風刺画/10分でわかるアート
2023年3月29日
杉本博司 絶滅写真/東京国立近代美術館

東京国立近代美術館で開催中の「杉本博司 絶滅写真」。
“絶滅写真”という気になるタイトルには、写真という表現への新しい視点が込められています。
この記事では、展覧会の見どころやおすすめポイントを、アート初心者にもわかりやすくレポートします。
世界的に有名な現代美術家、杉本博司(1948-)。
本展では杉本の初期から最新作まで、銀塩写真約60点でその作品世界を明らかにします。

写真作品で構成する美術館での個展は、国内では2005年の森美術館以来の開催となります。
杉本博司と言えば「写真」をイメージする方も多いかもしれませんが、その活動は多岐にわたります。
小田原文化財団 江之浦測候所をはじめ建築分野でも活躍し、日本の古典芸能など舞台芸術の演出では国内のみならずヨーロッパ数都市やニューヨークにも進出。
その活動分野は書、陶芸、和歌、料理などさまざまです。
杉本博司の創作の原点は「銀塩写真」です。
銀塩写真とは、いわゆる暗室で写真専用の印画紙に光を当てることによって現像する、昔ながらの写真です。

こうした技法が「デジタル」に置き換わった今、杉本の中でこのタイトルが浮かび上がりました。
銀塩写真という技術、杉本自身の作家活動、そして人類の終焉―果たしてこれらは絶滅するのでしょうか?
本展では、初期作から初公開の最新作まで約60点を展示します。
展示室の前半では、1970年代半ばから80年代にかけて発表され、その後もライフワークとして継続されてきた〈ジオラマ〉〈劇場〉〈海景〉シリーズを中心に、杉本の作品世界の始まりを紹介します。
〈ジオラマ〉は、杉本がニューヨーク自然史博物館に訪れたことで始まったシリーズです。
ジオラマ展示の中の作り物の動物が、一瞬本物のように見えたという経験をしたのだとか。

ここに写るものは全て作り物・・・実物を見たらきっと分かるでしょう。
でも、写真というメディアを通したらどうでしょう?本物にも見えてきませんか?
本来、写真は真実を写し出すものであるはずですが、こんな矛盾に気づけるのも杉本作品の面白いところです。
写真は写した「一瞬」を切り取るものですが、”時間そのもの”を感じられるような表現も。
世界各地の映画を回り、撮影された〈劇場〉シリーズ。
映画を写しているそうですが、そのスクリーンには何の映画も映し出されていません。ただ真っ白なスクリーンが浮かんでいます。

これは1本の映画を、始まりから終わりまでシャッターを開放して撮影しています。
映画1本分の光の集合を撮影することで、杉本は「時間を撮る」ことを試みたのです。
画面の真ん中でちょうど分けられた空と海。極限にシンプルな風景を写した〈海景〉シリーズ。
「古代人が見た景色を現代人も見ることができるのか」そんな問いからこのシリーズは始まりました。

杉本は世界中で海を撮影してきました。展示室にはさまざまな〈海景〉が静かに並びます。
それぞれ違う場所から撮った風景であり、でも撮影された海は全て繋がっている。
自然の壮大さも、時間の長さも感じられる不思議な作品です。
杉本博司は元から美術家だったわけではなく、そのキャリアの始まりは職業写真家でした。
そこからニューヨークを拠点に、美術家になっていきました。

写真の技法的な視点から見るのも良し、現代アート的な視点から見ることもできる展覧会となっています。

初公開の最新作も。
自分なりの解釈で楽しめるのも現代アートの良いところですよね。
「杉本博司 絶滅写真」は、東京国立近代美術館で2026年6月16日~9月13日まで開催中です。
開館時間:10:00~17:00(金曜・土曜は10:00~20:00)
チケット料金:一般 2,300円(2,100円)、大学生 1,200円(1,000円)、高校生 700円(500円)
※( )内は20名以上の団体料金
※中学生以下、障害者手帳をご提示の方とその付添者(1名)は無料
※本展の観覧料で入館当日に限り、所蔵作品展「MOMATコレクション」(4 -2F)も観覧可能
・東京メトロ東西線「竹橋駅」 1b出口より徒歩3分
・東京メトロ東西線・半蔵門線・都営新宿線「九段下駅」4番出口、半蔵門線・都営新宿線・三田線「神保町駅」A1出口より各徒歩15分
杉本博司と言えばやはり「写真」が真骨頂。その独自の表現は、特に写真やカメラに興味を持ち始めた人におすすめです。
また現代アートが好きな人、落ち着いた空間で作品をじっくり鑑賞したい人にもぜひ行ってみてほしい展覧会です。
写真一つひとつを静かな空間でじっくり鑑賞できる空間なので、1時間半程度はかかりそうです。
さらに、所蔵品ギャラリーで写真作品制作における作業工程の覚書を記したスギモトノートも展示されているので、そちらを見たい人はさらに時間に余裕をもって来館してください。
本展は写真撮影が可能となっており、〈海景〉シリーズの部屋は動画撮影もOKとなっています。
撮影ルールもありますので、必ず館のスタッフさんの指示に従ってくださいね。
写真を「見る」だけではなく、「時間」や「記憶」についても考えたくなる展覧会。
普段とは少し違う視点でアートが楽しめそうです。これからますます暑くなりますが、静かで涼しい空間なので、夏休みシーズンにぜひ行かれてみてはいかがでしょうか。
