ピュシスについて/アーティゾン美術館

音と光で感じる 自然の中の見えない力 ー毛利悠子が具現化する「ピュシス」とは?【アーティゾン美術館】

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2024年11月23日

音と光で感じる 自然の中の見えない力 ー毛利悠子が具現化する「ピュシス」とは?【アーティゾン美術館】

ジャム・セッション 石橋財団コレクション×毛利悠子—ピュシスについて 展示風景

アーティゾン美術館で、「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×毛利悠子—ピュシスについて」展がはじまりました。

「ジャム・セッション」は、2020年以降毎年開催されている、石橋財団コレクションとアーティストとが共演する展覧会。現代のアーティストが、収蔵作品からインスパイアされた新作を発表します。

第5回目となる今回は、国際的なアートシーンで注目を集めるアーティスト・毛利悠子が作品を発表。毛利悠子の国内初の大規模展覧会となります。


(左)毛利悠子《Calls》2013- 作家蔵、(右)コンスタンティン・ブランクーシ《接吻》1907-10 公益財団法人石橋財団蔵

美術家・毛利悠子

毛利悠子は、1980年神奈川県生まれの美術家。

インスタレーションや彫刻を中心に、磁力や電流、空気や埃、水や温度といった、空間にただよう「見えない力/事象」に形を与え、わたしたちが目や耳で感じ取れる形に変換する作品で知られています。


毛利悠子

2024年4月から11月にかけて開催中の「第60回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展」では、日本館の代表作家に選出された注目のアーティストです。

自然の中の「見えない力」を音や動きに変換

展示室の入り口には、電極が挿された複数の果物と4台のスピーカーが並び、オルガンのような音が聞こえてきます。


毛利悠子《Decomposition》2021- 作家蔵

果物の水分量を電気信号に変換し、背後にあるLEDパネルの光の明滅や、スピーカーからの音として表現する作品《Decompse》です。目に見えない果物の些細な変化を、目や耳で感じ取れるかたちに変換しています。


毛利悠子《Decomposition》2021- 作家蔵

展示室に入ると、ジョルジュ・ブラックによる《梨と桃》が目に入ります。こうした静物画は、英語で「still life(動かない命)」と呼ばれますが、止まっているように見える果物も、実際には常に変化し続けているようすが可視化されるようです。


ジャム・セッション 石橋財団コレクション×毛利悠子—ピュシスについて 展示風景

展覧会のタイトルにある「ピュシス」とは、「自然」や「本性」と訳される古代ギリシア語。

毛利悠子の作品は、そうした自然の中にある見えない動きを観察し、そのわずかな変化と向き合いながら創り上げられています。

マルセル・デュシャンら 石橋財団コレクション作品を参照した作品

入り口の緩やかな傾斜を上ると、展示室全体を見渡せます。今回の展覧会は、大きく7つのプロジェクトで会場が構成されました。


ジャム・セッション 石橋財団コレクション×毛利悠子—ピュシスについて 展示風景

なかでも注目したいのは、毛利悠子がこれまでも継続的に着目してきたマルセル・デュシャン作品との共演です。

2018年に京都国立近代美術館で開催された「キュレトリアル・スタディズ 12: 泉」でも、デュシャンの《彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも》(通称:大ガラス)を立体的に解釈する試みを行いました。


毛利悠子《めくる装置、3つのヴェール》2018- 作家蔵

今回の展示では、展示室の一角で同作品を立体的に表現。テニスコートのような空間の一方を《大ガラス》下部にある9人の「独身者」の空間に、壁を隔てたもう一方空間を、大ガラス上部にある「花嫁」の空間に見立てています。

隣には、デュシャンの全作品のミニチュアがひとつの作品として構成された《マルセル・デュシャンあるはローズ・セラヴィの、または、による (トランクの箱) シリーズB》も展示されているので、参照した作品との対比がよくわかります。


マルセル・デュシャン《マルセル・デュシャンあるいはローズ・セラヴィの、または、による (トランクの箱) シリーズB》1952, 1946 公益財団法人石橋財団蔵

さらに、《大ガラス》の外観を立体的なオブジェとして表現するだけでなく、もとの作品の各要素の意味と関係性を表現するように、オブジェどうしが連動して音や動きを創り出しています。

例えば、「眼科医の証人/検眼表/マンダラ」という3つの楕円のモチーフは、今回、金属の彫刻で表現され、金属製のほうきがその上をなぞっていきます。


毛利悠子《めくる装置、3つのヴェール》2018- 作家蔵

これがスイッチとなり、壁を挟んだ「花嫁」の部屋にあるサーキュレーターが動き、その風で花嫁のヴェールがめくれあがりました。

そのようすはスキャナで読み取られ、「換気弁」のモチーフにあたる場所に設置された 3 台のモニターに映し出されていきます。


毛利悠子《めくる装置、3つのヴェール》2018- 作家蔵

デュシャン自身も、この「換気弁」のデザインには偶然性の要素を取り入れていたといい、もとの作品への解釈を毛利の独自の方法で作品に落とし込んでいます。

即興演奏のような 音で満たされた空間

本展のキービジュアルになっている作品は、クロード・モネの《雨のベリール》をもとにした毛利悠子の《Piano Solo: Belle-lie》です。モネが作品を描いた場所を実際に訪問して撮影した映像がスクリーンに流れます。


(左)毛利悠子《Piano Solo: Belle-lie》2021-/ 2024 作家蔵、(右)クロード・モネ《雨のベリール》1886 公益財団法人石橋財団蔵

絵画どおりの素晴らしい景色ながらも、それを見られるのは崖のような足下の悪い場所で、過酷な自然のロケーションで描き続けたモネの作品への情熱も垣間見ることができたと毛利は語りました。

映像の前にはマイクとピアノが置かれ、波の音をマイクが拾い、ピアノのメロディへと変換されていきます。


ジャム・セッション 石橋財団コレクション×毛利悠子—ピュシスについて 展示風景

このほかにも会場の中では、光や湿度、ほこりなど、普段は気に留めなかったり、目に見えない些細な環境の変化を作品がひろい、動きや音に変換する作品が複数展開されています。


毛利悠子《I/O》2011- 作家蔵

「インプロヴィゼーション(即興演奏)」という言葉は毛利悠子の作品のキーワードのひとつですが、まるで展示室全体がひとつの舞台のように、即興演奏のような音と動きに満たされる展覧会となっています。

まとめ

石橋財団コレクションとアーティストとが共演する「ジャム・セッション」展。

「毛利悠子—ピュシスについて」では、コレクション作品と毛利悠子の作品、そして、毛利のひとつの作品内、会場の作品同士の間でも即興演奏が行われるような展覧会でした。

会場で作品どうしの協奏を体験してみませんか?

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