須藤玲子:NUNOの布づくり/水戸芸術館

創造的で技術的な「布づくり」のプロセスを知る【水戸芸術館】

2024年3月2日

須藤玲子:NUNOの布づくり/水戸芸術館 現代美術ギャラリー

テキスタイルデザイナー須藤玲子と、須藤が率いるテキスタイルデザイン・スタジオ「NUNO」の活動を紹介する大規模な個展「須藤玲子:NUNOの布づくり」が水戸芸術館現代美術ギャラリーで開催中です。

本展は、2019年に香港のCHAT(Center for Heritage, Arts and Textile)で企画・開催された後、イングランドやスコットランド、スイスなどヨーロッパ各地を巡回。

日本では、香川県の丸亀市猪熊弦一郎現代美術館に続いて、須藤ゆかりの地である茨城県での開催となります。

新たな視点を取り入れる
テキスタイルデザイナー・須藤玲子と「NUNO」

茨城県石岡市出身の須藤玲子(1953-)は、日本の伝統的な染色技術から現代の最先端技術を駆使し、新しいテキスタイルづくりを行う、日本を代表するテキスタイルデザイナー。


テキスタイルデザイナー、株式会社布代表 須藤玲子氏

須藤が、1984年に設立した「NUNO」は、従来の概念にとらわれることなく、思いがけない素材をテキスタイルに使用するなど、現在もテキスタイルデザインの分野において第一線を走り続けています。


展示風景より
テキスタイルデザイン タッチサンプル

シンボルタワーをモチーフにした新作テキスタイル

最初に来館者を迎えるのは、展示室入口付近の吹き抜けにある水戸芸術館のシンボルタワーをモチーフにデザインした新作テキスタイル。


展示風景より 水戸芸術館のシンボルタワーをモチーフにした新作テキスタイル

同館のシンボルタワーは、水戸の街において特別な存在感を放っています。

本作は、須藤が同館の設計者で建築家の磯崎新(1931-2022)へのオマージュとしてデザインしました。

「NUNO」が生み出す、テキスタイルデザインの舞台裏

本展では、日本各地の職人との協働作業や素材が持つ可能性を広げるその過程に着目。

テキスタイル展覧会としては非常に珍しい、普段は見ることができない布づくりの舞台裏を豊富な資料と音や映像を組み合わせたインスタレーションを通じて紹介しています。

最初の展示室にあるのは《幕・幔幕》。須藤がこれまで製作してきた代表的なテキスタイルをパッチワーク状に仕立てた巨大な幔幕にあっと驚かされることでしょう。


展示風景より 《幕・幔幕》と《古布》

またその中央には須藤が1980年台から収集してきたさまざまな古い布が並べられています。

須藤が布づくりで色を決める際に参考にするという《古布》、果たして誰が織り、誰が染めた布なのか。布づくりに想いを馳せる時間といえます。

これらの展示空間を抜けると、細長い展示室が目の前に現れます。


展示風景より 右側にあるのが数千枚の紋紙

NUNOを代表するテキスタイルデザインやジャカード織機で図柄を織るために用いられる紋紙(もんがみ)などが展示されています。

その先に進むと、NUNOの布づくりにおける生産工程や開発プロセスの全貌に迫るさまざまなインスタレーション作品が来館者を迎えてくれます。


展示風景より 「Sudo Reiko:Making NUNO Textiles」CHAT (Centre for Heritage, Arts and Textile)Hong Kong、2019-2020


《糸乱れ筋》に用いられるニードルパンチ機
展示風景より 「Sudo Reiko:Marking NUNO Textiles」CHAT(Centre for Heritage, Arts and Textile)Hong Kong、2019-2020

特に、音や映像を用いて工場での生産の様子を再現したインスタレーションでは、現場の臨場感を伝えるのみならず、須藤の布づくりにおける職人へのリスペクトが感じられます。


展示風景より NUNOの布づくりの旅

「水戸黒」とのコラボレーションも必見!
展示空間と広場を自由に泳ぐ、こいのぼり

最後の展示室にあるのは、大空間を自由に泳ぎ回る「こいのぼり」。

色とりどりのNUNOオリジナルテキスタイルを用いたインスタレーション作品です。


展示風景より
須藤玲子&アドリアン・ガルデール《こいのぼり》 2008/2019

本作は、世界各地で多くの人びとを魅了してきた空間デザイナーのアドリアン・ガルデール(1972-)により考案されたものです。大空間を自由に泳ぎ回るその姿に心躍ることでしょう。

また、本展では、江戸初期の寛文年間(1661-1673)から水戸藩に伝わる伝統的な染色技法・水戸黒(みとぐろ)の再生と継承に取り組む水戸市内の職人とともに制作した《続・こいのぼり なう!》もご覧いただけます。


展示風景より
藍の下地にヤシャブシで黒く染める「水戸黒」と特別にコラボレーションした《続・こいのぼり なう!》

水戸黒は、青みがかった独特の深みのある色合いが特徴的で、水戸藩の二代藩主・水戸光圀公(黄門さま)も愛用していたのだそう。

大正時代に入り、化学染料の普及によって一度はその継承が途絶えましたが、1970年代以降、地元の方々の手によって、その再現が始まっています。


広場にある《続・こいのぼり なう!》
水しぶきとのコラボレーションも美しい

本展の開催に合わせて、須藤によるNUNOの布を使用したオリジナルのスカーフや風呂敷を作る「つぎつぎ布ワークショップ」(要申込・抽選)などの関連プログラムも充実しています。

また、若手作家・沼田侑香と同館学芸員が共同企画する展覧会「クリテリオム100」も同時開催中。


「クリテリオム100」展示風景より
アイロンビーズを用いた独自の手法により、現実とデジタル世界の剥離や重なりを考えさせるインスタレーションを展開する若手作家・沼田侑香

展覧会「須藤玲子:NUNOの布づくり」は、完成されたテキスタイルが主役ではなく、素材や手法に着目し、そのプロセスを公開することで、須藤とNUNOのテキスタイルが仕上がっていることを伝えています。

日常生活において身近な布ですが、その過程を知ることは少なく、秘密の扉を開けたような感覚に陥ることでしょう。

そんなテキスタイルデザインの舞台裏をぜひ楽しんでみてはいかがでしょうか。

Exhibition Information