特別展「プラカードのために」/国立国際美術館

田部光子「プラカードの為に」を起点とした現代アート展【国立国際美術館】

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2025年11月20日

田部光子「プラカードの為に」を起点とした現代アート展【国立国際美術館】

大阪・中之島にある国立国際美術館で特別展「プラカードのために」が開催中です。

本展は、美術家・田部光子の言葉と作品を起点に、7名の作家作品で構成されたグループ展です。

日常の中で生きることや尊厳について考えてきた作家たちの絵画や立体、映像、写真などさまざまなアート作品を観ることができます。

“プラカードのために”とは?


特別展「プラカードのために」展示風景

本展は美術家・田部光子の「プラカードの為に」という文章を起点に始まります。

田部は、1933年日本統治下の台湾に生まれ、1946年に福岡へ。以降同地を活動拠点に、実体験をもとにした社会への問いやメッセージを作品で表現し、2010年代まで積極的に制作・発表を行ってきました。


特別展「プラカードのために」展示風景

「プラカードの為に」は、1961年9月に東京・銀座画廊で行われた「九州派展」の直前に発行された、当時田部が所属していた「九州派」の機関誌に掲載されたものです。

『大衆のエネルギーを受け止められるだけのプラカードを作って見ようか、高らかな笑いのもとに星条旗を破る為のカンパニヤが組織できないだろうか? それもたった一枚のプラカードの誕生によって』


写真後方・田部光子「プラカード」1961 左から1点目と3点目は東京都現代美術館蔵、2点と4点目は福岡市美術館蔵
特別展「プラカードのために」展示風景より

この文章で田部は、「大衆のエネルギーを受け止められるだけのプラカードを作」り、「たった一枚のプラカードの誕生によって」社会を変える可能性を語っています。

注目は「プラカードの為に」で言及された「プラカード」と「人工胎盤」です。

「プラカード」は、5点からなるコラージュ作品。労働争議での実体験をはじめ、安保闘争や公民権運動など同時代を背景に制作され、襖にコラージュやキスマークなどが施されています。

「人工胎盤」は、田部の妊娠初期のつわり経験や、女性が社会において直面するさまざまな不平等から生まれた作品です。1961年に制作されたものは現存せず、2004年に再制作されました。


写真手前・田部光子「人工胎盤」1961/2004 熊本市現代美術館蔵
特別展「プラカードのために」展示風景より

白く柔らかな本体にたくさんの釘が打ち込まれた作品は、『人工胎盤ができたら、始めて女性は、本質的に解放されるんだけれど』という田部の言葉からも分かるように、強いメッセージが感じられます。

女性が社会で活躍することが今よりももっと厳しかった時代に、本作品を発表したことはとても大きなことだったのではないでしょうか。

本展では「プラカード」「人工胎盤」を含めた田部光子の28作品が展示されます。

現在フェミニズム・アートの先駆者として評価されている田部は、2024年にこの世を去りました。今後も田部の作品が、より多くの人に作品が届けられることを願います。

田部と6名の作家たち

田部のほかに、牛島智子・志賀理江子・金川晋吾・谷澤紗和子・飯山由貴・笹岡由梨子の作品も展示されています。


谷澤紗和子「目の前に開ける明るい新しい道」2025 特別展「プラカードのために」展示風景より

筆者がとくに気になったのは、谷澤紗和子の新作「目の前に開ける明るい新しい道」です。

谷沢は、美術制度の外側に置かれてきた素材や技法を用いて製作を行い、自身の基盤としてきた切り紙作品で、マジョリティ中心の社会の中で抑圧され、制限されてきた声に着目しながら作品を発表しています。

切り絵の中にある言葉と、それを表現する切り絵のスケールと細やかさ、色使いなど、どこをとっても美しい姿が印象的です。


笹岡由梨子「Working Animals」2024-25 特別展「プラカードのために」展示風景より

もう一つは、笹岡由梨子の「Working Animals」。人間のために働き、犠牲となった動物たちの存在が作品の出発点である本作品。

笹岡本人の顔のパーツを持った熊やうさぎ、猫など9体の動物が歌う合唱は、不気味みでありながら愛らしさも感じます。

ただその一方で、作品の原点と奇妙な歌詞からは動物と人間の関係性が浮かび上がってくるようで、心がざわざわとする感覚にもなりました。

作品が干渉し、響き合う展示空間


牛島智子「ひとりデモタイ 箒*筆*ろうそく」2025 特別展「プラカードのために」展示風景より

会場内には、牛島智子の「ひとりデモタイ 箒*筆*ろうそく」や写真家・金川晋吾の「祈り/長崎」なども展示。


金川晋吾「祈り/長崎」2015-2025 特別展「プラカードのために」展示風景より

思わず通り過ぎてしまいそうな小さな作品もあるので、作品から放たれるメッセージも含め、見逃さないよう、取りこぼさないようにご注意を・・・


谷澤紗和子「ちいさいこえ(NO)」2025 特別展「プラカードのために」展示風景より

今回展示空間は会場内が地続きの空間となるようイメージし、作品を展示するための壁の高さはあえて低めに設置しているそう。

それぞれの作品が共感や拮抗し合うこともあるかと思いますが、そこで生まれる感情も楽しんでみてくださいね。

現代美術の美術館へ


会期は2026年2月15日まで

展示を通して、社会という大きな概念から家族という身近な存在まで、自分を取り巻くものを今一度見つめ直してみたくなった筆者。本展は1人でじっくりと作品と向き合うのもおすすめです。

会場となる国立国際美術館は水の都と呼ばれる大阪らしい立地と、世界でも珍しい完全地下型美術館です。ぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょうか。

Exhibition Information

展覧会名
特別展「プラカードのために」
開催期間
2025年11月1日~2026年2月15日
会場
国立国際美術館
公式サイト
https://www.nmao.go.jp/events/event/20251101_for-a-placard/