
東山魁夷を中心に日本の風景画をたどる展覧会【福田美術館】
2025年2月10日
おいしい民窯 -食のうつわ-/豊田市民芸館
豊田市民芸館・第1民芸館外観
「民窯(みんよう)」。あまり馴染みのない言葉ですが、「民藝」はご存じなのではないでしょうか。
民藝は「民衆的工芸」の略で、民衆の生活の中から生まれ、生活に使われる無名の職人の手仕事から生まれた日用品のこと。そして民窯とは、日々の生活で使う器や道具を焼く窯や、その焼きもの自体を指す言葉です。
豊田市民芸館では、日本各地で育まれた「普段づかいの食のうつわ」にフォーカスした展覧会が開催されています。
第1民芸館会場風景
豊田市民芸館は、東京・駒場の日本民藝館が改築される際に建物の一部が豊田市に寄贈されて1983年に開館しました。
日本民藝館は、思想家・柳宗悦(やなぎ むねよし)が民藝運動の拠点として1936年に開設した館。
民藝運動は、それまで美術史上正当に評価されてこなかった無名の職人の手による民衆の工芸品の美を発掘し、世に紹介しようとしました。「民藝」という言葉も柳の造語。柳宗悦は「民藝運動の父」と称されています。
豊田市民芸館・第1民芸館は柳宗悦の設計によるもの。柳が使用していた元館長室も見学できます。中央の照明も柳がデザインしたものだそうです。
穴窯
第1民芸館に隣接し、陶器を焼く穴窯があります。市内にあった平安時代の古窯を移設・復元したもので、現在も陶芸講座で使われる現役の窯です。
豊田市民芸館では陶芸のほか、機織りや絞り染めや藍染め、トンボ玉などの講座も開催されていて、「手仕事」に親しむことができます。
《現代日本民窯地図》昭和45年
今回の展示テーマ「民窯」。
地図をみると、北から南までさまざまな地域に根差した窯があることがわかります。それぞれの土地ならではの、特徴ある器が生まれてきました。
展示風景
豊田市民芸館ではキャプション以外の説明書は最小限です。
これは「見テ 知リソ 知リテ ナ見ソ」という柳宗悦の考えを実践したものだそう。見てから知りなさい、知ってから見てはいけない。説明書があるとそちらに気をとられ、ものを見るのが疎かになってしまう。
ありのままに見て感じてほしいという思いでもあるのです。
《抱瓶》沖縄県壺屋
沖縄の伝統的な携帯用の酒器・抱瓶(だちびん)。ひもで肩からかけ、腰に当てやすいように三日月形をしています。
デザインありきではなく、使いやすさを考えて作ったらいつの間にかこの形に・・・そんな民窯の魅力です。
《いられかん》高知県内原野
「いられかん」と名付けられたユニークな形の器は、高知県の酒燗です。「いられ」とは土佐弁で「せっかち」。
酒を湯燗でなく直火にかけられ、ドーナツ形状は熱効率がよく早く温められる。沖縄の抱瓶といい、まさに暮らしの中から生まれた形なのです。
《エッグベーカー・エッグスタンド》島根県湯町 《スリップウェア角皿》島根県布志名
島根県の窯元のなんとも可愛らしい器たち。朝食にこんなエッグベーカーやエッグスタンドが出てきたら、朝から気分が上がりそうですね。
《ぽてぽて茶碗》島根県母里《雲助》島根県石見《薬味入》島根県袖師
こちらも島根の窯元の作。島根には窯元が多いそう。柳宗悦が1931年に「島根工藝診察」として訪れたことをきっかけに、民藝運動に影響を受けた窯元が現在も続いています。
会場風景(第2民芸館)
ここまで西日本の民窯をみてきましたが、会場を移して第2民芸館では東日本の民窯を観賞します。
西日本は明るくカラフルなものが多いのですが、東日本ではグッと渋い雰囲気が漂います。
《織部皿》愛知県瀬戸
同じように見えても、一枚一枚、模様や釉薬のかかり方も違う。手仕事ならではの唯一無二の器です。
《鰊鉢》福島県会津本郷
山に囲まれ、新鮮な魚が手に入らなかった会津では、保存食としてニシンの山椒漬けという郷土料理が生まれました。そしてそのために作られた鉢がこちら。
民窯は「使ってこそ」。ニシンを漬けるためだけにつくられたこの鉢は、民窯の中の民窯、と言えるのかも。無駄なものが削り落とされたシンプルな形状が美しい。「用の美」です。
《灰燗》茨城県笠間
鳥のようなキュートな形状の器は、酒を温める燗。囲炉裏の熱い灰に、尾のような細い側を直接差し込んで酒を温めたそうです。
《ワインカップ》山形県平清水 ほか展示風景
美しい色のワインカップを発見。ワインレッドが映えそうな器ですね。
《急須》滋賀県信楽
素朴で味わい深い、いかにも「日本の茶器です!」という雰囲気の急須と湯呑。
眺めていると和菓子が食べたくなります・・・。
《麦藁手入子鉢》愛知県瀬戸
うつわのマトリョーシカ。注ぎ口が少し出ているのに、すっぽり綺麗に収まるように作られているのは見事です。
特別展示「とよたの旬を、民窯のうつわに盛って」展示風景
料理を盛ると、器はまた違った表情を見せてくれるもの。
豊田市が発行する「広報とよた」。「旬レシピ」コーナーでは、地域の協力店が地元食材を使ったレシピを民芸館所蔵のうつわに盛りつけ、紹介しています。(2024年9月~会期中の一部発行月のみ)
料理が盛りつけられた写真と、うつわの実物を見比べてみるのも新鮮。シンプルな器が料理を引き立てています。
民窯のうつわ販売
さまざま民窯の器を観ると、ちょっと欲しくなったりしませんか?
「民窯のうつわ販売」のコーナーがあるんです。たくさんの愛らしい器の中からお気に入りをチョイス。そしてぜひ毎日お使いください。民窯は「使ってこそ」なのです。
常設展展示風景(第3民芸館)
広い敷地の中には、囲炉裏や日本間など館全体が常設展示となっている第3民芸館や、市内唯一の明治時代の洋風建築・旧井上家住宅西洋館、茶室「勘桜亭」など見どころがたくさん。土日・祝日は、勘桜亭で和菓子とお抹茶が楽しめますよ。
これからの桜や新緑の季節に、ぜひ出かけてみてはいかがでしょうか。