日本家屋や、戦時中アメリカで焼夷弾の実験のために建てられた日本家屋など、現地に渡って調査しています。
鎌田友介《Japanese Houses》2023年 作家蔵
焼夷弾が空からパラパラ落ちてくるさまを、天井から吊るされた冷たく光る蛍光灯で表現したインスタレーション。
日本家屋を模した立体の中に吊るされた蛍光灯は38本。クラスター爆弾から放たれる子弾の数です。
焼夷弾に焼き尽くされる、恐ろしくも哀しい家屋の記憶をつきつける作品です。
藩逸舟《ほうれん草たちが日本語で夢を見た日》2020年 作家蔵
中国・上海で生まれ、9歳で青森に移り住んだ藩逸舟(はんいしゅ)。自身のアイデンティティと重ねながら、移民の現状や歴史の取材を続けてきました。
あるとき、外国人技能実習生といっしょにほうれん草の刈り取り作業をしていました。
作業の後に聞こえてきたのは、鳥のさえずり。まるで箱に詰められたほうれん草たちが、鳥たちをマネてさえずりだしたよう。
そういえば、自分が日本語で夢を見始めたのはいつだっけ?そんな風にイメージが繋がったインスタレーションです。
言葉を知らない国で、自分自身の居場所を見つけようとする作家の姿が込められているようです。
マリア・ファーラ作品展示風景
フィリピンで生まれ日本で幼少期を過ごし、現在ロンドンを拠点とするマリア・ファーラ。彼女もまた、自身のアイデンティティを問いかける作品を発表しています。
マリアが描きだす海はとても印象的。感情がほとばしるような激しい海もあれば、人物との距離を示すように、ただ静かに広がる海もあります。
「ペインティングそのものがホーム」と語る彼女の絵は、彼女の発する言葉そのものです。
竹村京作品展示風景
竹村京は、刺しゅうを施した布を重ねるインスタレーションを制作する作家です。
手がけるテーマは「修復」。割れた食器やおもちゃなど生活をともにしたものたちを、壊れたまま白いオーガンジーで包んであります。
「ホーム」とは、かけがえのない、しかし脆く壊れやすいもの。たやすく割れて、断面を接着剤でくっつけてハイもと通り、とはいかない痛みの記憶。だから柔らかく包み込み、修復しても消えない傷口をなぞるように、刺しゅうで浮かび上がらせたのでしょう。
竹村京パフォーマンス《入ってもよろしいですか シーン1,2,3,4,5》2023年 より
会場ではパフォーマンスも披露されました。
妊婦、子供、男性・・・さまざまな背景をもった人たちが、壊して床に散らばった皿やグラスの欠片。
アーティスト・竹村京が、それらを丁寧に、慈しむように箒で掃き集めていきます。
「修復」の静かなる具現化でした。
アンドロ・ウェクア《タイトル未定(家)》2012年
旧ソ連邦・グルジア生まれのアンドロ・ウェクアにとっての「ホーム」は「記憶」。
ソ連崩壊に伴う内戦で父親を亡くし、スイスに逃れ現在ベルリンを拠点とするウェクアにとって、故郷はもう二度と見ることができない場所。
かつて暮らした故郷の家を、叔父や友人からの聞き取りで彫刻化したのがこの作品です。
この家の窓は、現在と記憶の故郷をつなぐ境界を意味します。
古い写真やモノをコラージュして記憶を積み重ねた絵画作品は、個人的な記憶でありながらも社会や国家の影を感じさせます。
石原海《重力の光》2021年
最後の部屋は赤い光に包まれていました。
愛やジェンダーをテーマに、実験的な映像インスタレーションに取り組むアーティスト・石原海の作品が映し出されます。
さまざまなバックグラウンドを持つ人びとが集まる北九州の教会が舞台。「神の家」である教会に集い、そこで語られる言葉。
「スイート」ばかりではないビターな社会で、希望を見出すような暖かみを感じさせる作品です。
コレクション1 80/90/00/10 展示風景
「ホーム・スイート・ホーム」と同時開催のコレクション展では、村上隆『727 FATMAN LITTLE BOY』など昨年度の新収蔵品を中心に、国立国際美術館の充実したコレクションを鑑賞することもできます。
映像やインスタレーションが競う現代アートならではの展示空間で、アーティストそれぞれの「ホーム」を体感する展覧会です。
また自身の「ホーム」とは何か、を考えさせられる機会でもありました。
作家が来日してから「レクチャー・プログラム」として初めて公開される作品もあり、アーティスト・トークなどのイベントも盛りだくさん。
この夏、気鋭のアーティストたちのとりどりの表現に浸りながら、あなたにとっての「ホーム」を再発見してはいかがでしょうか。