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2024年11月21日
企画展「茶の湯の茶碗 ― その歴史と魅力 ― 」/中之島香雪美術館
美濃 志野茶碗 銘 朝日影 桃山時代(16-17世紀)
朝日新聞社の創業者である村山龍平(1850-1933)が蒐集した美術品を所蔵する香雪美術館、本展を開催する中之島香雪美術館は、大阪屈指のオフィス街のビルの中にあります。
村山龍平は、薮内節庵に師事し、薮内家10代、11代について研鑽をつみ、薮内流を修め、「香雪」や「玄庵」と号した近代数寄者の一人です。茶の湯への傾倒ぶりはかなりのものだったようです。
本展は、村山龍平が愛蔵した茶碗約70点を通して、日本における茶の湯の歴史をたどります。その時代を代表する茶人、千利休、古田織部、小堀遠州、高橋箒庵の茶の湯にも迫ります。
茶碗の各部名称は、茶碗の見どころともなっています。
北宋時代に中国で始まった喫茶法である「抹茶」(点茶法)は、12世紀末鎌倉時代初期に中国へ留学した僧侶や中国人商人によって日本に伝わり、それと共に中国製の唐物茶碗がもたらされました。
吉州窯 梅花天目 南宋時代 12-13世紀
小堀遠州旧蔵、姫路藩主酒井家が所蔵しました。
黒い鉄釉に型紙を置き上から黄褐色の釉薬を重ね掛けし、型紙を剥がして焼成すると見込みに型紙の模様が出てきます。
日本ではべっこうの模様に似ていることから「玳玻盞(たいひさん)」「鼈盞(べっさん)」とも呼ばれています。
朝鮮 蕎麦色替茶碗 朝鮮時代(16世紀)
出雲松江藩主松平不昧所持『雲州蔵帳』第4ランク「名物並之部に記載」
16世紀室町時代後期になると、町衆の経済活動を背景に、質素な茶器を用いる「侘び茶」が流行り、朝鮮半島製の「高麗茶碗」も用いられるようになりました。
「蕎麦色替茶碗」は、黄味がかった釉薬が広範囲で青鼠色に変化するところが、また「井戸茶碗」は、枇杷色と呼ばれる美しい釉薬と高台にみられるぶつぶつとした釉の縮れ「梅花皮(かいらぎ)」が見所となっています。
どの茶碗も魅力的!高麗茶碗の多様さをお楽しみください。
長次郎 黒楽茶碗 銘 古狐 桃山時代 16世紀 重要文化財
「侘び茶」を大成した千利休の意を形にしたのが樂家初代長次郎です。
樂常慶 赤楽茶碗 銘 山居 桃山時代 17世紀
光悦の「赤樂茶碗 銘 乙御前」も思い浮かぶ、やわらかなフォルムの二代常慶の茶碗です。
村山龍平は樂家歴代の茶碗も多く蒐集しています。
利休自刃の後、茶の湯の世界を主導したのが漫画「へうげもの」でも知られる古田織部です。
織部黒茶碗 銘 深山木 桃山時代 17世紀
厳格な利休の審美眼とは全く異なった世界観、歪みがあり「ひょうげもの」と称される形状の茶碗です。
「慶長」と言う時代を背景に、美濃窯では織部好の茶碗が制作され、唐津、備前、信楽、伊賀などでも桃山茶陶が作られました。
美濃 志野茶碗 銘 朝日影(裏面)桃山時代 16-17世紀
鉄釉と筆で図様が描けるようになり、表現の幅が広がった志野茶碗は、日本陶磁器史上革新的な出来事だそうです。
《志野茶碗 銘 朝日影》は、村山龍平にとっては特別な茶碗です。最初の画像に写っている茶碗の側面に見られる日の丸のような文様を、村山は朝日新聞の社旗に見立て、『新千載和歌集』収録の西園寺実氏の和歌「先早ぶる 神路の山の 朝日影 なお君が世に 曇りあらすな」に因んで命銘しました。
織部自害の後、寛永文化の落ち着いた世の中で茶の湯を牽引したのは、「きれいさび」の小堀遠州です。
景徳鎮窯 赤絵鳳凰牡丹唐草文茶碗 明時代末期 17世紀
遠州は、端正で洗練された茶碗を好み、茶会では景徳鎮窯で焼かれた「染付」や高麗茶碗の「呉器」を用いました。
朝鮮 遊撃呉器茶碗 銘 蝉丸 朝鮮時代 17世紀
茶の湯は、武家、公家、僧侶、町人へと広がり、それに伴って日本各地に窯が開かれ、それぞれに特徴ある和物茶碗が作られるようになりました。
高取 白釉緑釉流茶碗 銘 巖苔 江戸時代前期 17世紀
高取(福岡県)や朝日(京都府)などでは、遠州好みの和物茶碗が作られました。
野々村仁清 色絵忍草文茶碗 江戸時代前期 17世紀
正確な轆轤挽きの技術を持つ仁清は、「姫宗和」と称された金森宗和の求める茶道具を形にし、斬新で優美な意匠を色絵で表現しました。
実業家を引退後に数寄者とし過ごした高橋義雄(号「箒庵」、1861-1937)が大正時代に編纂・刊行した、豪華茶道具図録『大正名器鑑』には、村山が所蔵した7点の茶碗が収録されています。
野々村仁清 色絵忍草文茶碗 江戸時代前期 17世紀
茶の湯三昧の晩年を過ごした箒庵と松江藩主松平不昧は、茶人たちの憧れであったでしょう。
茶道具は、来歴と箱書きがものを云う世界でもあります。村山は、自分の好みを押し出さず各時代を代表する茶碗を偏りなく蒐集しています。
茶碗を掌に包んで碗の中の抹茶を眺めるイメージを思い浮かべながらこの展覧会を愉しんでみてはいかがでしょう。