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クロード・モネの世界にひたる。日本初公開作品を含む〈睡蓮〉などを堪能【国立西洋美術館】
2024年11月1日
日本には、美術館・博物館がたくさん存在しています。
年に何度か足を運んだり、旅先でお楽しみとして訪れたり・・・素敵な館が全国のさまざまな場所にありますよね。
「学芸員の太鼓判」は、全国の館の自慢の名品を詳しく知りたい! そんな想いから生まれた企画です。
本連載では、全国の美術館・博物館の自慢の所蔵品を詳しくご紹介。
今回は、日本初の写実絵画専門美術館として知られ、約500点の写実絵画の名品を所蔵するホキ美術館の所蔵品を紹介します。
ホキ美術館
ホキ美術館は、写実絵画を専門に所蔵する美術館です。千葉最大の公園・昭和の森に隣接しており、豊かな自然と芸術が楽しめる場所となっています。
美術館創立のきっかけは、1枚の絵でした。創設者・保木将夫氏はもともと海外で絵画を買っていましたが、画家・森本草介氏の1枚の絵と出会ったことから、写実絵画のみを収集するようになります。集めたコレクションを、家の隣を展示場にして近所の方に公開していたことが話題となり、美術館の創立が決定しました。
展示風景
美術館の建物は、この写実絵画コレクションのために設計されました。不思議な形をした回廊型ギャラリーは、天井から床まで丸ごと、空間が鑑賞の妨げにならないよう、細心の注意が払われています。
館内では常時約120点の作品が展示されており、8つのギャラリーを楽しめます。
今回詳しくお話を聞いたのは、広報を担当される松井文恵さん。松井さんは、ホキ美術館の広報業務だけでなく、巡回展業務や所蔵作家へのインタビュー、作品解説づくりなどもされています。
そんな松井さんから、ホキ美術館が誇る作品、松井さんのイチオシ作品をお聞きしました。
公式サイトはこちら
森本草介《横になるポーズ》1998年 ホキ美術館
《横になるポーズ》は、ホキ美術館コレクション第一号で、すべてのはじまりの1枚です。日本最大の森本草介コレクション36点を所蔵するホキ美術館ですが、なかでも本作は森本氏の円熟期に描かれたものであり、完成度が高い作品となっています。
森本氏はこの女性をモデルに数多くの作品を描いたことで有名になりましたが、その始まりは1981年の第55回国展に出品した《朱》でした。とある画家の展覧会のレセプションで運命的に出会った人物で、どうしてもモデルになってもらいたいと強く思い、思い切って自ら声をかけたところ、承諾を得られたそうです。
その女性はある画家のお嬢さんで、自らも絵を勉強する女性であり、この飾らない女性のみずみずしい美しさをシックな色合いで多数描いたのだとか。ホキ美術館ではそれらの一連の作品を見ることができます。
作品のポイント
・ホキ美術館はじまりの1枚
・森本草介のミューズとも言える女性を描いた作品
女性のなだらかな曲線や、セピア色に包まれた上品な世界観は、森本芸術の真骨頂といえます。
このうつくしい曲線に美術館設計者も感銘を受け、建物のなかの1階から地下1階へと階段を降りてくるところの天井にある、防炎垂れ壁といわれる部分のなだらかな曲線にそのイメージが生かされているほど!
また、筆跡を残さないのも特徴のひとつで、美しい絵肌からは、横たわっている女性の体温までが感じられます。
作品のここに注目!
・温度が感じられるほどのリアルさ
・曲線美が美しい
ホキ美術館の写実絵画のコレクションがスタートしたのは1998年。『美術年鑑』を眺めていた保木将夫氏が元が目を奪われ、ぜひ現物を見たいと思ってすぐに作家に手紙を書き、百貨店の展覧会を見に行ったことからすべてが始まっています。
その会場には他の作家の作品も並んでいたのですが、森本草介の作品だけがカラーで見えてほかはモノクロの世界に見えたそうです。そのくらい衝撃的な出会いで、すぐに購入したいと思いました。しかし、すでに売約済みだったのです。そこで、では現在制作中の作品をということに話が進み、入手できたのが本作だったそうです。
ただ、この作品はすでに全国を回る展覧会への出品が決まっており、そのポスタービジュアルともなっていました。保木家に作品が届いたのは、半年以上経ってからのことだったそうです。
この作品をきっかけに写実絵画の収集が始まり、森本草介を中心に、野田弘志、五味文彦、島村信之等など、現代の写実画家のコレクションが広がっていきました。はじまりの1枚から約23年、現在は約500点のコレクションとなっています。
野田弘志《「崇高なるもの」OP.7》2018年 ホキ美術館
「崇高なるもの」OP.7は、2020年12月24日に98歳で逝去した世界的なヴァイオリニスト、イヴリー・ギトリスを描いた作品です。
画家・野田弘志がギトリスの演奏、音楽性はもとより、その人間性に惹かれ作品にしたいと思い、依頼し、コンサートでの来日時に写真撮影を行ったことから生まれた本作。それがギトリス93歳のころでした。
ギトリスは、東日本大震災の際にさまざまなコンサートが中止になるなかで、ヴァイオリン1本を携えてパリから日本にかけつけ、東北地方で演奏を行うほど、日本を愛していました。晩年は毎年のように日本に来日していましたがドクターストップがかかり、最後は来日がかないませんでした。
日本を愛したギトリスを描いた作品が日本に残ったことは大変貴重なことで、本人はこの作品を見ることはできませんでしたが、その魂は絵の中に生き続けています。
野田弘志とギトリス、互いにその活動に感銘を受け、芸術家同士の魂が響きあって完成した作品といえます。
今年は、ギトリスの追悼コンサートが東北で行われる予定です。
作品のポイント
・野田弘志がギトリスの人間性に惹かれ描いた1枚
・日本を愛したギトリスが描かれた作品。日本に所蔵されていることが貴重!
展示風景
本作ではギトリスの大きな手にまず注目! ごつごつとしていながら繊細な、たくましい手で多彩な音楽を生み出してきました。
また、ギトリスのポーズにも着目してみてください。制作中、彼は自らさまざまなポーズをとりました。この足の組み方も体のひねりも、いつも明るく楽しいギトリスがおどけていろいろなポーズをとったなかで決まった1枚だそうです。
館内の長い回廊をずっと歩いて進んでいき、3つ目の回廊をまっすぐ行くと階段を降ります。その階段をおりながら、この作品に正面から出会うことができます。
しばらく常設展示されているので、ギトリスの絵の中に深く感じられる、崇高なる魂をぜひ味わってください。
作品のここに注目!
・ギトリスのユニークな表情やポーズ
・ごつごつとしながらも繊細で大きな手
野田弘志の「崇高なるものシリーズ」は、現在OP.7まで制作が進んでいる、野田弘志のライフワークとなるシリーズです。このシリーズの中で、ギトリスは初めて着席のポーズを試みたもので、人物を大きく描くことでより存在感を出したかったと画家は語っています。
ギトリスを野田弘志に紹介したのは、30年来の友人であるピアニストの岩崎淑さんで、《「崇高なるもの」OP.4》のモデルにもなっていますが、ギトリスと岩崎さんは共に演奏会を何度も行ってきました。
作家とモデルの関係をひもといて知っていくのもまた作品への理解が深まって楽しいことと思います。
ホキ美術館にはOP.2~7までが所蔵されており、そのモデルはホキ美術館の創設者である保木将夫、詩人の谷川俊太郎、ピアニストの岩崎淑、野田塾塾生の女の子、ノーベル化学賞受賞者の野依良治、そして、ヴァイオリニストのイヴリー・ギトリスとなっています。
創設者保木将夫の座ったポーズの作品は、ギャラリー8の「私の代表作」の部屋に展示されています。こちらは2022年11月初旬まで展示予定です。
展示風景
また、野田弘志は平成の天皇皇后両陛下(現上皇・上皇后陛下)の肖像を4年かけて仕上げ、宮内庁へ納めてました。
目が離せなくなるほどリアルな作品が立ち並ぶ、ホキ美術館。
「今回紹介した2点以外にも、もちろんたくさん、各作品にはお話ししたいエピソードがあります。ご興味がある方は、どうぞ書籍などでご覧ください。」と松井さんは語ってくれました。
※参考書籍URL
ホキ美術館
ホキ美術館は現在を生きる写実画家の作品を収集している、現在進行形の美術館です。今後作家たちがどのような作品を描いていくのか、また若手のどんな作家が出てくるのか、目が離せません。
カフェやレストランも併設されています。隣接する昭和の森も気持ちよいですよ。お出かけにいかがでしょうか?
次回は太田記念美術館の自慢の名品を紹介します。お楽しみに!