松本竣介 街と人 -冴えた視線で描く-/アサヒグループ大山崎山荘美術館

美しい文化財との競演。洋画家・松本竣介の魅力と生涯をたどる展覧会【アサヒグループ大山崎山荘美術館】

2025年2月20日

美しい文化財との競演。洋画家・松本竣介の魅力と生涯をたどる展覧会【アサヒグループ大山崎山荘美術館】

「松本竣介 街と人 -冴えた視線で描く-」が、アサヒグループ大山崎山荘美術館にて開催中です。

激動の戦時下を生き、36歳の若さで世を去った画家・松本竣介。

本展では、大川美術館が所蔵するコレクションを中心に、彼の60点余りの作品・デッサンが全6章にわたり展示されています。

建物自体が登録有形文化財である洋館「大山崎山荘」とのコラボレーションにも注目です。

“冴えた視線”で描く洋画家・松本竣介


「松本竣介 街と人 -冴えた視線で描く-」展示風景

竣介が病により聴覚を失ったのは、13歳のとき。17歳で本格的に絵を学び、1935(昭和10)年「第22回二科展」に《建物》を出品し初入選します。

その後、画家としてのキャリアをスタートさせますが、時代は戦争へ。竣介は画家人生の大半を戦時下に過ごしました。


「松本竣介 街と人 -冴えた視線で描く-」第1章 展示風景

当時の情勢を危惧し、美術雑誌『みづゑ』に寄稿した「生きてゐる画家」の文章で「芸術家とは、目先ではなく100年先の日本のためにあるのだ」と意思表示。


「松本竣介 街と人 -冴えた視線で描く-」第1章 展示風景

1942(昭和17)年に発表した代表作《立てる像》には、国の未来を憂いた竣介の「表現の自由」を求める強い想いが込められているかのようです。

本展では、《立てる像》の構想段階であるデッサン作品を展示。

時代と自己を冷静に見つめる独自の視点が、自画像をはじめとした作品や文章に色濃く表れています。

静けさをたたえて。竣介の目に映った街と人


「松本竣介 街と人 -冴えた視線で描く-」第2章 展示風景

17歳で盛岡から上京した竣介は、「田園を愛するように都会を愛している」*と語っています。

東京の雑踏を「原っぱを歩いているような気持ち」*で歩き、アトリエに持ち帰ったスケッチを再構築して都会風景を描きました。


松本竣介《街》1938年 大川美術館

深い青の中から白く浮かび上がる建物、行き交う車、群衆――。そこで生きる人びとの活気が伝わってくる《街》。

この作品が世に出た1938(昭和13)年前後、「街とそこに生きる人たちの生活」を描いたデッサンが数多く制作されています。


「松本竣介 街と人 -冴えた視線で描く-」第3章 展示風景

風景画の域を超え、再構築を重ねて生み出された「街」「建物」「人」。戦時下の緊張感に包まれながらも、その絵には澄んだ静けさが漂っています。

独自の女性像と父としてのまなざし


「松本竣介 街と人 -冴えた視線で描く-」第4章 展示風景

続く第4章・第5章のテーマは、竣介が独自に描いた「女性像」と「少年像」。

普遍性を帯びた「女性」は、スクラップブックに収められた映画雑誌の切り抜きや、エッセーを中心に刊行した『雑記帳』の編集にも携わった妻・禎子がモチーフとなっています。


「松本竣介 街と人 -冴えた視線で描く-」第5章 展示風景 ※左作品は前期のみ展示

子どもの表情や手の描き方が印象的な「少年像」の作品群。幼くして長男と長女を亡くした竣介にとって、次男・莞の成長はこの上ない喜びだったよう。


「松本竣介 街と人 -冴えた視線で描く-」第5章 展示風景 ※右作品は前期のみ展示

鉛筆、コンテ、木炭を使い、子どもらしい表情をとらえた作品《コップを持つ子ども》からは、わが子を見つめる父のまなざしが伝わってきます。

「水晶のような男」。竣介が求めた真の芸術とは?


松本竣介《ざくろ》1948年 個人

最終章「構図」では、新たな表現方法を模索していた戦後の竣介の画業をたどります。

「東洋における芸術家の最高の悟りの境地・“童心”こそが、真の芸術性である」*と信じた竣介。


松本竣介《せみ》1948年 個人

わが子の「落書き」からインスピレーションを得た《せみ》には、子ども特有の純粋な視点に感銘を受けていた当時の心境が伺えます。


「松本竣介 街と人 -冴えた視線で描く-」第6章 展示風景

本展の最後に注目したいのは、中学時代からの親友であり彫刻家の舟越保武氏が手がけたブロンズ像《ローマの娘》と、竣介の絶筆と言われる《建物(青)》の並び。

舟越氏より、純粋で“冴えた”視線をもつ「水晶のような男だった」**と評された竣介の最期の作品は、引き込まれそうな暗闇の中で、どこか穏やかな静けさを宿しているようにも思えました。


「松本竣介 街と人 -冴えた視線で描く-」コレクション展示

本館の展示にとどまらず、建築家・安藤忠雄氏が設計した地中館「地中の宝石箱」のコレクション展示も見逃せません。

クロード・モネの《睡蓮》連作に並び、若き日の竣介が影響を受けたアメデオ・モディリアーニやジョルジュ・ルオーの作品も紹介されています。

風格ある本館をはじめ、四季折々の景色を楽しめる庭園や、京都の三川・対岸の男山・遠くは奈良の山々までを一望できるテラスなど、会場全体にわたって見どころが満載です。

まとめ

竣介が生きた大正〜昭和初期の趣を残す、アサヒグループ大山崎山荘美術館。

本館2階の喫茶室では、作品をイメージした特製スイーツが楽しめるほか、会期中の関連企画やオリジナルグッズの販売も充実しています。


「松本竣介 街と人 -冴えた視線で描く-」ミュージアムショップ

「静謐な美しさを放つ松本竣介の画業」と「重厚な洋館の佇まい」が一体化した、ユニークな展示空間。

夢の競演と対峙できるこの貴重な機会に、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

*松本竣介『人間風景 新装増補版』中央公論美術出版 1990年より
**舟越保武『舟越保武全随筆集』求龍堂 2012年より

Exhibition Information