塩田千春の作品から他者との「つながり」を考える。圧巻のインスタレーションに注目
2024年10月3日
特別展 文明の十字路 バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰/三井記念美術館
特別展「文明の十字路 バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰 ―ガンダーラから日本へ―」が、東京の三井記念美術館で9月14日から11月12日まで開催中です。
アフガニスタンにある世界遺産・バーミヤン遺跡はタリバンに破壊され、危機遺産にも登録されています。
本展では、破壊された大仏東西2体の周囲に描かれていた壁画を名古屋大学・龍谷大学名誉教授の宮治昭氏らが研究資料を基に作成した描き起こし図を公開。あわせてシルクロード周辺国の仏教美術も紹介し、2~7世紀にかけて弥勒(みろく)信仰が東アジアに広がっていった道筋をたどります。
バーミヤン遺跡は、アフガニスタンの首都カブールから約120km離れたヒンドゥークシュ山脈にあります。
シルクロードの要所で、「西遊記」でおなじみの玄奘三蔵(げんじょうさんじょう)も訪れた記録が残っています。
Google Map ヒンドゥークシュ山脈↓
東西約1.3kmの断崖に約800の石窟郡があり、2体の巨大な大仏(高さ38mの東大仏、高さ55 mの西大仏)の周囲には壁画が描かれていました。マンションの1階の高さを3mとすると、55mは18階の高さです。
2001年3月にイスラム原理主義組織・タリバンによって破壊されてしまいましたが、破壊前に日本の調査隊が記録した写真、ノート、スケッチなどの資料から大仏周辺に描かれていた壁画の描き起こし図が作成されました。
監修は名古屋大学、龍谷大学名誉教授・宮治昭氏、作図は京都市立芸術大学の正垣雅子准教授です。
写真右 宮治昭監修・正垣雅子筆《バーミヤン東大仏龕天井壁画描き起こし図》2022年 龍谷ミュージアム
ゾロアスター教の太陽神ミスラが描かれている。タイトルのとおり「文明の十字路」だったバーミヤンはインド、イラン、ギリシア・ローマなどのさまざまな文化が交わる地点であり、作品にはヒンズー教やギリシア神話など各国の宗教の影響が見られる
写真左 宮治昭監修・正垣雅子筆《バーミヤン西大仏龕壁画描き起こし図》2023年 龍谷ミュージアム
弥勒菩薩(みろくぼさつ)が住んでいる兜率天(とそつてん)のようすが描かれている。中央部分は、20世紀初頭には既に剥落していた
西大仏壁画の失われた中央部分を再現した想定復元図。他の壁画に描かれた弥勒菩薩を参考に作成している
《バーミヤン大磨崖測量関係資料》1970年代 京都大学
1970年代に京都大学の調査隊が記録した資料 展示コーナー6より
展示室1 展示風景より ガンダーラの浮彫(レリーフ)などが展示されている
本展は、7つの展示室とバーミヤン遺跡に関するビデオ上映で構成、有料の音声ガイドも用意されています。
前出の描き起こし図と並ぶもう一つの目玉は、弥勒信仰をテーマにインドから日本までをたどる、シルクロード周辺国の仏教美術品です。
弥勒菩薩(みろくぼさつ)は、釈迦(しゃか)の入滅後、56億7000万年後に出現すべく待機している未来仏で、*兜率天に住んでいるとされています。
*兜率天(とそつてん)・・・仏教の世界観における天界のひとつ。
展示室4 展示風景より
写真右手前は、3~4世紀頃のガンダーラの弥勒菩薩立像です。菩薩(ぼさつ)は悟りを開く前の修行者で、釈迦が王子だった頃の姿がモデルとされています。
筆者は日本の仏像は中性的な姿が多いイメージを持っていますが、元はインドの王子ですから、こちらのほうが実物に近いと思われますね。
展示室4の展示風景より
写真中央は《玄奘三蔵坐像》13~14世紀 薬師寺
玄奘三蔵は630年頃、インドへの旅の途中にバーミヤンを訪れました。旅行記「大唐西域記」には大仏を含む現地のようすが記されています。
《大唐西域記》1653年 龍谷大学図書館
展示室5 展示風景より
インドから中国・朝鮮にやってきました。展示室5のテーマは「西大仏と弥勒信仰Ⅲ-中国・朝鮮-」です。
5~7世紀の弥勒菩薩像や浮彫、7~16世紀の経典や図像などが展示されています。写真左手前にあるのは、中国の《菩薩半跏思惟(ぼさつはんかしい)像》、半跏思惟とは、右足を左膝に乗せ、肘をついたポーズのことです。
中国では、単独の菩薩半跏思惟像は弥勒との関連が深いのだそうです。
展示室2 展示風景より
《弥勒菩薩半跏像》666年 野中寺
こちらは日本の半跏像、重要文化財の《弥勒菩薩半跏像》です。野中寺は大阪府にある真言宗の寺院で、飛鳥~奈良時代の大規模な伽藍(がらん)が存在したことで知られています。
小さな像ですが、古代の雰囲気がリアルに感じられた気がしました。弥勒像は聖徳太子の時代には既に日本に存在したそうです。
展示室7 展示風景より
最後の部屋は「日本の弥勒信仰」。古代から桃山時代まで、重要文化財を含む日本の仏像や曼荼羅(まんだら)が展示されています。
弥勒菩薩が姿形を変遷しながら国から国へ伝わっていくようすを観ることができ、仏像を観ながら旅をしているような気分になる展示でした。
タリバンが仏像の破壊命令を出した直後、ユネスコ(国連教育科学文化機関)親善大使だった平山郁夫氏は、各国の美術館に呼びかけて抗議声明を出し、国際社会にバーミヤン遺跡の緊急保護を呼びかけました。
破壊後の2003年にはユネスコによる調査・保存修復事業が始まり、日本も資金提供や調査・保存活動を行っています。
日本にも縁の深いバーミヤン遺跡ですが、学芸員によると現在は治安悪化で思うように入れない状況だそうです。
修復作業が再開されるのはまだ先のようですが、その時まで世界中にある復元のための資料が良い状態で守られていることが大事だと感じました。