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クロード・モネの世界にひたる。日本初公開作品を含む〈睡蓮〉などを堪能【国立西洋美術館】
2024年11月1日
「10分でわかるアート」は、世界中の有名な美術家たちや、美術用語などを分かりやすく紹介する連載コラムです。
作家たちのクスっと笑えてしまうエピソードや、なるほど!と、思わず人に話したくなってしまうちょっとした知識など。さまざまな切り口で、有名な作家について分かりやすく簡単に知ってもらうことを目的としています。
今回は、19世紀後半のフランスを中心にみられた「ジャポニスム」について詳しくご紹介。
「この作品を作った作家についてもう少し知りたい!」「美術用語が難しくてわからない・・・」そんな方のヒントになれば幸いです。
1845年に日本の江戸幕府が鎖国をやめ、ほどなくして万国博覧会に参加するようになると、ヨーロッパへ日本の工芸品や美術品が数多くもたらされるようになります。そして、ヨーロッパの人びとのあいだに日本に対する興味が広がりました。その結果、生まれた芸術運動をジャポニスム(日本様式)といいます。
なかでもジャポニスムはフランスで流行し、さまざまな日本の美術品がパリの輸入店で販売されるようになります。特に浮世絵は、当時フランスで活躍していた画家たちに大きな驚きを与えました。
(左)喜多川歌麿「婦女人相十品 ポッピンを吹く女」江戸時代 18世紀
(中央)葛飾北斎「冨嶽三十六景 凱風快晴」1831-34年
(右)歌川広重「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」1857年
ジャポニスムが流行しだした当初は、日本らしい着物や陶磁器などが、画中の小道具として登場するだけの「ジャポネズリ(日本趣味)」でした。
(左)クロード・モネ《ラ・ジャポネーズ》1876年
(中央)エドゥアール・マネ《エミール・ゾラの肖像》1868年
(右)ジェームズ・マクニール・ホイッスラー《バラと銀:陶磁の国の姫君》1863-1865年
そして次第に、西洋の画家たちは浮世絵の斬新な構図や表現、また動植物、昆虫といった自然をモチーフにした作品など、それまでの西洋美術にはない手法を研究し、自分たちの作品の中に取り入れるようになります。
たとえば、遠近法に縛られない浮世絵の平面的な構図は、自由な視点から日常を描こうとする印象派の画家たちへ大きな影響を与えました。浮世絵の明るい色彩に影響を受けたフィンセント・ファン・ゴッホは、その技法を取り入れた作品を多く描き残しています。
Pierre Bonnard,Femmes au jardin ,
détrempe à la colle sur toile, panneau décoratif, ©Musée d’Orsay, Dist. RMN-Grand Palais / atrice Schmidt
1890年代に登場したピエール・ボナールなどで知られるナビ派のように、西洋の絵画に行き詰まりを感じていた画家たちの新しい試みが、ジャポニスムへと進化させたのです。
印象派を代表する画家クロード・モネが描いた、初期ジャポニスムの傑作《ラ・ジャポネーズ》。本作のモデルは、モネの最初の妻であるカミーユです。
クロード・モネ《ラ・ジャポネーズ》1876年
おうぎを手に鮮やかな赤色の着物をまとったカミーユの背後には、たくさんのうちわが飾られています。
当時のフランスで大流行していた日本趣味をたっぷりと盛り込んだ本作。第2回印象派展に出品されました。
フランスの画家であるアンリ・ド・トゥールーズ・ロートレックは、フランスの大貴族アルフォンス・トゥールーズ・ロートレック伯爵の長男として生ました。
14歳から15歳にかけての二度の事故で両足を骨折して以来、下半身の成長が止まり、以後、絵画に専念し始めます。
アンリ・ド・トゥールーズ・ロートレック《ディヴァン・ジャポネ》1892-1893年
ロートレックの作品でもっとも知られている《ディヴィアン・ジャポネ》。本作のタイトルは「日本の長椅子」を意味しています。
ロートレックは多くの浮世絵を収集していました。本作に見られるだいたんな構図や平面的な色彩などは、浮世絵の影響を受けているといわれています。
ポスト印象派を代表する画家であるフィンセント・ファン・ゴッホ。《タンギー爺さん》はファン・ゴッホが1886年から2年間、パリで暮らす弟・テオの家に居候していた時に描きました。
フィンセント・ファン・ゴッホ《タンギー爺さん》1887年
パリで画材店を営み、また美術商であったジュリアン・タンギーという人物を描いた肖像画である本作。全部で3作存在しています。
タンギー爺さんの後ろに描かれている作品に注目! 描かれているのは葛飾北斎などの浮世絵です。印象派と浮世絵の技法を取り入れたファン・ゴッホの新しい作風の代表作として知られています。
JR東京駅徒歩5分という好立地に建つ、三菱一号館美術館。19世紀後半から20世紀前半の近代美術を主題とする企画展を年3回開催しています。
特徴的な赤れんがの建物は、三菱が1894年に建設した「三菱一号館」(ジョサイア・コンドル設計)を復元したもの。
同館のコレクションも、建物と同時代の19世紀末西洋美術を中心に、ロートレックやルドン、ヴァロットン作品などを収蔵しています。
千葉市美術館は1995年、千葉市中心街の一角に中央区役所との複合施設として開館しました。同館は、市内に残る数少ない戦前の建物(旧川崎銀行千葉支店)を新しい建物で包み込むように設計されています。
浮世絵を多く所蔵する同館。なかにはジャポニスムに影響を与えた作品もあります♪
今回ご紹介した2つの館以外にも、多くのミュージアムでジャポニスムの影響を受けた作家の作品が所蔵されていますよ。気になる方はぜひ調べてみてくださいね。
19世紀後半の画家たちに影響を与えた「ジャポニスム」について、詳しくご紹介しました。
日本の浮世絵や工芸品が西洋の美術に影響を与えていたことには驚きですね! 今回は絵画作品のみの紹介となりましたが、アール・ヌーヴォーを代表するフランスのガラス工芸家エミール・ガレなどが手掛けた工芸品にも、ジャポニスムの影響を受けた作品がありますよ。
さて次回は、アール・ヌーヴォーを代表する画家「アルフォンス・ミュシャ」について、詳しくご紹介します。お楽しみに!
【参考書籍】
・早坂優子『巨匠に教わる 絵画の見かた』株式会社視覚デザイン研究所 1996年
・早坂優子『鑑賞のための 西洋美術史入門』株式会社視覚デザイン研究所 2006年
・深光富士男『面白いほどよくわかる 浮世絵入門』河出書房新社 2019年