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2024年11月1日
Material, or/21_21 DESIGN SIGHT
東京・六本木にある21_21 DESIGN SIGHTで、企画展「Material, or 」が2023年7月14日からはじまりました。
「もの」をつくるときの材料である「マテリアル」に注目し、デザインやアート、工芸など、さまざまな視点から「マテリアル」について考える展覧会です。
展覧会ディレクターはデザイナーの吉泉聡。章に分かれず、安藤忠雄建築の1Fから地下、中庭まで、散策するように作品を観る構成になっています。
21_21 DESIGN SIGHT 外観
ところで、展覧会のタイトル「Material, or 」の「マテリアル」とは、そもそも何でしょうか?マテリアル(Material)と辞書でひくと、「材料、素材」という意味があるようです。
一方、今回の展覧会では「マテリアル」と「素材」は、「『マテリアル』が『素材』として意味付けをされて、その『素材』を使って『もの』がつくられる」と、意味を使い分けています。といっても、まだ実感しづらいので、地下のギャラリーへと降り、展示を観てみましょう。
「Material, or 」会場風景 今回の展覧会では、会場全体に高さ1.2Mの壁を設け、建物の”ギャラリー”や”通路”といった機能から解放し、建物をマテリアルとして捉えることも試みられています。
ギャラリーの床に、宝石のような美しい石が散りばめられています。よく観ると、それらは日本列島のような形になり、対応する土地の地名が記されているようです。
《素材のテロワール》/ 村山耕二 + UNOU JUKU by AGC株式会社
《素材のテロワール》は、日本国内のさまざまな土地で砂を採取し、その砂の中に含まれる珪砂からつくったガラスで構成された作品。ひとことで「ガラス」といっても、土地によって全く違った色合いです。
砂という「マテリアル」をガラスという「素材」にし、それを使ってアクセサリーなどの「もの」が作られるんですね。
《素材のテロワール》/ 村山耕二 + UNOU JUKU by AGC株式会社
また、木材は家具などをつくる時に使う「素材」ですが、もとをたどれば、枝が付いて葉が茂る樹木という「マテリアル」。デザイナー太田翔による《According to the Grain: Coat rack》は、その「素材」である木材から節を掘り出した作品。
こうして枝が見えてくると、木材ももともとは生きた木だったんだと強く感じさせます。
《According to the Grain: Coat rack》/ 太田翔
一方、こちらのセーターは、なんと人の髪の毛を加工して、高性能な糸にしたものを素材につくられたもの。
砂や木だけでなく、わたしたち人間も、自然の中のあらゆるものは「マテリアル」になるんですね。
《Human Material Loop Prototype 1.0》 / ゾフィア・コラー
砂浜の波打ち際のように、ちいさなものが散りばめられているのは、三澤遥+三澤デザイン研究室による《ものうちぎわ》。
「地球のあらゆるものが集まる場所のひとつは、浜辺かもしれない」という仮説のもとで収集されたマテリアル群は、小石や貝殻、木片など、自然のマテリアルもあれば、もとはプラスチック製品やタイルなどの「もの」だったものが砕かれて、マテリアルになっているものも。
《ものうちぎわ》/ 三澤遥+三澤デザイン研究室
また、中庭には、脚立が積み上げられたり、ほうきが並べられています。こちらは、BRANCHの《性質の彫刻》という作品。
「もの」であったはずの脚立やほうきが、ここでは彫刻をつくるための「マテリアル」として捉えられているんですね。
左から《『性質の彫刻』箒》《『性質の彫刻』脚立》/ BRANCH
「マテリアル」と「素材」、「もの」の関係はひとつに決まったものではなく、デザインするひとの見方によって違った立場に捉えられるのかもしれませんね。
わたしたちの生活と切り離せない「マテリアル」ですが、天然のマテリアルを使い尽くしてしまう可能性や、廃棄の問題もある中、わたしたちと「マテリアル」はどう共存していけるのでしょうか?
例えば、毛皮のような自然の素材は美しいですが、一方で動物たちは守りたいですよね。本田沙映による《Cryptid》は、廃棄される予定のフェイクファーの端切れを絡ませ、手作業で繋ぎ合わせた新しい毛皮。「フェイク」という言葉にはネガティブな響きもありますが、人と自然の「マテリアル」との関係を良いものにしていく「フェイク」があるのかもしれません。
《Cryptid》/ 本田沙映
今回の展示の中では、新しく開発されつつある材料も紹介されています。
例えば、エビやカニといった甲殻類の外骨格に含まれる成分をつかって作られた発泡スチロール代替素材「Cruz Foam」。こうした新しい技術によっても、マテリアルとわたしたちの良い関係が築けそうです。
《Cruz Foam》/ Cruz Foam
一方、自然の木を切って木材にすることなく、そのまま吊り橋にしているようすが印象的なこちらの写真は、インドの山岳民族であるカシ族が開発した「生きた根の橋(Jingkieng dieng jri)」。
科学的な技術を使うのではなく、マテリアルとの接し方を変えることで、共存する方法もあることに気づかされます。
《Living Bridges》/ ピート・オックスフォード
マテリアルとの関係性を考えたときに、新しい技術や素材が開発されるだけでなく、わたしたちの考え方ひとつでも、どのように共存できるのかが変わってくるのかもしれませんね。
展覧会でさまざまな「マテリアル」に触れる中で、世の中にある、人間を含むあらゆるものが「マテリアル」になり得ること、そうした中から、素材としての魅力に気づいた人がデザインすることによって、「素材」や「もの」へと変わっていく面白さが感じられます。
《《 》(無題)》/ 青田真也
また、わたしたちがマテリアルとどう共存していくのかといった課題も、マテリアルとの向き合い方やデザインの力で解決していけるのかもしれないという可能性も感じられる展覧会です。