祈り・藤原新也/世田谷美術館

50年以上にわたる表現活動の集大成。藤原新也の大規模個展が開催中【世田谷美術館】

2022年12月5日

祈り・藤原新也/世田谷美術館

写真や言葉を中心に、50年以上にわたって表現活動を続けてきた藤原新也(1944-)。そんな藤原の軌跡を辿ることができる公立美術館では初となる大規模個展が、世田谷美術館で開催中です。

藤原新也とは

藤原新也は、1944年生まれの写真家・文筆家。東京藝術大学在学中に訪れたインドを皮切りに、アジア各地を巡り写真やエッセイといった作品を数多く生み出しています。

1983年に出版された『東京漂流』はベストセラーとなり、また同年に発表された『メメント・モリ』はブームの枠を超えて、現代の私たちにも響く若者たちのバイブルとなりました。

公立美術館では初の大規模個展となる本展では、そんな藤原の50年にわたる表現活動の軌跡をダイナミックな展示方法で体感することができます。

3mを超える大迫力の写真の数々

本展は「祈り」をキーワードに、藤原自身が現在の視点で作品を選出・編集した展覧会。「昔から、写真を撮るときには祈りのような感情を抱いていた」と語るように、256点もの作品にはどれも一貫した眼差しが向けられています。

本展の目玉となるのは、3mの大きさにプリントされた写真の数々。「重要な作品だから大きくしたのではなく、現場で感じた景色を再現できるサイズにした」という藤原。その言葉通り、それぞれの写真からはその奥に広がる世界や、シャッターを切る瞬間の緊張感のような手触りすらも伝わってきます。

展示会場に入ってまず目に飛び込んでくる《世界のはじまり》(2020年)は、バリ島の山奥で見つけた朝露に濡れる蓮の花をワンカットで捉えた作品。

小さな蓮の花が、現場にいた藤原にはここまでの大きさに見えたということ踏まえて鑑賞することで、写真集や画面越しだけでは分からなかった、この作品が内包する新たな魅力を受け取れることでしょう。

死を想え(メメント・モリ)・生を想え(メメント・ヴィータ)

インドで出会った一人の僧の最期を見届けたことで生まれたという「死を想え(メメント・モリ)」の視点。その視点は、死を身近に感じながらも力強く生きる人々を撮り続けることで、やがて「生を想え(メメント・ヴィータ)」をという考えにつながっていきます。

「僕は死の世界であれ、生の世界であれ、生命のざわめきや命の発露のようなものを撮っている」と語るように、人が生き、そして死へと向かっていくさまを捉えた藤原の作品は、どれも力強く鑑賞者である私たちを照らし出してくれます。

世界各地・日本で見つけた祈りの景色

インドからチベット、そして中国や朝鮮半島といったアジア諸国を旅した藤原は、1989年にはアメリカを起点として西洋へと足を伸ばしていきます。

各国を巡りながらも、30年前からほぼ15年おきに日本の記録を残している藤原。一種の定点観測のようになっているその旅路で、世界が加速度的に疲弊していることを実感するのだと藤原は語ります。

「最初の頃は一日歩いて30カット撮れたものが、15年前は10カット。今回、NHKの特集で撮影に出たときには、3カット撮れたら良いという感じだった。刻々と撮るものが失われていく中で、撮影をしながらもどこかで、このシーンもあと数年もすれば消えてしまうのだろうという想いを抱えずにはいられない。実際50年経った今、ここで展示している景色の90%はなくなっているか、見えなくなっている」(藤原)

失われてしまった景色、けれども目を凝らせばまだ見つけることのできるかもしれない景色を会場全体で伝える本展は、まさに藤原から私たちへ向けられた「祈り」なのかもしれません。

活動初期から最新作まで。50年にわたる活動を紹介

「これだけ大きい個展というのは、後にも先にもあまりないものだと思う」と自信に満ちた表情で本展を紹介する藤原。その言葉の通り、

NHK日曜美術館の「死を想(おも)え、生を想(おも)え。写真家・藤原新也の旅」で訪れた故郷の門司の撮りおろし作品や、急きょ展示することが決まった絵画作品など、活動初期から最新作までの多様な表現を同時に鑑賞できる貴重な場となっていました。


展覧会公式書籍 2,970円(税込)

ミュージアムショップで販売されている公式書籍には、本展未公開の作品も多数収録されており、こちらも必見。『メメント・モリ』をリアルタイムで読んでいた世代はもちろん、これからの〈景色〉を写真に残そうと志している若い世代にもおすすめの展覧会です。

な、展覧会は一部作品を除き、作品の撮影がOKです。

Exhibition Information

展覧会名
祈り・藤原新也
開催期間
2022年11月26日~2023年1月29日 終了しました
会場
世田谷美術館
公式サイト
https://www.setagayaartmuseum.or.jp/