デ・キリコ展/神戸市立博物館

夢の中の世界のような非日常の世界を味わおう【神戸市立博物館】

2024年9月25日

デ・キリコ展/神戸市立博物館

ジョルジョ・デ・キリコという画家をご存じでしょうか?

デ・キリコは、ギリシャ生まれのイタリア人画家で、「形而上絵画(けいじじょうかいが)」と名付けた1910年代の作品で一躍有名になりました。

「形而上絵画」は、ゆがんだ遠近法や、脈絡のないモチーフの配置、幻想的な雰囲気で、夢のような非日常の世界を描きます。

シュルレアリスムの先駆け的な存在として、多くの芸術家達に多大な影響を与えました。

現在、神戸市立博物館にて「デ・キリコ展」が開催中です。

本展は、デ・キリコの全てを見渡せる重要かつ大規模な展覧会になります。

関西では約20年ぶりの開催である「デ・キリコ展」に行ってきました。

ジョルジョ・デ・キリコとは

17世紀の衣装をまとった公園での自画像 1959 ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団(ローマ)

ジョルジョ・デ・キリコは、1888年にギリシャのヴォロスで、イタリア人の両親のもとに生まれます。

ニーチェやルソーといった哲学者や、ベックリンの作品から影響を受けた「形而上絵画」を1910年代に次々に描き、注目を集めます。

サルバドール・ダリや、ルネ・マグリットなど、シュルレアリスムの画家をはじめとした多くの芸術家に、多大な影響を与えました。

1919年以降には、古典絵画の様式に興味を抱いて研究をするなど、常に絵画への探求心を失わなかったデ・キリコ。
90歳で亡くなるまで制作を続けました。

イタリア広場でひらめいた形而上絵画

イタリア広場(詩人の記念碑) 1969 ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団(ローマ)

形而上絵画を描くきっかけとなったのは、イタリア広場だといいます。

デ・キリコは、その時のことを次のように回想しています。

「ある秋晴れの午後、私はフィレンツェのサンタ・クローチェ広場の真ん中にあるベンチに座っていた。(略)秋の生あたたかく愛のない太陽が、彫像とともに聖堂のファザートを照らしていた。そのとき、あらゆるものを初めて見ているかのような不思議な感覚におちいった私の脳裏に、絵画の構図が浮かびあがってきた」

こうして描かれたイタリア広場の作品。
人がいない静まり返った広場の中に長い影が伸び、ゾクッとするような不思議な魅力をたたえています。

バラ色の塔のあるイタリア広場 1934 トレント・エ・ロヴェレート近現代美術館(Ⅼ.F.コレクションより長期貸与)

その後、次々に形而上絵画が描かれます。

福音書的な静物I 1916 大阪中之島美術館

これらの作品は、後のシュルレアリスムの画家たちに大きな影響を与えました。

お気に入りのモチーフ・マヌカン

第一次世界大戦が勃発した1914年あたりから、マヌカン(マネキン)という特徴的なモチーフが誕生します。

予言者 1914-15 ニューヨーク近代美術館

こちらは、マヌカンを描いた最初期の傑作《予言者》です。

イーゼルを前に熟考する予言者の姿をしたマヌカンは、デ・キリコ自身のようです。

南の歌 1930頃 ウフィツィ美術館群ピッティ宮近代美術館(フィレンツェ)

どこか不安を駆り立てるマヌカンという独特のモチーフは、その後も彼の作品に度々登場しました。

ギリシャの哲学者たち 1925 ナーマド・コレクション

古典への回帰

1919年、デ・キリコは、ローマのボルゲーゼ美術館でティツィアーノの作品を観て、古典絵画に魅了されます。

古典絵画の偉大な技法を学ぶべきであると直感したデ・キリコは、伝統的な絵画を模倣した作品を制作するようになります。

横たわって水浴する女(アルクメネの休息) 1932 ローマ国立近現代美術館

本作は、古典絵画の研究中に描かれました。

後に妻となるイーザを描いた水浴画で、ルノワールの影響を強く受けた作品です。

新形而上絵画へ

最晩年となる1960年代に入ると、「新形而上絵画」と呼ばれる新たな境地の作品が開花しました。

それらは、今までに描いた数々の形而上絵画をもう一度描き直したものや、伝統絵画の技法、ギリシャ神話の要素、彼のお気に入りのモチーフであるマヌカンなどを織り交ぜて自由に描かれました。

オデュッセウスの帰還 1968 ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団(ローマ)

前衛的や古典的であるなど、そんな分類にデ・キリコは全くとらわれません。

今までのデ・キリコの全てを織り込んだこれらの作品には、明るさと自由な雰囲気を感じますね。

オイディプスとスフィンクス 1968 ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団(ローマ)

城への帰還 1969 ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団(ローマ)

彫刻や舞台芸術も展示

デ・キリコは、彫刻も手がけました。本展では、彼の彫刻作品も紹介されています。

考古学者 1971 ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団(ローマ)

戦争などの影響もあったため、デ・キリコの彫刻制作は、1940年代~晩年まで制作を行っていたようです。

また、舞台美術や衣装などにも携わっていました。

デ・キリコが描いた舞台の衣装案や、衣装そのものなどが展示されています。

特設ミュージアムショップも注目

会場の出口にある特設ミュージアムショップもお見逃しなく。

ポスターやポストカード、Tシャツだけでなく、デ・キリコ展オリジナルカラーの木製玩具も販売されていますよ。

まとめ

デ・キリコは、前衛的や現代的、古典的であるかなど、そういったものに捕われず、自分の描きたい世界を模索し続けた画家だと感じました。

絵画は心で感じるものなんだということを再認識した展覧会でした。

神戸にお立ち寄りの際にはぜひ、ご覧下さい。

© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

Exhibition Information

展覧会名
デ・キリコ展
開催期間
2024年9月14日~12月8日
会場
神戸市立博物館
公式サイト
https://dechirico.exhibit.jp/