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2024年11月1日
レクイエム 猫と肖像と一人の画家/横尾忠則現代美術館
兵庫県の横尾忠則現代美術館 で、「レクイエム 猫と肖像と一人の画家」がはじまりました。
今年88歳を迎えた、美術家である横尾忠則の「死生観」が垣間見える展覧会です。
谷崎潤一郎の長編小説『猫と庄造と二人のをんな』のタイトルから着想を得た「猫」と「肖像」の部屋では、今は亡き登場人物たちの生き生きとした姿を作品の中に見ることができます。
篠山紀信作品(「レクイエム 猫と肖像と一人の画家」展示風景)
会場2Fの展示室「肖像」では、家族や友人をはじめ、横尾がこれまでの創作で関わってきた同業者や文学者、俳優といった、今は亡き愛しい人たちの肖像画や貴重な関連資料が展示されています。
「肖像」の部屋のすぐそばに設置されている「故郷」のコーナーでは、「創作の原点」ともいえる横尾の出身地・兵庫県西脇市の思い出の風景を背景に、クラスメートたちと一同に会する楽しげなようすが目に飛び込んできます。
横尾忠則作品(「レクイエム 猫と肖像と一人の画家」展示風景)
1994年に制作された《記憶の鎮魂歌》や2003年制作の《友の不在を思う》は、そんな懐かしい友人たちとの写真がモチーフ。
作品の中には他界した同級生の姿が重ねられており、これらはふるさとの亡くなった友のための「レクイエム」としても描かれています。
横尾忠則作品(「レクイエム 猫と肖像と一人の画家」展示風景)
また、3歳の頃に養子として迎えられた経験から、一般的な親子と比べて歳が離れている義父母の死を恐れていたことが、彼の「死生観」に大きな影響を与えています。
「家族」のコーナーでは、20代で義父母を失い、「死」を身近なものとして捉えた横尾ならではの作品を鑑賞することができます。
横尾忠則作品(「レクイエム 猫と肖像と一人の画家」展示風景)
磯崎新、三島由紀夫、高倉健、篠山紀信・・・。
「肖像」の部屋には、横尾の生き方や創作にインスピレーションを与えた人たちの写真や作品が、故人の名前ごとに展示されています。
横尾忠則作品(「レクイエム 猫と肖像と一人の画家」展示風景)
熱狂的なビートルズマニアだった横尾は、1971年にニューヨークでジョン・レノン、オノ・ヨーコとの面会を果たしており、オノとの交流は現在でも続いているそう。
「ジョン・レノン」のコーナーでは、貴重なサイン入りのTシャツや3人で撮影した写真なども観ることができます。
横尾忠則作品(「レクイエム 猫と肖像と一人の画家」展示風景)
没後10年となる「高倉健」のコーナーでは、高倉の大ファンだった横尾が自主制作したポスターや、高倉のレコードなども展示されています。
横尾忠則作品(「レクイエム 猫と肖像と一人の画家」展示風景)
ファッションブランド「ISSEY MIYAKE」の創設者である「三宅一生」のコーナーでは、《イッセイミヤケ パリコレクション招待状 SS1988 (原画)》をはじめとした横尾と三宅のコラボレーション作品なども観ることができます。
パリコレクションの招待状デザインは、イッセイミヤケのデザイナーとともに現在も続いてるそう。
なお、本展の準備が進められている中で判明した旧友の訃報を受け、急きょ展示が決まった作品なども加わっています。
横尾忠則作品(「レクイエム 猫と肖像と一人の画家」展示風景)
2014年5月に死去した愛猫・タマを偲び、横尾は以後2020年まで、在りし日のタマの姿を描き続けました。
3Fの「タマ」の部屋では、「タマ、帰っておいで」シリーズをはじめとしたタマの肖像画や日記、写真などが展示されています。
横尾忠則作品(「レクイエム 猫と肖像と一人の画家」展示風景)
横尾がタマの最後の姿を模写した日からの約6年間で制作された作品の数は、89点にものぼります。
横尾忠則作品(「レクイエム 猫と肖像と一人の画家」展示風景)
野良猫だったタマが家族となりともに過ごす中で、本能に忠実なタマの生き方を通して「芸術家としてのあるべき姿」を学んだと横尾は言います。
まるで今にも動き出しそうなほど生き生きとした表情豊かな作品からは、賑やかながらも穏やかな愛猫と横尾の日常を発見することができました。
横尾忠則コレクションギャラリー
2021年に新設された「横尾忠則コレクションギャラリー」では、今回の展示に合わせて横尾と親交のあった作家・アンディー・ウォーホルが特集されています。
横尾忠則作品(「横尾忠則コレクションギャラリー」展示風景)
横尾がはじめてウォーホルと出会ったのは、1967年のこと。また、2度目にオフィスを訪れた際には、ミック・ジャガーのポートレート作品を2点、本人から直接購入しているそうです。
本展では、横尾の自宅に飾られている4点のウォーホル作品とウォーホルをモチーフとしたシリーズ《A.W.Mandala》の中から寄贈された作品が公開されています。
横尾忠則作品(「横尾忠則コレクションギャラリー」展示風景)
今や「彼岸の住人」となった、家族、故郷の友人、愛猫、そして業界や国境などの垣根を超えて横尾と創作をともにした、愛しい人たち。
彼の作品の中で生き続ける登場人物たちの姿を通じて、「あの世とこの世」の時空を超えた横尾忠則の世界感を存分に楽しめる展覧会です。
横尾忠則作品《タマ、帰っておいで》 2017年 横尾忠則現代美術館蔵
「今回の展覧会は、私の長いキャリアの中で親しく交流してきた方々への鎮魂展でもあります。その人たちと共有した多くの長い時間の記憶はすべて私の作品の中に存在し、生き続けています。」
今回の展示と横尾のメッセージからは、死に対する「悲しさ」よりも、懐かしい人たちとの思い出を語り合うような「楽しさ」を感じました。
彼の作品の中で息づく「登場人物たちとの交流を楽しむ」ことこそが、彼らに対する「レクイエム」となるのかもしれません。