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2024年11月1日
「10分でわかるアート」は、世界中の有名な美術家たちや、美術用語などを分かりやすく紹介する連載コラムです。
作家たちのクスっと笑えてしまうエピソードや、なるほど!と、思わず人に話したくなってしまうちょっとした知識など。さまざまな切り口で、有名な作家について分かりやすく簡単に知ってもらうことを目的としています。
今回は、江戸時代に活躍した「奇想の画家」について詳しくご紹介。
「この作品を作った作家についてもう少し知りたい!」「美術用語が難しくてわからない・・・」そんな方のヒントになれば幸いです。
江戸時代、「奇想の画家」と言われる画家たちが誕生します。
そもそも「奇想」とは、普通では思いつかないような変わった考えのこと、奇抜な発想のことを言います。
江戸時代、俵屋宗達(1570-1643)がはじめた琳派や土佐光信(生年不詳-1525頃)が発展させた土佐派など、流派に沿った作品、作家がたくさんいました。
そんな時代の中で、奇抜な発想、大胆で目を引く構図の作品を描いたのが奇想の画家たちです。
中央にインパクトのある大きな虎を描いた作品や、奇怪な人物画は、人びとを夢中にさせました。
西洋ではアルチンボルドやルソーなどが奇想の画家と言われており、普通では思いつかないような絵画は、印象強く残りました。
ジュゼッペ・アルチンボルド《ウェルトゥムヌスに扮するルドルフ2世》(1590-91)、スコークロステル城、スウェーデン
伊藤若冲『動植綵絵』のうち、左から
『菊花流水図』1765-66年/『蓮池遊魚図』1761-65年/『群魚図』1765-66年/『群鶏図』1761-65年
1716年、京都の八百屋の家に生まれた若冲。23歳で父親を亡くし、家業を継ぐことになります。
しかし、40歳で家督を弟に譲り、その後、画業に専念するようになりました。
若冲は京都の僧侶、大典顕常(だいてんけんじょう、1719-1801)の元に通い、禅の教えや中国画を学んでいたそう。
動植物を描くことを好み、色鮮やかな表現で花や鳥などを描いた花鳥画で、人気となった若冲。お気に入りの鶏の絵も多く残しました。
伊藤若冲について詳しく知りたい方はこちら▼
1730年、蕭白は京都の染物屋に生まれました。しかし、10代で家族を亡くし、染物屋はつぶれてしまいます。
家族と実家を失った蕭白は17歳ころから旅に出ることにします。京都や伊勢、播磨などを転々としながら、行った先で絵を描く放浪画家として生きることに。
その後、室町後期の絵師、曾我蛇足(そがじゃそく)から直接教えを受けたことはないのですが、漢画を学び、絵師、高田啓輔(たかだけいほ、1674-1756)に師事しました。
個性的で奇抜な蕭白の絵は奇想な画家として人気になります。ダイナミックな表現で、色彩を多く使うよりも水墨で描かれたものが多いのが特徴です。
《白象黒牛図屏風》六曲一双 18世紀
1754年、丹波篠山藩(現在の兵庫県)で武士の子として生まれた芦雪。
その後、円山応挙(まるやまおうきょ、1733-1795)に師事し、応挙の一番弟子となりました。
しかし、自由奔放な性格の芦雪は応挙から3度も破門にされてしまったことも。人びとを驚かすのが大好きな芦雪は、大胆な構図等で人気絵師となりました。
長沢芦雪について詳しく知りたい方はこちら▼
ここでは奇想の画家たちの代表作を紹介します。
伊藤若冲《動植綵絵 群鶏図》絹本着色 1757-1766 宮内庁三の丸尚蔵館
若冲が、40代のほとんどを費やして描いた《動植綵絵》。動植物を描いた彩色画です。
それまで続けてきた家業を弟に譲り、画業に専念できることになった若冲。高品質な画材を使用し、さまざまな技法を施し、時間をかけて描きました。
本作は30幅のうちの1作で、若冲が好んで描いた鶏はなんと13羽も!
30幅のうち、魚やタコを描いたものから蝶やカエルが描かれたものまで多種ありますが、その中でも鶏の作品は多く描かれています。
伊藤若冲《樹花鳥獣図屏風》紙本着色 18世紀頃 静岡県立美術館
花や鳥、動物が描かれている本作。
左隻には鳳凰やアヒル、若冲お気に入りの鶏など鳥たちがメインに描かれ、右隻には象を中心に虎や鹿など動物が描かれています。
はじめは右隻のみしか発見されず、右隻単体の作品だと思われていました。しかし、1993年に左隻が発見され、現在の作品の形となりました。
よく見てみると分かるのですが、マス目のようなものが描かれています。これは「枡目描き」や「モザイク画法」と呼ばれる技法です。
淡墨で縦横約1cmほどの四角の線を引き、方眼を描き、それぞれの方眼に濃い目の色で正方形に塗って作ります。
この技法は若冲が発明したといわれており、刺繍画のような印象も受けます。
曾我蕭白《美人図》絹本著色 18世紀 奈良県立美術館蔵
怪しい絵としてもよく紹介される本作。不気味で怪しげな女性が描かれています。
手に持っているのは切り刻まれた手紙。虚ろな目で、手紙をくわえ、外にもかかわらず裸足のままで女性がたたずんでいます。
解釈はさまざまあるのですが、女性の内なる狂気と怒りを感じる作品です。
曾我蕭白《蝦蟇・鉄拐仙人図》1760年頃 ボストン美術館
曾我蕭白は仙人をよく描いていたそう。本作は仙人、李鉄拐(りてっかい)と蝦蟇(がま)仙人が描かれています。
李鉄拐の吹く息の表現や、蝦蟇仙人が体を動かしているようすは、躍動感ある描き方で見事に表現されています。
奇想と言われた画家たち。彼らには当時の人びとを夢中にさせる、大胆さや発想がありました。
現代でも感じる奇抜さからは刺激を受けることができるでしょう。今後、作品を見る機会には、より奇想さを感じてほしいです。
【参考書籍】
・辻惟雄『日本美術史』株式会社美術出版社 2015年
・安村敏信『絵師別 江戸絵画入門』株式会社東京美術 2015年
・中西一雄『基本を押さえる美術歴史』株式会社美術出版社 2016年
・山下裕二『やさしい日本絵画』株式会社朝日新聞出版 2020年