PROMOTION
クロード・モネの世界にひたる。日本初公開作品を含む〈睡蓮〉などを堪能【国立西洋美術館】
2024年11月1日
Museum of Mom’s Art ニッポン国おかんアート村/東京都渋谷公園通りギャラリー
スフマートでは、「つくる」「つたえる」という2つの視点をもとに、ミュージアムを支えるさまざまな人へのインタビューをお届けしています。
今月は特別編。広大で自由なアートの世界には、美術の専門的な教育を受けることなく、自ら湧き出る創造性をパワーに、絵画などの作品を創作する作家たちがいます。そんな「アール・ブリュット」の世界に関わるお二人へのインタビューを、全4回にわたってお届けしてきました。
最終回にお話を聞いたのは、前回に続いて東京都渋谷公園通りギャラリー文化共生課長・学芸員の大内郁(おおうち かおる)さんです。
東京都渋谷公園通りギャラリー 文化共生課長・学芸員 大内郁さん ※撮影時のみ、マスクを外していただきました。
渋谷の喧騒を少し離れたエリアにある東京都渋谷公園通りギャラリー。ユニークな展覧会やイベントを通して、多様な創造性や新たな価値観に人びとが触れる機会を作り出しています。
後編では、今話題の展覧会のこと、また渋谷にあるギャラリーとして、今後取り組んでいきたい活動についてお伺いしました。
※3331アーツ千代田ポコラート事業 嘉納礼奈さんのインタビューはこちら(前編/後編)
──ギャラリーがある渋谷は、国籍も性別も年代も多種多様な人が行き交っている場所だと思います。多様性やアール・ブリュットへの親和性が高い地域なのでしょうか。
渋谷区は、2015年に全国に先駆けてパートナーシップ制度を導入するなど、LGBTQや男女平等、多様性を尊重する取り組みをとくに率先して実施してきた地域です。この場所に文化施設として当ギャラリーがあることは、多様性、そして共生という意味で、とても親和性があると思います。
──そのような場所に建つギャラリーとして、どのように展覧会の企画や準備を進めているのでしょうか。
現在、私をのぞいて5名の学芸員が在籍していますが、それぞれ研究分野がさまざまなので、当ギャラリーのミッションと各展覧会とのバランスを考えながら、展示担当が自身の関心事とすり合わせつつ、企画を考えています。
──アーティストトークやイベントなどの交流プログラムも充実していますね。どのようなことを意識して企画しているのでしょうか。
公園通り側に面したガラス張りの空間を交流スペースとしても活用しており、今後も定期的にトークイベントやワークショップ、公開制作などのプログラムを行っていく予定です。
展覧会だけではなく、このような交流プログラムの開催も、当ギャラリーの大切なミッションとして掲げているんです。
また、これまでは参加対象から外れてしまっていたり、参加しづらさを感じていた方などが参加しやすいプログラムづくりが大切だと考えています。
ひとつ挙げますと、2021年9月にオンラインで開催した、障害の有無を問わず広く子どもたちに向けて行ったワークショップ『Kids meet』は、シリーズ化して続けていきたいプログラムです。前回は対面で開催できかねる状況だったので、やむなくオンライン開催に変更したのですが、障害のあるお子さんにとっては逆に参加しやすかった、という感想もありましたし、ニーズがあることも分かりました。
今後は、さまざまな事情があるお子さんそれぞれに合わせて、より参加しやすいかたちを上手く準備できたら、と考えています。
──いつか対面が全く問題なくなった後も、オンラインとオフラインの両方があって、選んで参加できるといいですね。
本当にそうですね。常にチャレンジしていきながら、どうしたらもっと多くの人びとに参加してもらえるか、考えながら進めていきたいです。
また、普及活動も当ギャラリーのミッションです。例えば2020年度に開催した3つの展覧会は、展示室のようすや作家へのインタビューなどをまとめた展示カタログでもある記録冊子を作成しました。こちらは東京都現代美術館の美術図書室などでも閲覧することができます。他の事業についても、ウェブサイトのアーカイブやYouTubeチャンネルでご覧いただけます。
そのほかにも、今後の状況次第ではありますが、都内各地への巡回展も予定しています。例えば、お住まいの近隣のギャラリーや美術館で開催して、お散歩のついでに立ち寄って、というように、広く多くの方に親しんでもらえたら嬉しいですね。
ガイドブック『美術館へ行こう』
さらには、2021年に開催した展覧会『アンフレームド 想像は無限を羽ばたいてゆく』を「やさしい日本語」で紹介したガイドブック『美術館へ行こう』を、東京都歴史文化財団の企画として、東京都美術館と一緒に作成・配布しました。
こういった外国人の方も含めたアクセシビリティへの配慮も、引き続き取り組んでいきたい点です。
──現在開催中の展覧会『Museum of Mom’s Art ニッポン国おかんアート村』は、幅広い方に楽しんでもらえそうなテーマですが、開催することになった経緯をお聞かせください。
このテーマはそもそも、ゲストキュレーターとして携わっていただいている編集者の都築響一さんからいただいた提案でした。
都築さんは、世の中のありとあらゆるものの中で、いわゆるど真ん中ではない、アウトサイドのクリエイティビティを数多く見つけて発信し続けてこられた方ですが、実はアール・ブリュットやアウトサイダー・アートについて、1980年代終わりに先駆的に日本で紹介した方でもあります。
『Museum of Mom’s Art ニッポン国おかんアート村』展示風景より
当ギャラリーが大切にしている、アートを通して多様性や共生を紹介していくことと、「アール・ブリュットをどう面白く広げて伝えていくか」、またその歴史を振り返る意味でも、都築さんと何か企画をご一緒したいと、1~2年前くらいからお話していました。
都築さんならではのユーモアのある視点とともに、共同キュレーションとなった「下町レトロに首っ丈の会」という、神戸を拠点に「おかんアート」の魅力を掘り起こしてきた皆さんが培ってきた活動やコレクション、各地の作家の皆さんの協力が融合した会場で、「母」たちのつくる手芸作品を楽しんでもらえたら嬉しいです。1,000点以上展示されますので、好きな作品にきっと出会えると思います。
※展覧会公式サイトはこちら
──最後に、これから大内さんご自身として、またギャラリーとして、どのような取り組みをしていきたいとお考えでしょうか。
私自身は現在マネジメントする立場にありますので、学芸員それぞれが、展覧会の企画を進めていきやすいように環境を整えていきたいです。
ギャラリーとしてはやはり、前編で申し上げたことに尽きます。アール・ブリュットという視点の可能性を追究していきたいです。
展覧会としては、アール・ブリュットとしてこれまで見出されてきた美術作品・芸術作品を展示し、深堀りしていくことでしょうか。
そして、特に日本の近代化以降、「美術」という言葉からこぼれてしまっていた、これまで見過ごしてきた創造性や創造物、周縁のあらゆるものをどう考えていくのかということに挑むこともできます。このふたつを私たち学芸員が結び付けて展示を行うことで、鑑賞者の視野を広げるきっかけになれば、と思っています。
交流プログラムでは、より実社会や実際の人びとと関わりながら、アートを介する新たな出会いを作っていけると良いですね。やはり実際に「他者」と出会い、知ることは、ギャラリーのミッションである「共生」を考えるうえで欠かせないものだと捉えています。
「アール・ブリュット」をきっかけにしていただきつつも、その言葉やジャンル、イメージにとらわれず、多様なクリエイティビティと向き合っていただける場として、これからも多くの方に知っていただけるような活動を続けていきたいです。
自ら湧き出る創造性をパワーに、絵画などの作品を創作する作家たちが作り出した「アール・ブリュット」について、2人の方にお話を伺いました。
「アート」「美術」というカテゴリーにとらわれず、人に備わった無限の可能性に注目するきっかけとなれば幸いです。
次回のインタビューは、伝統画材ラボPIGMENT TOKYOの渡邊和さん、能條雅由さんにお話をお伺いします。お楽しみに!