風刺画/10分でわかるアート
2023年3月29日
もはやない国のかつてない光 東ドイツの女性写真家たち/神奈川県立近代美術館

ブリギッテ・フォイクト《兄妹》1964年 © Estate Brigitte Voigt. Courtesy Loock Galerie, Berlin スヴェン・ヘアマン・コレクション(ラインベックハレン財団寄託)
旧東ドイツで活躍した女性写真家を紹介する「もはやない国のかつてない光 東ドイツの女性写真家たち」が、神奈川県立近代美術館 葉山で6月13日から8月30日まで開催中です。
ベルリンの現代美術コレクター、スヴェン・ヘアマン氏のヴィンテージ・プリント・コレクションを中心に15人の女性写真家の作品と資料約200点を紹介する本展は、同館とベルリンにあるラインベックハレン財団が協働して企画したものです。
前日に開催された内覧会のようすをレポートします。

ティーナ・バーラ《セルフポートレート 59–76》より[63–64]1985/2025年 © Tina Bara. Courtesy Loock Galerie, Berlin スヴェン・ヘアマン・コレクション(ラインベックハレン財団寄託)
ライプツィヒの美術大学で教授を務め、作品はハンブルガー・バンホフ国立現代美術館など主要な公的コレクションに収蔵されている
近年、埋もれていた女性作家を再評価する動きが活発化しています。
1987年にワシントンで開館した「National Museum of Women in the Arts」は活動について「美術作品における男女格差の是正に取り組んでいる」と記載、2014年に設立したフランス拠点の研究・アーカイブ組織「AWARE」も「芸術の歴史をジェンダーバランスの取れた形で書き換えること」を目標と公式サイトに記載。
日本でも2025年12月から国立近代美術館を筆頭に3カ所を巡回した「アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦」展がジェンダー研究の観点から日本の戦後美術史に新たな光を当てています。
神奈川県立近代美術館の三本松倫代担当学芸員によると、ドイツ写真史でもかつては西側の作家や、東ドイツでも男性写真家が評価されてきた中で、近年は東ドイツで職業写真家として活動していた女性作家たちの作品が注目を集め、再評価の動きが高まっているのだそうです。

ウーテ・マーラー《ベルカ、パウル》〈共生〉より 1985年 © Ute Mahler. Courtesy Loock Galerie, Berlinスヴェン・ヘアマンコレクション(ラインベック・ハレン財団寄託)
ファッション誌「ジビレ」をはじめ、国外の雑誌に作品を発表。2024年にドイツ連邦功労十字章を受章し、現在も活躍中の作家
三本松さんは、初めて彼女たちの作品を観た時にレトロシックな写真に強く惹かれたそうです。
「以前一緒に仕事をしたベルリンのギャラリストから、優れたコレクションがあると聞いたのです。送られてきたデータだけでは全貌がわからず、ベルリンへ行って約300点のプリントを確認しました。あまり前知識もなく、先入観のない状態で観たのですが、人々の日常を撮ったドキュメンタリー的な作品やファッション誌のグラビアなどさまざまな作品があり、ヴィンテージプリントからは技術の確かさも感じられました」と、本展開催のきっかけを振り返りました。

展示ロビー1の壁掛け地図と資料
タイトルの「もはやない国」というのは、旧東ドイツ(ドイツ民主共和国, DDR)のことです。第二次世界大戦後に東西に分断されて誕生した同国は、1989年のベルリンの壁崩壊を経て1990年に再統一され、消滅しました。
今回展示される作品は、その東ドイツに位置するライプツィヒの美術大学で教授を務めたキュレーターのペーター・パフニケ氏が収集したコレクションの一部をもとに、現代美術コレクターのスヴェン・ヘアマン氏が収集を続け、ラインベックハレン財団に委託して管理されているものです。

ジビレ・ベルゲマン《記念碑、ベルリン、1986年2月》1986年 © Estate Sibylle Bergemann. Courtesy Loock Galerie, Berlin スヴェン・ヘアマン・コレクション(ラインベックハレン財団寄託)
ベルリンの広場にエンゲルス像を設置しているようすを撮影した作品

展示風景
展示は15人の女性作家のプロフィールと作品が1人ずつまとまって観られるように配置されています。
作家の全体像を紹介するために、個展が15人分あるような構成になっているとのことです。

エーファ・マーン作品展示風景
展覧会タイトル前半の「もはやない国」は旧東ドイツのことですが、後半の「かつてない光」はドイツ側のキュレーターがつけたタイトルの“Unprecedented(無比の)”から来ています。
歴史の動乱や文化的背景に埋もれた宝を掘り起こした展覧会という位置づけではありますが、しなやかで柔らかい視線や確かな技術、表情豊かなモノクロームの写真は現代にも違和感なく受け入れられると感じました。
また、一色海岸を望む葉山館は休日のお出かけ先に絶好のロケーションです。鑑賞後に館内のレストランや海岸散策を楽しむのもおすすめです。
期間中には連携企画として、30名の国内女性写真家を紹介する「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展(ヒカリエホール/渋谷ヒカリエ9F、7月4日~8月26日)との相互割引もあります。会期が異なるのでご注意ください。