塩田千春の作品から他者との「つながり」を考える。圧巻のインスタレーションに注目
2024年10月3日
「10分でわかるアート」は、世界中の有名な美術家たちや、美術用語などを分かりやすく紹介する連載コラムです。
作家たちのクスっと笑えてしまうエピソードや、なるほど!と、思わず人に話したくなってしまうちょっとした知識など。さまざまな切り口で、有名な作家について分かりやすく簡単に知ってもらうことを目的としています。
今回は、印象派と似ているようで実は全く違う「新印象派」について詳しくご紹介。
「この作品を作った作家についてもう少し知りたい!」「美術用語が難しくてわからない・・・」そんな方のヒントになれば幸いです。
美術用語に関連する多くの本では、新印象派として独立して説明されている場合と、一般的にポール・セザンヌやポール・ゴーガン、フィンセント・ファン・ゴッホの3人を示す「後期(ポスト)印象派」としてまとめて紹介される2つのパターンがあります。
本記事では、新印象派と後期印象派を分けて紹介します。
新印象派とは、19世紀末にフランスの画家であるジョルジュ・スーラ(1859-91)とポール・シニャック(1863-1935)から始まった絵画運動のことです。リーダー格であるスーラが31歳という若さで亡くなったため、新印象派は美術史上では少し影の薄い存在ですが、20世紀初頭の画家にも多大な影響を与えた美術様式です。
クロード・モネなどで有名な印象派と同じ「分割筆触」という点描の技術を使用する新印象派ですが、彼らが目指したのは、印象派とはまったく別のものでした。
印象派にとって自然とは、移ろいやすい存在であると考えられています。
なかでもモネは、「目に見えるものをそのまま表現する」という印象派の信条をもとに、制作に取り組んでいました。そうして完成した作品《睡蓮》には、印象派の表現が集約されています。
クロード・モネ《睡蓮》1906年
一方、新印象派のスーラたちは自然の色彩や光線を徹底的に研究し、カンバスでいかに光を表現するかを追求しました。そうした新印象派の表現は、技法も色も鑑賞者に与える効果を予測して使い分けるように工夫されています。
つまり、新印象派が描く作品は、意図がキッチリと決まっており、計算された、科学的な絵画ということであり、印象派の「目に見えるものをそのまま表現する」という精神とは異なる考え方を持っているのです。
考え方がまったく異なる印象派と新印象派。しかし、日常の何気ない瞬間を切り取り、それをモチーフとするという部分には共通点があります。
今後「印象派展」が開催されるときは、どのようなモチーフを選んだかはもちろんですが、描き方にも注目し、鑑賞してみてください。同じ「印象派」ですが、描き方の違いを楽しめますよ。
理論的な点描で画面を構成した画家、スーラ。彼は物静かな勉強家だったそうです。
スーラは当時、最先端の色彩理論や科学研究に影響を受けて鮮明な色彩を追求し、点描主義(分割主義)と呼ばれる技術を磨きました。
そんなスーラの代表作《グランド・ジャット島の日曜日の午後》は、美術の教科書などで観たことがある方も多いのではないでしょうか。
公園でさまざまな活動をしているあらゆる社会階級の人びとを描いた本作は、スーラが開発した点描法で描かれています。
本作をよく見てみると、細かな点がびっしりとカンバス上に並べられており、人や動物、また風景などを表現しているのが分かりますね。
ジョルジュ・スーラ《グランド・ジャット島の日曜日の午後》1884-1886年
配色にもスーラのこだわりを見つけることができます。となり同士に並ぶ点の色を変えることで、人の眼の中にある網膜で色が混合され、絵具を混ぜ合わせてカンバスに塗りつぶすときよりも、明るく見えるのだそう。
スーラは、当時出版された光学理論や色彩理論の研究に基づき、原色とその補色を並べ、本作に反映させました。彼は、この点描こそが色彩をより鮮やかに、そして、より強く見せることができる表現であると信じていました。
本作のサイズは3mと非常に大きな作品です。制作期間は2年間ですが、そのうちの多くは、カンバスに描く前の公園のスケッチに時間を使っていたといいます。
本作は、アメリカのシカゴ美術館で常設展示されています。近づいたり離れたりしながら鑑賞すると、スーラの色彩へのこだわりを体感することができるかもしれません。
スーラとともに「新印象派」を支えた画家
ポール・シニャック《フェリックス・フェネオンの肖像》1890年
シニャックは、スーラとともに新印象派の画家として活躍したことで知られています。彼は、若くして亡くなったスーラが追求した点描主義を発展させました。
スーラが考えた描写方法や色彩理論に心を打たれ、彼の支持者として、また友人として、一緒に新印象派や点描方法を使った絵画を制作したシニャック。
シニャックの作品の中には、一見するとスーラと見分けがつかないほどのものもあります。このことから、かなりスーラを尊敬していたことがうかがえますね。
ちなみに、シニャックはスーラよりも外交的な性格だったそう。『ドラクロワから新印象派まで』という本を出版し、新印書派の理論を広めました。
スーラの色彩理論と、点描に魅了された画家は数えきれないほどいます。
そのうちの有名な画家では、ゴッホは1880年代後半に点描で多くの絵を制作しました。また、ナビ派のモーリス・ドニやゴーガンも1880年代に点描の良さに気づき、多くの作品を残しています。
ジョルジュ・ブラックとパブロ・ピカソも、スーラの幾何学的な表現にインスパイアされており、この流れからやがてキュビスムが生まれます。
色彩の魔術師と呼ばれたアンリ・マティスは、1904年、シニャックのアトリエに招かれていますが、マティスはそこで、彼の強烈な色彩で描かれた作品に影響を受けます。フォービスムもここから誕生しました。
スーラとシニャックが築き上げた新印象派の理論は、次世代の画家に大きな影響を与えていることがわかりますね。
新印象派について、詳しく紹介しました。
モネやピエール=オーギュスト・ルノワールなどが活躍した印象派よりも、新印象派はずっと理論的で、計算された絵画だということに驚きました。このように絵画を科学的に分析したことが、次世代の画家たちにとっては、新鮮で分かりやすく、心をとらえた理由だったのかもしれませんね。
次回は、ディエゴ・ベラスケスについて、ユニークなエピソードとともにご紹介します。お楽しみに!
【参考書籍】
・早坂優子『巨匠に教わる 絵画の見かた』株式会社視覚デザイン研究所 1996年
・早坂優子『鑑賞のための 西洋美術史入門』株式会社視覚デザイン研究所 2006年
・杉全美帆子『イラストで読む 印象派の画家たち』株式会社河出書房新社 2013年