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2024年11月1日
それぞれの闘い 岸田劉生、中川一政から岡鹿之助へ/東京ステーションギャラリー
現在、東京ステーションギャラリーにて、春陽会100年を記念した展覧会が開催中です。
本展では、1923年に開催された「春陽会第1回展」に出品された作品から1950年代頃までの作品100点以上を展示。
現在も活発に活動を続ける、美術団体春陽会の創立から1950年代頃の葛藤に満ちた展開を辿ります。
春陽会は1922年1月、帝国美術院、二科会に拮抗する美術団体として誕生しました。
創立メンバーは、小杉放菴(1881-1964)に代表される日本美術院洋画部を脱退したメンバー6名に梅原龍三郎(1888-1986)を加えて、さらに岸田劉生(1891-1929)、木村荘八(1893-1958)ら新進気鋭の画家たちを客員に迎えた計15名です。
同じ芸術主義同士で集まるのではなく、それぞれの個性を尊重する各人主義をスローガンにしていました。
しかし、劉生の理想に影響を受ける作家が多く、春陽会の入選作品も暗い色調のものが多くなりました。
そのことに不満を持つ春陽会の有力会員が増え、劉生と彼を推薦した梅原は春陽会を去ることになりました。
岸田劉生が去っても、春陽会にその影響は残りました。
草土社で共に労苦を分かち合った木村と中川一政(1893-1991)らが春陽会を支える存在となっていき、劉生に影響を受けて画家を志した若者も、画家として才能を花開かせたのです。
ここでは、春陽会で活躍した画家たちをピックアップして紹介していきます。
岸田劉生は自身の娘を描いた麗子像で有名な画家です。
本展では《麗子弾絋図》など、劉生が春陽会に所属していた時期の作品11点を展示しています。
岸田劉生《麗子弾絃図》1923年、京都国立近代美術館
(左から)岸田劉生《竹籠含春》1923年 個人蔵、岸田劉生《籠中脂香》1923年 茨城県立近代美術館
岸田劉生《竹籠含春》1923年、個人蔵
岸田劉生が描いた《竹籠含春》と《籠中脂香》。どちらもテーブルに置いてあるかごに椿が入っています。
モチーフ、雰囲気が似た作品ですが、角度やかごの描きこみなど見比べてみると違いを楽しめますよ!
ほかにも当時、劉生が興味関心を持っていた初期の浮世絵作品の資料なども紹介しています。
独学で油絵を学んだ中川一政は、劉生と知り合ったのち、春陽会創立メンバーとして活躍しました。
劉生ら退会後、春陽会を支えた中川。本展では第1回展のころの静物画を含め6点の作品を展示しています。
(左)中川一政《向日葵》1982年
(右)中川一政《駒ケ岳》1973年 いずれも、真鶴町立中川一政美術館
絵の具を筆で置くように描かれた作品からは、ダイナミックな筆遣いが感じられますよ!
個性を大切にしながら活躍してきた春陽会。次第に、岸田劉生の絵画に影響を受けた作家が多くなっていきます。
その結果、不満を持つ者が多くなり、岸田劉生と岸田劉生を推薦した梅原龍三郎は退会。
会はそれでも順調に歩みを続けますが、滞欧経験のある画家を中心に、有力会員が次々に退会する事態に見舞われました。
春陽会のスターであった彼らを失い、大きな痛手となるのですが、そんな春陽会を支えたのが木村荘八と中川一政、石井鶴三(1887-1973)でした。
(右)倉田三郎《春陽会構図》1937年 たましん地域文化財団
右の作品には、1937年の春陽会の会員構図が描かれています。
中心に描かれたメガネの人物が木村荘八、その左隣が中川一政です。
彼らが中心となって、春陽会を支えていたようすがわかります。
2階の展示室では有力会員らを失い、戦争も始まり、春陽会にとって葛藤の時代といわれる作品が展示されています。
春陽会は初期において、素描をメインに描く素描室や挿画室、版画室を開設。新たな作家を育てていき、葛藤の時代を乗り越えていきました。
作品ジャンルの幅をさらに広げて活動を続けていく強い意志が、展示作品からも感じることができます。
「画家のための自由な団体」をモットーに活動してきた春陽会。
公募展の出品作品といえば油彩画が主流でしたが、春陽会では油彩以外の作品も出品することができました。
版画や素描、挿絵などの作品も出展できたことは、芸術表現の幅を広げる機会になったでしょう。
木村荘八《戦争ヲ作ル》1938年 東京藝術大学
木村荘八《永井荷風著『濹東綺譚』挿絵11、15、20、24、28、32》1937年 東京国立近代美術館(10月15日までの展示)
小説家、永井荷風(ながいかふう、1879-1959)が書いた小説『濹東綺譚(ぼくとうきだん)』の挿絵と、戦争の時代に突入していくようすが描かれた《戦争ヲ作ル》が並んでいます。
なんと、白い線を描くために使用したのは紙。紙を削って白い線を表現しました。
斬新で新しく独自の表現を観ることができます。
(左)清宮質文《キリコ(カットグラス)》1959年
(右)清宮質文《早春の静物》1977年 いずれも、横須賀美術館(ともに10月15日までの展示)
美術教師、デザイン会社勤務を経て、版画家としての活動をはじめた清宮質文(せいみやなおぶみ、1917-1991)の木版画作品。
編集部もお気に入りの本作。繊細なガラスの質感を寒色を使いながらも、木版画特有の温かみのある色彩で表現しています。
(左)古川龍生《昆虫戯画巻(目次)》1933年
(右)古川龍生《昆虫戯画巻 争闘篇 草上飛行》1933年 いずれも、栃木県立美術館
独学で版画を学び、東京美術学校卒業後、教師として働き、春陽会に出品し始めた古川龍生。
昆虫を主体に柔らかい色彩で描かれ、温かい春の訪れのような印象を受けます。
展示作品以外にも図録には畑仕事をしていたり、着物を着て擬人化された昆虫が描かれている作品もあり、ユーモアがある作品を観ることができます。
春陽会の長い歴史の中で、創立から1950年代頃の作品を展示する、思いが詰まった本展。
2013年に春陽会100年記念展の準備委員会を設立し、その後、開催美術館と春陽会や識者が協力しあい、今回、これほどまでの多数の選ばれた作品が集まりました。
ここまで多くの春陽会の代表的な作品を一度に見られる機会はなかなかないでしょう。
100年の歴史の中で生まれた多数の画家、さまざまな表現を作品から感じてみてはいかがでしょうか。
※会期中、展示替えをおこないます