井田幸昌展「Panta Rhei|パンタ・レイ − 世界が存在する限り」/京都市京セラ美術館

世界が注目する現代アーティスト・井田幸昌の日本初の大規模個展【京都市京セラ美術館】

2023年10月17日

井田幸昌展「Panta Rhei|パンタ・レイ − 世界が存在する限り」/京都市京セラ美術館

現在、世界で最も注目される新進気鋭のアーティスト・井田幸昌。

海外のオークションで人気を博し、ディオールとのコラボレーションや、前澤友作氏が国際宇宙ステーションにその作品を持ち込み「宇宙に展示された絵」となったことでも話題となりました。

そんな井田幸昌の国内美術館初となる展覧会が、京都市京セラ美術館で開催されています。

故郷の鳥取県の米子市美術館から巡回し、京都展ではパワーアップして一挙350点を一堂に展覧。過去最大の個展です。


美術館外観

「一期一会」 万物は流転する

タイトルの「パンタ・レイ」とは「万物は流転する」という古代ギリシャの哲学者・ヘラクレイトスの言葉。「一期一会」をテーマに、出会いや出来事を積み重ね、糧にしてきた井田幸昌の想いに通じます。

本展のキュレーターを務めるジェローム・サンス氏によれば、井田幸昌の表現は「ジャパニーズ・パンク」。

しきたりや常識にとらわれない井田の創造性を、世界的キュレーターがどのように再構築するのか、楽しみな機会です。


会場エントランス

アーティスト・井田幸昌の成り立ちに影響を与えた人びと

頭上から自然光が差し込む回廊、小部屋に分かれた空間は、1933年の美術館開館当初からのもの。

歴史ある建物の特徴を活かしながら、アーティスト・井田幸昌の歩んできた時間を旅するような構成となっています。


「ポートレート」シリーズ展示風景

これまで生きてきた中で影響を与えられた人、大切な人の肖像を描いた「ポートレート」シリーズ。「一期一会」を体現する肖像画が並びます。

抽象画的なのに、離れて見ると具象的に感じる。近づいたり離れたりして味わえる作品たちです。


《Maurice de Vlaminck》2023

19世紀末~20世紀のフランスの画家、モーリス・ド・ヴラマンクのポートレート。

ヴラマンクは井田がアーティストになるきっかけとなった画家です。

17歳の時、この美術館で開催された「大エルミタージュ展」でヴラマンクの作品を見て衝撃を受け、画家の道を志したといいます。

ヴラマンク、そしてこの美術館との縁は、まさに「一期一会」といえるでしょう。

平面から立体まで カテゴリーにこだわらない創作


ブロンズ像展示風景

肖像画の回廊を通り抜けた先には、ブロンズのポートレートがずらり。

彫刻家・井田勝己を父を持つ幸昌にとって、立体作品は幼い頃から馴染み深いもの。

絵画のポートレートと同様、デフォルメされた「絵画的な彫刻」です。

時どきの心情を映しだす具象絵画


具象絵画展示風景

一面がビビットな黄色。大胆な色づかいはキュレーターのサンス氏の真骨頂。鮮烈な黄色の空間に、作品の力強さが引き立ちます。

井田の具象絵画は、自分と世界を映す鏡。

コロナ禍に描かれた作品は死を連想させる悪夢のよう。コロナ禍を抜けた頃、ようやく見出した希望が描かれます。

制作時の世相と作家の心情を映し出しています。


《Blessing of the Sea》2022 解説する井田幸昌

こちらは明治の天才洋画家・青木繁の代表作『海の幸』をオマージュした作品。

『海の幸』は獲物を担いで浜へ引き上げる漁師たちを描いた作品ですが、この作品は昨今の世情を反映し、戦争に向かう人々をイメージしたものに。


《Mask》2022

右手に口紅、左手にアイライナーを持ちじっとこちらを見つめる女性。鏡を見ているのでしょうか、それとも絵の方が鏡?

絵を見ている自分はどこにいるのか、自分は誰なのか問われているような気になる作品です。

「絵画であり彫刻」絵画を使ったインスタレーション


抽象絵画展示風景

思わず「作品はどこ?」と迷ってしまうような空間。

空間全体を絵画に見立て、描かれたキャンバスを空間の中に隠した、絵画を使ったインスタレーションです。

空間に溶け込んだ作品は、まるで森にまぎれこんだ樹木のよう。


《Landscape of Misato》2021

作家いわく「絵画であって彫刻」。小さなキャンバスの上に絵具が塗り重ねられています。

絵具の積み重ねは即ち、時間の積み重ね。ひとつひとつの絵具の層が、おとといの、昨日の自分、そして今日の自分。

時間のレイヤーが形づくった小さな歴史がこの作品です。

井田幸昌の私小説「End of today」


「End of today」展示風景

壁一面に並ぶのは、出会った人、嬉しかったこと、印象に残った出来事など、一日に一枚、日記のように描きとめた私小説的な小品群。

肖像から風景まで思い思いの絵を小さなキャンバスに10年以上描き続けているそう。

365日が終わると新たな一年が始まり、時は流れ出会いが積み重ねられていく。

「人生の断片を切り取った作品。今回の展示で一番エモーショナルな部屋」と語ります。

絵画から立体へ、立体から絵画へ
変化し続ける無限のループ

展示室に一歩入るとずらりと並んだ大きな顔。

画家である井田が「木」という素材と向き合ってつくりあげた、木彫のポートレートです。


木製彫刻展示風景

絵画から立体、立体から絵画へそしてまた立体。絵画、ブロンズ、日記のような小品そして木彫と、異なる表現方法がすべてつながっている。井田の表現は変化し続けるのです。

お互いが見つめ合うように並ぶ彫像。コロナ禍で、人と人とが見つめ合う重要性を再認識したという井田。

巨大な人面像にさまざまな方向から見つめられる感覚は、新鮮な体験です。


《Self Portrait》2023

展示室を行き来すると違った発見があるのもこの展覧会の見どころのひとつ。

前室の『End on today』の作品の中に、この部屋の木彫のモチーフがあるので探してみるのも楽しいですよ。

現在・過去・未来を交錯させた大作「Last Supper」

最後の部屋では、レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』をモチーフにした大作が暗闇の中に浮かび上がります。

映画が上映されているような不思議な雰囲気です。


《Last Supper》2022

着飾った女性たちが会食しているように見えますが、テーブルの上の皿は空っぽ。よく見ると袖の下から出ているのは機械の手。マスクをつけたロボットたちなのです。

映像のようなフラットな画面はタブレットを意識したもの。オフにすると消えてしまう。そこにあるはずのものは、画面の中に映し出されているだけなのか。

歴史上の画家たちが描いてきた『最後の晩餐』という題材。現代に生きる井田幸昌は、テクノロジーを主題に過去と未来を交錯させました。

 

「これまでのキャリアの集大成であるとともに、新しい始まりである」

出会ってきた人びと、転機となる出来事、過ごした時間の積み重ね。そうして辿り着いた井田幸昌の現在は、終わりではなく始まり。

展示室を行きつ戻りつ、作品や空間を味わいながら、井田幸昌の世界をゆっくりとお楽しみください。


コラボグッズが並ぶショップも必見です。

Exhibition Information