第75回 正倉院展/奈良国立博物館

1300年大切に守り継がれてきた天平の雅な世界【読者レビュー】

2023年11月8日

第75回 正倉院展/奈良国立博物館

関西に秋が深まりを告げる「正倉院展」が始まりました。

約9000件の正倉院宝物の内から初出陳6件を含む59件が展示されています。

「正倉院はもともと東大寺の倉庫の1つです」元は公的な倉庫群といった意味でしたが、唯一残ったのが東大寺の倉庫、今日の「正倉院」です。

「校倉造」の正倉院「正倉」は、釘を一本も使わない想像以上に大きな古代木造建築で、その外構を見学する事が出来ます。


第75回 正倉院展 展覧会場図

仏教を篤く敬う聖武天皇の発願により東大寺大仏造営が始まり、天平勝宝4年(752)4月9日に大仏開眼会が行われました。

この開眼会に関わる品々も正倉院に納められています。

開眼会の4年後、天平勝宝八歳(756)5月2日に聖武天皇が崩御され、光明皇后は聖武天皇の遺愛の品を、七十七忌(四十九日忌)の6月21日に大仏に献納されました。

これが正倉院宝物の始まりです。この時の献納品リストが『国家珍宝帳』で、光明皇后の願文も記されています。


北倉1《九条刺納樹皮色袈裟 (くじょうしのうじゅひしょくのけさ)》刺し子縫いの袈裟 1領 幅253 縦147

《九条刺納樹皮色袈裟》は、『国家珍宝帳』の筆頭に記載され、天皇として初めて出家された聖武天皇の信仰心の深さを象徴しており、聖武天皇が実際に身につけられたかもしれません。


北倉1 《御袈裟幞袷(おんけさのつつみのあわせ)》 袈裟のつつみ 1条 長156 幅108

九領が伝わる聖武天皇の袈裟は、三領ずつまとめて風呂敷のような布で包まれていました。


北倉1 《御袈裟箱(おんけさのはこ)》袈裟の箱 1合 縦44.5 横38.6 高12.4

《御袈裟幞袷》で包んだ聖武天皇の袈裟を収納する箱です。

材質は、皮製、麻布、黒漆塗で「漆皮箱(しっぴばこ)」という動物の皮に漆を塗った奈良時代から平安時代に特有の箱です。


南倉101《楓蘇芳染螺鈿槽琵琶(かえですおうぞめらでんのそうのびわ)》 螺鈿飾りの四絃琵琶 1面 全長97.0 最大幅40.5

正倉院に伝わる五面の四絃琵琶の1面です。

背面や側面は螺鈿細工で豪華に飾られ、撥受け部分(捍撥[かんばち])には動物の皮を貼って絵が描かれています。


撥受け部分に描かれた絵「騎象奏楽図」の解説パネル

胡人が象に乗って楽器を演奏しています。

展示会場では琵琶や笛の音が流れています。


南倉101《楓蘇芳染螺鈿槽琵琶》 背面

琵琶はフォルムも美しい。


南倉70《平螺鈿背円鏡(へいらでんはいのえんきょう)》螺鈿飾りの鏡 1面 径39.3 縁厚0.9 重5410

ヤコウガイに赤い琥珀を象嵌し、琥珀の下には文様が描かれ(伏彩色技法)透けて見えています。

地の部分は青、緑、白のトルコ石で隙間なく埋め尽くされています。


南倉70《平螺鈿背円鏡》「鈕」(中央つまみ)部分

各所で産出した材を使い中国・唐で製作されたと推定される豪奢な鏡は、シルクロードの終着地へもたらされました。


中倉151《碧地金銀絵箱(へきじきんぎんえのはこ)》 花鳥文様の脚付き箱 1合 縦27.9 横17.5 高10.6

床脚(台脚)を付け、箱の中に内張[うちばり](嚫・クッション)を備えた箱で、仏への献物を納める箱と考えられています。

蓋と身の外面は岩群青を塗った淡青色を地色として金泥と銀泥で文様を描いています。

底裏には「千手堂」と墨書があり、現存しない東大寺千手堂のものであったことを表しています。

嘴(くちばし)で花をくわえた鳥「花喰鳥(はなぐいどり)」の軽やかなデザインも素晴らしい。


南倉36 《刻彫梧桐金銀絵花形合子(こくちょうごとうきんぎんえのはながたごうす)》 花形のふたもの 1合 長径31.9 短径18.8 総高11.5

唐代に意匠化された空想上の花文様である宝相華(ほうそうげ)を薄肉彫(うすにくぼり)で表した長楕円八稜花形の蓋付容器です。

ノコノコと動き出しそうです。花弁には金泥で筋が引かれ、花弁の縁に銀泥線を細かく引いて立体感を出す工夫もみられます。


南倉36 《刻彫梧桐金銀絵花形合子》底裏

六脚の銅板製の花葉形の脚「華足(けそく)」は、新補されたものです。

底裏に「戒壇(かいだん)」の墨書銘があり、東大寺戒壇院に伝来したことを物語っています。


南倉54 《紫檀小架(したんのしょうか)》 台付きの架け具 1基 高46.3 台長29.3

小型の掛け具。鳥居型の柱の前後に取り付けられた象牙の美しい細工に目が奪われます。

基台にもさまざまな技法が盛り込まれています。

細かな材を寄木細工風に組み合わせて象嵌する「木画」は超絶技巧です。


中倉15 正倉院古文書正集 第七巻〔少僧都良弁牒、法師道鏡牒ほか〕(しょうそういんこもんじょせいしゅう) 良弁や道鏡にまつわる文書 1巻 (9張)部分

今年は東大寺初代別当良弁(ろうべん)の1250年遠忌に当たり、良弁自筆のサインが入った文書です。


中倉15 正倉院古文書正集 第七巻〔少僧都良弁牒、法師道鏡牒ほか〕(しょうそういんこもんじょせいしゅう) 良弁や道鏡にまつわる文書 1巻 (9張)部分

奈良時代のラスプーチン的な道鏡の自筆のサインが入った文書。文書の内容から権力をふるっていたことが伺えます。


中倉50《青斑石鼈合子(せいはんせきのべつごうす)》 スッポン形のふたもの 1合 長15.0 高3.5

館長イチオシ!スッポンの形をした蓋に八稜形の皿のような身の被蓋造の合子です。

スッポンの再現性は高く、眼には琥珀が嵌め込まれています。


中倉50《青斑石鼈合子》図解パネル

甲羅には、北斗七星を反転した形が描かれ、星を銀泥、金泥の刻線で星を繋いでいます。

仙薬を秘蔵するための容器とも考えられ、道教の神仙思想にも関係あるかもしれません。


南倉185《錦道場幡(にしきのどうじょうばん)》 錦の吊り下げ旗 1旒 長131.5 身幅30.5

天平勝宝九歳(757)の聖武天皇の一周忌斉会(崩御の翌年に行われた法要)に用いられた道場幡(吊り下げ旗)の部分です。


南倉185《錦道場幡》の解説パネル


南倉180《赤地鴛鴦唐草文錦大幡脚端飾(あかじおしどりからくさもんにしきのだいばんのきゃくたんかざり)》 幡の下端につけた飾り 1枚 縦39.7 横46.3

聖武天皇の一周忌斉会で東大寺に掲げられた灌頂幡(かんじょうばん)という長い幡の下端に取り付けられた錦の飾。

聖武天皇の一周忌斉会では幡の下端には様々な飾が付けられ、1点1点がアップリケのようです。

いにしえの工人たちの、優美なデザイン、美しい色彩、高い技術に驚くばかりです。

正倉院の「曝涼」に勅封を開け、全宝物の点検に合わせて「正倉院展」は奈良国立博物館で開催されてきました。

1300年もの間災害や争いや困難をのり越え大切に守り継がれてきた宝物を私たちも未来へ引き継いでいかなければなりません。

Exhibition Information

展覧会名
第75回 正倉院展
開催期間
2023年10月28日~11月13日 終了しました
会場
奈良国立博物館 東新館・西新館
公式サイト
https://shosoin-ten.jp/