塩田千春の作品から他者との「つながり」を考える。圧巻のインスタレーションに注目
2024年10月3日
企画展 仏具の世界/根津美術館
今回、読者レビューを担当することになりました、よもつです。普段は日本美術を中心に、展覧会鑑賞を楽しんでいます。美術ファンの1人として展覧会の魅力をお伝えできればと思うので、よろしくお願いします。
今回ご紹介するのは、根津美術館の「仏具の世界」展です。
根津美術館というと、毎年、初夏に展示される国宝の尾形光琳筆「燕子花図屏風」や、茶道具のコレクションが有名ですが、仏教に関する絵画・彫刻・工芸など、さまざまな優品も所蔵されています。この展覧会では、その中でも工芸に焦点を当て、仏具の造形の美しさをひも解きます。
※展示室内は撮影禁止です。プレス向け内覧会で許可を得て撮影しています。
展覧会では仏具を5つのテーマから紹介しています。「仏具」と聞くと、少し難しそうに聞こえますが、身構えることなく、まずはそれぞれの形や装飾にじっくりと目を向け、その美しさを味わってみましょう。
金色に輝く仏像や、華麗に装飾された仏具によって、人びとは仏の偉大さ、徳の高さを感じ、仏を信じる心を抱くようになります。このセクションでは、仏の遺骨を納める舎利塔(しゃりとう)や、仏像や経典を納める厨子(ずし)、あるいは仏堂内外を飾る荘厳具(しょうごんぐ)を展示します。
《赤地格子連珠花文錦(蜀江錦)》中国・隋~唐時代 根津美術館蔵
こちらは法隆寺に伝わる蜀江錦(しょっこうきん)の一種で、幡(ばん)と呼ばれる仏堂の内部を荘厳するものの一部だったと考えられています。
目に鮮やかな赤地に細やかな格子文様がびっしりと連なっています。こんな鮮やかな幡で飾られた仏堂を想像すると、圧倒されるような豪華さだったのではないでしょうか。
《当麻曼荼羅》日本・室町時代 15世紀 根津美術館蔵
これは当麻寺に伝わる《当麻曼荼羅》を4分の1のサイズに縮小した模本です。
4分の1でもかなりの大きさです。ここには浄土の世界が描かれており、絢爛な浄土世界は、当時の人びとに浄土世界を直感的に伝えたことでしょう。
(そして、この《当麻曼荼羅》は後半の伏線にもなっているので、覚えておいてくださいね!)
次のセクションでは、仏に捧げる香・華・灯を供えるための香炉・華籠・燭台など「供養具」を紹介します。
《銀象嵌梵字宝相華文香炉》は、一際大きな香炉で、器全体に梵字(ぼんじ)や装飾文様で埋め尽くされています。
《銀象嵌梵字宝相華文香炉》朝鮮・高麗時代 13~14世紀 根津美術館蔵
また、近くに展示されている高麗時代の経典《法華経》の見返しには、仏の前に同じような足のついた香炉が置かれているようすが描かれています。
《法華経》朝鮮・高麗時代 至正13年/恭愍王2年(1353)根津美術館蔵
3つめのセクションでは、僧侶が修行の際に用いる僧具を紹介します。こうした僧具は「荘厳具」や「供養具」とは異なり、華美に装飾するのではなく、簡潔でかつ洗練された造形が求められます。
(上)《布薩形水瓶》日本・鎌倉時代 13世紀 根津美術館蔵/(下)《朱漆足付盤(布薩盥)》日本・室町~桃山時代 16世紀 個人蔵
これは、布薩会(ふさつえ)という儀式で僧が手を清めるための水瓶(《布薩形水瓶》)と布薩盥(《朱漆足付盤》)です。シンプルですが、洗練された風情と風格が漂います。
(朱漆が長年の使用で下地の黒漆が見えるこの風合いが渋くて堪らない!!)
このセクションでは、密教において本尊の前にさまざまな法具を組み合わせて並べる密教壇具をはじめ、自らの内に宿る仏性を呼び覚ますための仏具を展示しています。
特に弘法大師像の前に金剛盤や五鈷鈴(ごこれい)・五鈷杵(ごこしょ)を配置した展示では、密教壇具の雰囲気を体感できるようになっています。
重要文化財《弘法大師像》日本・鎌倉時代 13~14世紀 大師会蔵
亡き人を弔ったり、自身の往生を願うことは、男性だけでなく女性も熱心に行っていました。
最後のセクションでは、古くは《当麻曼荼羅》の中将姫の伝説に始まり、女性が発願して制作された繍仏画(しゅうぶつが)や、小袖の裂を使った幡など、女性に関連した仏具を紹介します。
《当麻曼荼羅縁起絵巻模本》冷泉為恭 筆 日本・江戸時代 19世紀 根津美術館蔵(植村和堂氏寄贈)
《当麻曼荼羅》、最初のセクションにも出てきましたね!あの曼荼羅が誕生した中将姫の伝説がこの絵巻に描かれています。
(右)白綸子地花立涌葵菊藤団扇模様染繍唐幡
日本・江戸時代 弘化4年(1847)銘 国立歴史民俗博物館蔵
前期展示(2/18[土]~3/12[日])
特に興味深かったのは、小袖の裂を用いて作られた幡や打敷(うちしき)などです。
最初から仏具として作られた装飾の緻密な美しさとは異なり、元々着物だったため、大らかで親しみやすい華やかさで、これまで見てきた作品とはまた違った趣きです。
「仏具の魅力は細部にあり!」と感じたくらい、この展覧会では細部に注目です。
例えば、この《黒漆春日厨子》。扉の内側に持国天と多聞天が描かれていますが、背景には截金(きりかね:金箔を細い糸状にして貼り付ける技法)で格子柄が表されています。
黒のシックな外観の厨子を開けると、内側は金を使った仏の世界が現れるようになっています。
《黒漆春日厨子》日本・室町時代 16世紀 根津美術館蔵
そして、内部の奥の壁には蓮華の花びらが描かれています・・・が、ここで終わったらもったいない!!ぐっとしゃがみこんで、内部の天井部分まで要チェックです。
実は、この天井にも花びらが描かれているのです。これにはびっくり!まるで天から花びらが降っているようで、厨子内部がまるで浄土世界のようです。仏像の位置関係も含めて、立体的に浄土世界が表現されていることに感動しました。
(実は内覧会では天井部分に気づかず、翌日再訪した時に気づいたので、内部の写真は撮れませんでした。ぜひ会場でお確かめください!)
他にも、舎利塔の細かい階段部分まで文様が施されていたりと、どれも目を凝らせば凝らすほど、繊細で豊饒な装飾にうっとりしてしまいます。
また、儀式で用いられる散華(紙で作った花びら)を盛るための器である《彩絵華籠》は、蓮の花と三鈷という仏具が描かれた目に鮮やかな器です。特に蓮の形に添って透かしになっている点は、手が込んでいます。
《彩絵華籠》日本・鎌倉時代 14世紀 根津美術館蔵
そして、本展では少し珍しい作品も展示されていました。
《粉青印花牡丹文厨子》は、厨子として粉青沙器(ふんせいさき)が用いられている珍しい例です。
粉青沙器とは朝鮮陶磁において、有色の素地に白化粧が施されている技法、作品のことです。
素朴な味わいで、仏さまが家の中にいるみたいですね。中の仏像は厨子よりも後の年代と推定されていますが、2代目根津嘉一郎氏が購入した際には既にセットになっていたようです。
《粉青印花牡丹文厨子》朝鮮・朝鮮時代 15世紀 根津美術館蔵
近代数寄者・初代 根津嘉一郎のコレクションを中心とした根津美術館らしく、茶道具として使われた仏具も展示されています。特に《鰐口やつれ風炉》は必見です。
《鰐口やつれ風炉》日本・江戸時代 元禄16年(1703) 根津美術館蔵
鰐口(わにぐち)とは、仏堂正面の軒下に吊るし、その前に別に吊るした紐で打ち鳴らす仏具のことです。
長年の使用で中央の撞座(きくざ)周辺が壊れてしまったのか、中央に穴が開いた鰐口を、脚をつけて茶道で用いる風炉に転用しています(茶道での使われ方を再現し、中に灰を入れた状態で展示されています)。
これは、千利休が狛犬の置物の頭部を割って香炉にしたと伝わる《獅子香炉》。茶の湯を極める者の創意工夫にはいつも驚かされます。
重要美術品《獅子香炉》日本・室町時代 15世紀 根津美術館蔵
もともと茶は禅宗寺院の中で飲まれており、仏教とも密接につながっていることからも、茶道具と仏具の親和性の高さがうかがえます。
2Fで同時開催の2展も見どころ満載です。
まず、展示室5の「西田コレクション受贈記念ⅠIMARI」。根津美術館の顧問・西田宏子氏が蒐集した陶磁器など工芸品169点が、この度美術館のコレクションとなり、その記念として今回から3期に分けてお披露目展が開催されます。
その第1回にあたる本展では、「IMARI」と題し、肥前有田焼の伊万里焼など29点を展示します。
《色絵紋章文大皿》日本・江戸時代 18世紀 根津美術館蔵(西田宏子寄贈)
特に西田氏が留学中、オランダ貴族のビューレン家の子孫より直接譲り受けたこの《色絵紋章文大皿》は、1702年にビューレン家の子女とフレデローデ家の子息の結婚を祝うために制作された品で、両家の家紋が施された貴重な作品です。
文様や華麗な装飾など、実に西洋的なデザインですが、皿の周囲をぐるりと囲む房の柄をよーく見ると、均質に描かれたというよりは少し緩いタッチで描かれており、構築的なデザインの中にもほっこりする味わいを見せます。
《桜花図》喜多川相説 筆 日本・江戸時代 17世紀 根津美術館蔵(小林中氏寄贈)
続いて展示室6では、「花どきの茶」と題し、桜を愛でる和歌を題材にした軸や、春らしい銘をもつ道具など、これから春を迎えるのにぴったりな茶道具、約20点を取り合わせます。
《伯庵茶碗》日本・江戸時代 17世紀 根津美術館蔵
この《伯庵茶碗》は、緑色の斑点のような模様が雲のようにも見え、何となく春霞のような風情が漂います。
繊細で華麗な装飾で彩られた「仏具の世界」展、鮮やかで艶やかな魅力を放つ「IMARI」展と、硬質な素材や光沢感のある作品の魅力を堪能した後に、春の風の暖かさを感じる道具類が並ぶ「花どきの茶」展で一息つくのも良いですね。
「オンライン予約制」を導入しています。詳しくは、根津美術館公式サイトをご確認ください。