塩田千春の作品から他者との「つながり」を考える。圧巻のインスタレーションに注目
2024年10月3日
スーラージュと森田子龍/兵庫県立美術館
兵庫県立美術館で「スーラージュと森田子龍」が、3月16日~5月19日まで開催されています。
スーラージュって? 森田子龍(もりたしりゅう)って? とわからない方も多いのではないでしょうか。
ピエール・スーラージュは、フランスの現代絵画の巨匠です。黒を基調とした抽象画を多く描いており、フランスでは国民的人気画家です。
森田子龍は、戦後活躍した前衛書家です。東西の架け橋になりたいと日本に海外の絵画を紹介したり、自身の書を海外に数多く出品して、世界的に活躍しました。
今回は、フランスのアヴェロン県と兵庫県との20年を超える友好提携を記念して、二人の巨匠のコラボレーション展覧会が開かれています。
巡回の予定はなく、兵庫県立美術館でしか見られない展覧会だということで、早速行って来ました。
スーラージュは日本ではあまり知られていませんが、フランスでは人気です。2019年には、スーラージュが100歳になった記念にルーヴル美術館で、個展が開かれています。
生前に個展が開かれたのは、ピカソ、シャガールに次いで3人目ということですから、スーラージュの人気の高さが伺えますね。
一方の森田子龍は、東西の架け橋になりたいと、自身が編集していた書の雑誌『墨美』で、海外の作品も積極的に紹介していました。
その中で、スーラージュを取り上げたことが、森田子龍とスーラージュの交流のきっかけとなりました。
スーラージュは『墨美』に掲載するためにと、自身の作品写真を10点ほど、森田子龍に送っています。
58年にスーラージュは初来日し、森田子龍と直接、意見を交換し合いました。また63年には、森田子龍の方がパリを訪れ、スーラージュ夫妻と親交を温め合っています。
二人がおそらく、魂の共鳴を感じ合っていたということは、この展覧会で二人の作品を見ていたらとてもよくわかります。
そんな二人の作品を一度に見られる展覧会は、世界初だそうです。とても貴重な展覧会ですね。
森田子龍は、ニューヨークや、サンパウロピエンナーレなど、海外にも数多く出品しています。
この展覧会では、5つのエリアに分けられていますが、最初に入る部屋では、森田子龍が海外に出品した作品の数々を一度に見ることができます。
その中の1つ「坐俎上」は、1954年にニューヨーク近代美術館に出品した作品です。
とても漢字には見えないと思うかもしれませんが、実際にその作品の前に立つと、漢字の形を超えたものが見えてくる気がします。
森田子龍《坐俎上》1953年、兵庫県立美術館蔵
例えば、「死」というタイトルの作品などは、やはり、死という漢字には見えません。けれども、この黒々とした墨の広がりを見つめていると、死そのものが作品から浮かび上がってくるような気がするのです。
森田子龍《死》1961年、京都国立近代美術館蔵
森田子龍のエリアでは、そんな書の凄みもたっぷりと味わえます。
ピエール・スーラージュ《紙にクルミ染料》1949年、スーラージュ美術館蔵
こちらの作品は、『墨美』26号にもその作品写真が掲載されたものです。
この作品は、布の上に「くるみ染料」という家具を塗る塗料で描かれています。限りなく黒に近いけれども、黒ではない不思議な色味や、濃淡のかすれ具合に思わず見入ってしまいます。
スーラージュは、単なる黒い絵の具だけではなく、くるみ染料や木炭、鉛筆など、いろいろな黒の塗料を試して作品を作りました。
彼が黒の美しさに魅了され、さまざまな美しい黒を生み出そうとしていたということは、スーラージュの巨大作品でたっぷりと味わえます。
ピエール・スーラージュ《絵画 324×400㎝》1987年、彫刻の森美術館蔵(公益財団法人 彫刻の森芸術文化財団)
スーラージュは初来日後、「紙に墨」という作品を制作しました。
文字通り、紙に墨汁で描いたものなのですが、日本の水墨画や、森田子龍らの書の作品に影響されて作ったのではないでしょうか。そんなことを感じられる作品が3点並べて展示されています。
(左から)ピエール・スーラージュ《紙に墨66.1×50.9㎝》/《紙に墨66.1×50.3㎝》/《紙に墨65.9×50.3㎝》
いずれも、1961年、スーラージュ美術館蔵
奥の部屋では、森田子龍の漆金作品と呼ばれる金色に輝く作品の数々が味わえます。
パリを訪れた森田子龍は、紙と墨の作品は弱いと思い、もっと丈夫な作品を作ろうと、アルミニウムの粉をボンドで解いたもので描きました。
アルミニウムの粉だけでは銀色なのですが、表具屋カシュー漆をかけることで、このような美しい金色の作品になるそうです。
森田子龍《龍》1965年 清荒神清澄寺蔵
お互いの国や文化に影響され、さらなる高みを目指して作品を作っていたんだということがわかりますね。
抽象画の世界も、前衛書の世界もとてもわかりにくい世界ですよね。
けれども実際に展覧会の会場を訪れて、スーラージュの黒の作品や、森田子龍の書の作品の数々に見入る時、力強い筆跡や、かすれや、ハネ、色の濃淡に何か言葉にできないものを感じずにはいられません。
おそらく、抽象画も、前衛書も、どちらも理性ではなく魂で感じるものだからではないでしょう。
大学生は観覧料が特別に1000円に設定されています。
高校生以下は無料ですので、若い皆さんもぜひ、この機会に抽象画や、前衛書の世界に触れてみて下さい。