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クロード・モネの世界にひたる。日本初公開作品を含む〈睡蓮〉などを堪能【国立西洋美術館】
2024年11月1日
スフマートでは、「つくる」「つたえる」という2つの視点をもとに、ミュージアムを支えるさまざまな人へのインタビューをお届けしています。
今月は特別編として、美術の専門的な教育を受けることなく、自ら湧き出る創造性をパワーに絵画などの作品を創作する「アール・ブリュット」について、2人の視点から取り上げます。
お話を聞いた2人目は、東京都渋谷公園通りギャラリー文化共生課長・学芸員の大内郁(おおうち かおる)さんです。
東京都渋谷公園通りギャラリー 文化共生課長・学芸員 大内郁さん ※撮影時のみ、マスクを外していただきました。
渋谷駅のハチ公改札口を抜け、公園通りの坂道をのぼった、喧騒を少し離れたエリアに位置する同館。2020年にオープンし、展覧会やワークショップなどの交流イベントを通して、ダイバーシティへの理解促進や、共生社会の実現に寄与することを目指しており、多様な創造性や新たな価値観に人びとが触れる機会を作り出しています。
前編では、これまでに行われてきた展覧会について、ギャラリーとして大切にしていることなどをお伺いしました。
※3331アーツ千代田ポコラート事業 嘉納礼奈さんのインタビューはこちら(前編/後編)
──東京都渋谷公園通りギャラリーはオープンから約2年が経ちましたが、改めて「アール・ブリュット」を伝えるために大切にしていることを教えてください。
当ギャラリーのミッションである、「アール・ブリュットをどう面白く広げて伝えていくか」を考えたとき、まず“縦軸”と“横軸”をイメージしました。“縦軸”は、当ギャラリーが東京都歴史文化財団東京都現代美術館と関連していますので、その位置づけを鑑みて、アール・ブリュットとしてこれまで見出されてきた美術作品・芸術作品や、名品と呼ばれるような作品を展示し、より深掘りしていくことです。
と同時に、“横軸”として、もう少し言うと平面のイメージですが、広い世界においてアール・ブリュットという視野で見出された、さまざまな周縁にあるもの、興味深いものや面白いものを、アートの視点で広くとらえて展示していくことができると考えています。このように、当ギャラリーでは「広く、専門的な美術の教育を受けていない人などによる独自の発想や表現方法が注目されるアート」として、アール・ブリュットを紹介しています。
「アール・ブリュット」という言葉だけを聞くと、よく分からない、という方もいらっしゃると思います。ですので、“縦軸”だけではなく、もっといろんな視野で作品を観るために“横軸”も取り入れながら、相互が補完するようなイメージを大切にしています。
──そうした考え方があるから、毎回展覧会も本当に幅広い表現活動を紹介しているのですね。いくつか、これまでの展覧会についても教えてください。
これまで開催したものだと、例えば、『アール・ブリュット ゼン&ナウ』という展覧会シリーズがありまして、これは国内外で長く活躍を続ける作家と、近年発表の場を広げつつある作家を、さまざまな角度からご紹介する、まさに“縦軸”の企画です。
『レターズ ゆいほどける文字たち』
シリーズの第1回目として、2021年3~6月に開催(コロナの影響により一部休止)した『レターズ ゆいほどける文字たち』では、美術作品として‘強度のあるもの’を紹介しました。このシリーズに限らずギャラリーで展示された作品は、もしかしたら10年後や20年後、美術館の収蔵作品になっていくかもしれないですし、そのときはもう「アール・ブリュット」という肩書きは無くなっているかもしれません。
──2021年末まで開催されていた『語りの複数性』は、対照的に“横軸”の展覧会ですね。展示の見せ方も含めて新しいアプローチでした。
そうですね。アール・ブリュットと言える作品も展示しましたが、多様性や共生といったテーマにも重きを置いた企画展でした。
『語りの複数性』展示風景より ※2021年10月9日~12月26日開催
本展の会場構成は、建築家の中山英之さんに関わっていただきましたが、完成した空間を見て、プロフェッショナルの力は非常に大きいと実感しました。
ふだんであれば、基本的に学芸員が担当する業務ですが、もともと独立した展示施設として作られていないこの場所に、空間デザインを入れたことで、作品と向き合う異空間のような効果が得られました。
※展覧会公式サイトはこちら
──SNSでも話題でしたね。渋谷という土地柄もあるの思うのですが、若年層が多くいらっしゃったのでしょうか。
そうですね。とくに20~30代の方に足を運んでいただいた展覧会でしたね。『語りの複数性』では、多様性や共生というテーマをもとに、現代アートやコンセプチュアルな作品も展示し、鑑賞者に考えていただく、という狙いがありました。
例えば、そもそも「障害」とは何か、ということです。これまで「障害」とは、当たり前のように、マイナスイメージを持っていたり、ネガティブな印象でとらえられることの多い言葉だったと思います。
しかし、例えば身体のある機能がなくても、ほかの機能でカバーし知覚し感受しているということを含めて、私たちは知らないことが多いですし、「他者」を知ることで、「障害」という概念も変化していきます。
──東京都渋谷公園通りギャラリーでは、アール・ブリュットに関して「障害」という言葉は用いずに、情報発信などを行っていらっしゃいますね。大切にされていることのひとつだと想像します。
おっしゃる通りです。先ほど触れた「障害」概念の変化の一方で、これまで言葉に積み重ねられてきたイメージにもとらわれず、さらに広く多様なものとつながっていける可能性がある、と考えているからです。
展覧会では、アール・ブリュットをはじめとする作品の展示はもちろん、手がけた作家にまつわるエピソードを同時に紹介することもあります。どんなきっかけで創作を始めたのか、どんな日常の中で創作活動をしているのか、といった内容です。こうした情報は自律的な美術の見せ方としては、作品鑑賞を過度に誘導しかねず不要とされる傾向のあることですが、それでもやってみると多くの方に好評で、「創作の背景に共感した」「作品の見え方が変わった」といった感想を寄せていただいたのは印象的でした。
どんな作品でも、作家が創作する背景には、自身の苦悩のようなものが存在することがあります。例えば、周囲とのコミュニケーションが難しく、その手段として作品ができる、というようにです。
作家自身のことやその背景を知り、自分にとって身近な存在だと感じ、その苦悩や模索への共感が生まれるのだと思います。
──もしかするとこれからの新たなアートは、そういったところから生まれるのかもしれませんね。
そうかもしれません。このギャラリーをスタートするときは、「アール・ブリュット」と掲げることで、逆にカテゴライズしてしまうのではないか、本当に受け入れられるのか、自問自答ばかりでしたし、日々さまざまなことを試している途中ですが、思いもしなかった反応や声をいただけることが嬉しいです。
企画一つひとつが、既成の概念やものの見かたなどの枠を外していく小さなきっかけになってくれたらと思います。
東京都渋谷公園通りギャラリー 外観
渋谷公園通りギャラリーは、いつでも誰でも入場無料で、気軽に展覧会を楽しむことができる、非常に開かれた場として運営されています。ぜひふらりと立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
美術や芸術といった枠だけにとらわれない、自由で多彩なジャンルレスな世界、これまで見たことのない作品や、出会ったことのない作家と出会えるかもしれません。
後編では、渋谷にあるギャラリーとして今後取り組んでいきたい活動や、現在開催中の展覧会『Museum of Mom’s Art ニッポン国おかんアート村』について伺います。