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2024年11月1日
グランマ・モーゼス展―素敵な100年人生/世田谷美術館
アメリカの国民的画家として知られるアンナ・メアリー・ロバートソン・モーゼス(1860-1961)。モーゼスおばあさん(グランマ・モーゼス)は、70代で本格的に絵を描き始め、80歳のときにニューヨークで初の個展を開きました。
あたたかみのある日常の風景を描いたグランマ・モーゼス。彼女の作品を通覧する展覧会が、世田谷美術館にて開催中です。
展示風景
本展では、最初期の作品から100歳で描いた絶筆までの作品に加え、刺繍絵や愛用品・資料などを紹介。また、日本初公開の作品も展示されます。素敵な100年を生きたグランマ・モーゼスの世界を満喫できる展覧会です。
※展覧会情報はこちら
本展は全4章で構成。グランマ・モーゼスが絵筆をとったきっかけや、アメリカ中で愛されるようになった経緯を紹介します。
グランマ・モーゼスは、70代まで農家の主婦としてつつましく生きていました。彼女の作品のほとんどは、ニューヨーク州とヴァーモント州にまたがる田園、その土地に生きる人びとの日常を描いたものです。
絵を描き始めるようになったのは、それまで得意だった刺繍をすることが難しくなったからだそう。
制作当初はその絵が注目されることはありませんでしたが、旅をしながら作品をコレクションしていたルイス・カルドアが、ドラッグストアでたまたまグランマ・モーゼスの絵を見つけたことが、彼女を画家にするきっかけとなりました。カルドアはすべての作品を数ドルで購入したのです。
展示風景
この作品群をニューヨークに持ち帰ったカルドアはさまざまなギャラリーを巡り、ついにギャラリー・セント・エティエンヌを経営していたオットー・カリアーと出会います。彼はグランマ・モーゼスの絵に感銘を受け、初個展が開催されることになりました。
グランマ・モーゼスの作品は、当時大恐慌や第二次世界大戦などで疲れ切っていたアメリカの人びとの心をつかみ、しだいに広く知られるようになっていきました。
展示風景
大統領から表彰されるまで有名になったグランマ・モーゼスでしたが、その後も静かな暮らしを守り、101歳まで亡くなるまで描き続けました。
会場には、グランマ・モーゼスが制作の際に使用していたテーブルが展示されています。
画家として名声を得てからもアトリエは作らず、寝室や小部屋などで制作していたのだとか。また、絵具入れや筆洗いは空き瓶を使用し、絵筆は毛がすり切れても使い続けました。
今持っているものを大切に使い、つつましく暮らす。作品はもちろん制作の姿勢からも、グランマ・モーゼスの人柄を感じ取ることができます。
当時の生活は、電気が無かったのでロウソクを作ったり、作物の収穫やキルトを縫うことなど、すべてが人の手によって行われていました。こうした活動はあたり一帯で共同で行われ、結婚や引っ越しなどのイベントも近所で助け合い、そのことにより生活が成り立っていました。
現代ではあまりない感覚かもしれませんが、仕事とは、仲間意識を育む喜ばしい場でもあったのです。
アンナ・メアリー・ロバートソン・“グランマ”・モーゼス 《村の結婚式》
1951年 ベニントン美術館蔵
© 2021, Grandma Moses Properties Co., NY
大家族が普通であった当時。結婚式は、若いふたりの門出であり、人びとの出会いと別れの場でもありました。
《村の結婚式》では、大きな家の中庭に人びとが集っています。みんな晴れやかな顔をしており、お祝いにふさわしい雰囲気が感じられる作品です。
グランマ・モーゼスは、自身が体験した農村の暮らしや特別なイベントなど、便利と引き換えに失われつつある過去を描き、伝えようとしています。
田舎での暮らしは穏やかなようにも見えますが、すべてが手作り。季節ごとの特別な行事もありました。さらには天候に左右されたりと、実は過酷なもの。春の訪れを予告するメープルシロップの採集や、クリスマスなどは、農村で忙しく生きる人びとにとって貴重なイベントでした。
グランマ・モーゼス自身の、子ども時代の楽しい思い出をまじえたシーンを描いた作品も展示されています。
アンナ・メアリー・ロバートソン・“グランマ”・モーゼス 《シュガリング・オフ》
1955年 個人蔵(ギャラリー・セント・エティエンヌ、ニューヨーク寄託)
© 2021, Grandma Moses Properties Co., NY
グランマ・モーゼスが生きたニューヨーク州北部では、11月から3月にかけて大雪が続くことも珍しくありませんでした。村の人びとはその期間をじっと耐え、春の訪れのきざしである「シュガータイム」を待ちわびていました。
2月になり、メープル(サトウカエデ)の樹液が巡り始めると、メープルシロップと砂糖を作るために樹液を採集する「シュガリング・オフ」が行われます。
まだ雪の残る寒い冬に、子どもたちにとって最高の楽しみだった「シュガリング・オフ」。グランマ・モーゼスはこのテーマを何度も描きました。
展示風景
そのほかにも、夏の終わりに行われたアップル・バターづくりや、サンクスギビング、ハロウィーンにクリスマスなど。
大人にとっても子どもにとっても特別でワクワクしたイベントを、色鮮やかに描き出しています。
いつも自然がそばにある農村での暮らしは、グランマ・モーゼスに自然への観察眼と感謝の念をもたらしました。
自然は時に猛威をふるい、人びとの努力を無駄にすることがありますが、何度でも美しく再生する。そんなことを、グランマ・モーゼスの絵画からは感じることができます。
アンナ・メアリー・ロバートソン・“グランマ”・モーゼス 《虹》
1961年 個人蔵(ギャラリー・セント・エティエンヌ、ニューヨーク寄託)
© 2021, Grandma Moses Properties Co., NY
《虹》は、101歳を3か月後に控えたグランマ・モーゼスによる、最後の完成作とされる作品です。
ややすれた筆運びですが、変わらず描かれている農作業にいそしむ人びと。よく知る農場の建物や木の向こうには、グランマ・モーゼスが愛したピンク色に染まる虹も描かれています。
当時、グランマ・モーゼスの100歳の誕生日は国を挙げて祝われたそうです。本展では、彼女がいかに愛されていたかを示すグッズなども紹介しています。
展示風景
1947年にホールマーク社のグリーティングカードが売り出され、アメリカ中で大人気になると、グランマ・モーゼスの作品をもとにした商品がどんどん制作・販売されるようになります。
インテリア、ファッション、食器、台所用品やゲームなど。展示品から、グランマ・モーゼスがいかにアメリカの人びとに愛されていたかを知ることができます。
本展はオリジナルグッズも見どころのひとつ! 鑑賞を終えると特設ショップにそのまま進むことができます。
グランマ・モーゼスの作品をもとにしたグッズはもちろん、農家の暮らしにちなんだグッズなども目白押しです。
特にイチオシなのが、「ジェニーさんのりんご畑 Apple Butter」です。
ジェニーさんのりんご畑 Apple Butter(155g 1,300円・税込)
アップル・バターとは、りんごを長時間に詰めて作ったペーストです。本場アメリカの伝統製法で作られた香り豊かなペーストは、人口添加物は使用せず、材料はりんごとシナモンと非常にシンプル。
グランマ・モーゼスが楽しんだ、農場の秋の味わいを感じることができますよ。
また、本展のグッズは、オンラインでも購入することができますので、チェックしてみてください!
公式オンラインショップ:https://grandma-moses.shop/
グランマ・モーゼスの生誕160年をきっかけに企画された本展。
モノであふれる現代。古き良きアメリカのライフスタイルから、暮らしのヒントを得てみてはいかがでしょうか。
なお、本展は日時指定予約制です。
ご来館される際は、特設ホームページをよくご確認ください。