発掘された珠玉の名品 少女たち/京都文化博物館

見過ごされた「佳い絵」を掘り起こし続けた老舗画廊の50年【読者レビュー】

2023年7月29日

発掘された珠玉の名品 少女たち-夢と希望・そのはざまで 星野画廊コレクションより/京都文化博物館

京都文化博物館にて、特別展「発掘された珠玉の名品 少女たち」が開催中です。


粥川伸二《娘》1928 年 絹本彩色

評価の定まった画家の展覧会は美術館で開催されるが、同じ時代を生きた画家たちで、たまたま見過ごされた「佳い絵」を丹念に発掘されてきたのが、京都・東山岡崎公園近く神宮道沿いにある老舗画廊「星野画廊」です。

星野さんご夫妻二人三脚で、培った独自の審美眼で見つけだした作品について徹底的に調べて企画展を開催し、図録として記録を残してこられました。秦テルヲ、岡本神草、甲斐荘楠音、不染鉄、記憶に新しい笠木治郎吉など近年になって再評価され表舞台に立つことになった画家たちに、私たちはこんな画家が居たのかと驚いてきました。


八條弥吉《赤いショール》1901-1912 年 キャンバス・油彩

本展は、「少女たち」を入口にして、童女から少女へ、そして大人へ、それぞれの時代背景の中でさまざまな人生を歩む女性たち、松園に代表される所謂「美人画」の範疇でない女性像の展覧会とも言えるでしょう。

星野画廊の旧蔵品を含めず、現有作品から星野さんがピックアップした作品を監修者と担当学芸委員さんたちで再選考した珠玉の121件になっています。未だ作者不詳の作品も含まれています。

展覧会は8章構成です。

第1章 明治の少女たち:
明治期に描かれた童女から少女たち


笠木治郎吉《下校のこどもたち》1899 年頃 紙・水彩

あどけなくあまりにも可愛い童女の作品です。

昨年の府中市美術館で開催された展覧会で一躍注目を集めた笠木治郎吉の描く人物像、当時の風景の中で働く少女の瑞々しい姿、水彩画の美しさに惹き込まれます。

第2章 四季のうつろいの中で:
大正期を中心に日本ならではの四季折々の少女たち


樋口富麻呂《春》1926 年 紙本彩色 第 1 回聖徳太子奉賛美術展

描かれているのは、少女なのか若衆なのか。


亀高文子《秋果童女》1940 年 キャンパス・油彩

第3章 大正の個性派画家たち

デカダンスな雰囲気を背景にきれい事だけではすまない人生を歩む女性を描き、星野さんに見いだされた異色の作品群です。


秦テルヲ《渕に佇めば》1917 年 麻布・着色


甲斐荘楠音《畜生塚の女》1919 年 絹本彩色

未完の大作《畜生塚》の為に描かれた作品でしょう。薄い衣の下には肌が透けて見え、衣の襞の描写は流麗で、陰影や立体感を表現しています。


岡本神草《拳の舞妓》1922 年 絹本彩色

お座敷遊びの拳遊び(狐拳)で、狐のポーズをとる舞妓です。2017年の「岡本神草の時代」@京都国立近代美術館を思い出す方も多いでしょう。

《拳を打てる三人の舞妓の習作》と星野さんとの出会いは1985年。神草の遺族から資料類を全て譲り受けて、丹念に調査・整理し、筆が遅い神草が描きかけの作品を切断して国展へ出したことを突き止められたのでした。切断された絵画と資料の中にあった残存部は見事に合致し、現在は額装されて京都国立近代美術館に所蔵されています。

星野画廊の活動と意義を表す象徴的な事例でしょう。メインヴィジュアルとなっている本作品は、1922年頃に描かれた関連作品と考えられています。

第4章 歴史画に見る少女たち

歴史上の人物や物語の登場人物を画家たちはどの様に捉え、絵画化したのでしょう。


佐治大輔《楊貴妃》1912-1926 年 絹本彩色

日本画による超リアルな表現、細密描写に驚き、単眼鏡で隅々まで覗き込みました。

第5章 夢見る少女たち:
激動の昭和期に描かれた少女たち


野田英夫《籠を持てる少女》1932 年 紙、インク、水彩、コラージュ

当時の不穏な社会を伝える英字新聞をコラージュした作品です。

日系移民の野田は、日米を往き来して30歳で亡くなっています。

第6章 慈しむ母として


黒田重太郎《母子像》1919 年 キャンバス・油彩 第 7 回二科展

黒田が帰国して最初に描いた作品で、ヨーロッパで目にした聖母子像を思いながら妻と子を描いたのでしょうか。数年後この妻と子は相次いで早世してしまうのでした。


秦テルヲ《慈悲心鳥の唄》1923 年 麻布・彩色

人間こうも変われるものなのかと背景の自然と家族が一体化して汎神論的世界観を示す作品になっているようです。

第7章 モダンガールズ:
大正期から昭和にかけて、時代を切り開いた近代的な少女のイメージ


下村良之助《たこやき》1980 年 紙本彩色

「モガ」の括りには入らなさそうな舞妓像、その顔をよく見れば正面と横顔で、キュビズム風の多視点で描かれています。

第8章:日仏画家の競艶

星野画廊コレクションの重要な柱の一つが「洋画家の滞欧作品」です。

この章では、日本人留学生を指導したフランス人画家の作品とあこがれの地で研鑽を積む日本人画家の作品を紹介しています。


太田喜二郎《花摘図》1911-1912 年 キャンバス・油彩

ベルギーに留学していた太田が描いたこれぞ点描という作品です。


澤部清五郎《バラの髪飾り》1912 年 キャンバス・油彩

それぞれの時代を背景にさまざまな人生を歩む星野さんの視点から見いだされた女性像は、魅力的で、愛おしくさえありました。

「名聞にこだわらない率直な自己鑑識力」、有名無名のラベルでなく作品そのものを観て、楽しむことが問われていそうです。
星野画廊さんから直接お話を伺えるギャラリートークなど関連イベントも多彩。

全国6会場を巡回します。