春の砧公園で自然とアートを楽しむ【世田谷美術館】

2025年3月13日

第3章「庭園」展示風景

世田谷美術館で、2025年4月13日まで「世田谷美術館コレクション選 緑の惑星 セタビの森の植物たち」が開催されています。

人と植物の関わりを考えるこの展覧会では、世田谷美術館のコレクションから植物をテーマにした作品約130点が展示されています。

本展では、油彩、屏風、掛軸、版画、彫刻、工芸、写真、スケッチなど、幅広いジャンルの作品が展示され、各章ごとに異なる視点から植物表現の魅力を楽しめます。

展示作品の約5割が初公開という点も注目です。

森から始まる旅

緑の惑星の旅は「森林」からスタートします。ここでは樹木、森の豊かさや神秘性が多彩な作品で表現されています。

武蔵野の雑木林の静かな美しさを描いた、吉田善彦の《武蔵野月の出》は今回初公開。

画家は大正時代、現在の砧公園近くに住んでおり、当時の風景を描いた可能性もあるそうです。

(左から)吉田善彦《武蔵野月の出》 1983年、吉田善彦《櫻》1964年

戸谷成雄の《森Ⅳ》は、大型の木彫作品。木の質感を生かした力強い造形で、森の「気配」を感じさせる独特の雰囲気を作り出しています。

戸谷成雄《森 IV 》1991 -1992年

第2章「風景」では、森や山、公園などの自然の景色を描いた作品が展示されています。

朝妻治郎の抽象画や、アンリ・ルソー、カミーユ・ボンボワといったフランス素朴派の作品など、さまざまな風景表現が楽しめます。

郷倉和子のガジュマルをモチーフにした作品や、細谷達三の《失われゆく世田谷の田園》など、日本の風景を題材にした作品も見どころです。

(左から)カミーユ ・ ボンボワ《花咲く川の支流》1928 年、カミーユ ・ ボンボワ《緑の中の城》1928 年

人の暮らしに身近な植物たち

第3章「庭園」は、庭や畑など身近な場所に生きる植物がテーマ。
日常の中にある自然の美しさと、それを愛おしむ作家たちのまなざしを感じることができます。

第3章「庭園」展示風景より、塔本シスコの作品

50歳を過ぎて独学で絵を描き始め、日常生活や自然への愛情を色彩豊かに表現した塔本シスコ。

本展では、身近な草花が咲き乱れるようすを独特のタッチで描いた作品が並んでいます。

(中央ガラスケース内)北大路魯山人《雲錦大鉢》 1940 年、(後)岸波百草居のドローイング

北大路魯山人の《雲錦大鉢》は、実際に食器として使用されていたもの。

桜と紅葉が描かれ、春と秋の美しさを一度に楽しめる逸品です。

この章では、岸浪百草居(きしなみひゃくそうきょ)が描く、みずみずしい植物のドローイングが楽しめます。

また、金工作家・大須賀喬が虫や植物をモチーフにした金工作品も展示。彼が若き日に描いたスケッチ帖は、映像でも紹介されています。

(手前)土谷武《植物空間Ⅱ》 1989年、(奥)川口春波 《池水薫》1940年

川口春波の《池水薫(ちすいくん)》は、フヨウやハイビスカスなどの花々が咲き誇る美しい作品です。今回は座ぶとんに座って観賞することもできます。

花々が織りなす華やかな世界

第4章「花園」では、花の多彩な表情が楽しめる華やかな空間が広がります。

吉田善彦の菊のドローイングや、葛飾北斎、酒井抱一などの草花の短冊絵が並ぶコーナーは、花の咲く道を歩くような気分が味わえます。

第4章「花園」展示風景

展示室中央では、写真家・荒木経惟(あらきのぶよし)の花を鮮烈な色彩で捉えた写真が圧倒的な存在感を放っています。

第4章「花園」展示風景より、(左)荒木経惟《花曲》 1997年

ここでは、アンドレ・ボーシャンの素朴で温かみのある花や、モーリス・ド・ヴラマンクの激しい筆致と鮮やかな色彩の花など、花をテーマにした作品が集います。

中川一政や三岸節子といった日本の洋画家や、宮本三郎、清川泰次、向井潤吉など、世田谷美術館ゆかりの画家の作品も展示。
画家による個性豊かな花々の競演が楽しめます。

第4章「花園」展示風景より、(左)モーリス・ド ・ ヴラマンク《花瓶の花》 不詳

《伊年印四季草花図屏風》は、琳派の系譜に連なる作品。四季の花々が美しく描かれた心が華やぐような名品です。

作者不詳《伊年印四季草花図屏風》 江戸時代

光と緑に満ちた楽園

第5章「楽園」は、緑豊かな楽園や光をテーマにした作品が紹介されています。

結婚25周年を迎えた夫婦の愛を描いた、アンソニー・グリーンの《銀婚式》。
画面にはグリーン自身が登場し、妻メアリー・カズンズ=ウォーカーはウェディングドレス姿で描かれています。

さらに、彼女が手がけた夫婦をモチーフにした刺繍作品も並び、2人の温かく深い絆が感じられます。

第5章「楽園」展示風景

砧公園とともに楽しむ「セタビの森」

第6章「エピローグ:みんなでつくるセタビの森」展示風景

第6章「エピローグ:みんなでつくるセタビの森」では、1200人以上の小学生が描いた色鮮やかな植物の作品が天井を飾ります。

このエリアは無料スペースとなっており、誰でも自由に植物を作って壁に貼ることで、「セタビの森」を作り上げる体験に参加することができます。

第6章「エピローグ:みんなでつくるセタビの森」展示風景

展覧会を楽しんだ後は、美術館の周囲に広がる砧公園を散策するのもおすすめ。

梅や桜が見ごろになるこれからの季節、「緑の惑星」で、植物の美しさとその多様な表現に触れる贅沢な時間を過ごしてみませんか。