源氏物語/10分でわかるアート

10分でわかるアートとは?

10分でわかるアート」は、世界中の有名な美術家たちや、美術用語などを分かりやすく紹介する連載コラムです。

作家たちのクスっと笑えてしまうエピソードや、なるほど!と、思わず人に話したくなってしまうちょっとした知識など。さまざまな切り口で、有名な作家について分かりやすく簡単に知ってもらうことを目的としています。

今回は、紫式部が書いた平安時代のベストセラー「源氏物語」について詳しくご紹介。

「この作品を作った作家についてもう少し知りたい!」「美術用語が難しくてわからない・・・」そんな方のヒントになれば幸いです。

『源氏物語』とは?

平安時代に紫式部(970?₋1014?)によって書かれた『源氏物語』は、時を経ても多くの人に読まれる作品です。

作者の紫式部は、生没年や本当の名前はわかっていませんが、『源氏物語』が評判高く藤原道長に見いだされたといわれています。

やがて藤原道長の娘で天皇の后であった彰子に仕えるようになり、『源氏物語』はさらに多くの人に読まれるようになりました。

紫式部について詳しく知りたい方はこちら▼

『源氏物語』の主人公は、帝の美しい皇子の光源氏。多くの女性とさまざまな恋愛を重ねながら成長していくようすを描いています。

物語は大きく3つに分かれています。

第一部は光源氏の誕生から引退した天皇と並ぶ高い位に就くところまで、第二部は光源氏が出家を決意するまで、第三部は光源氏の死後、息子たちを主人公にした物語です。

全部で54巻あり、それぞれに名前がついています。

登場人物は約500人。約70年間のさまざまな物語が記されており、とても長いため読み切るのは大変です。

しかし多くの人に愛されていることから、長さを上回る魅力にあふれた作品だと考えられます。

『源氏物語』の登場人物を描いた作品


上村松園《焔》1918年 東京国立博物館

『源氏物語』は執筆されていた平安時代からたいへん人気のある作品でした。

その後も多くの人に愛され、『源氏物語』に関わる作品がたくさん制作されています。

その一つが上村松園の《焔》です。

大正時代に描かれたこの作品は、『源氏物語』の登場人物である六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)を描いています。

六条御息所は光源氏の年上の恋人でしたがプライドが高く、光源氏が他の恋人のところを訪れることに耐えられなくなり距離を置くように。

しかし光源氏への恋心に苦しむ六条御息所は生霊となり、光源氏の恋人たちの前に現れるようになりました。

《焔》はその六条御息所の生霊を描いています。

その表情からは嫉妬や怨念が伝わりながらも、美しく気高い六条御息所の品格も伝わる作品です。

他にも『源氏物語』を題材にした作品は多く、和歌や屏風、着物、工芸品など、さまざまなものに取り入れられています。

《源氏物語絵巻》を観てみよう


世尊寺伊房 詞書 和田正尚 模写ほか《源氏物語絵巻》 1911 国立国会図書館デジタルコレクション

多くの『源氏物語』にまつわる美術作品のうち、古くから描かれているのが《源氏物語絵巻》です。

平安時代の色鮮やかな十二単や几帳越しの女性の姿などを描いた《源氏物語絵巻》を、教科書などで見たことがある人も多いのではないでしょうか。

『源氏物語』のさまざまな場面が描かれた絵巻は、その当時の雰囲気を垣間見られる作品でもあります。

《源氏物語絵巻》は、『源氏物語』が書かれた約150年後に制作されたもので、日本最古の絵巻です。

現存しているものは4巻で、それぞれ徳川美術館(愛知県)五島美術館に所蔵されています。

『源氏物語』の54帖の中からそれぞれ1~3場面を選んで描かれ、それに合わせて物語の本文を書き写した「詞書(ことばがき)」と交互に並んでいました。

制作された当時は10巻あったのではと考えられています。

この絵巻の絵を描いたのは平安時代の絵師である藤原隆能(ふじわらのたかよし)といわれていることから「隆能源氏」とも呼ばれます。

『源氏物語』が学べる美術館

『源氏物語』に関する作品は数多くありますが、それらの中には美術館に所蔵されているものもあります。

その美術館の中でも特に『源氏物語』について学べる美術館は以下の3つです。

五島美術館

東京にある五島美術館では、平安時代に制作された《源氏物語絵巻》を1巻所蔵しています。

「鈴虫」2場面、「夕霧」、「御法」の3帖分が所蔵されており、年に一度、期間限定で一部を見ることができます。

他にも『源氏物語』の作者紫式部が書いた『紫式部日記』をもとにした《紫式部日記絵巻》も所蔵されており、紫式部や源氏物語に触れることができる美術館です。

五島美術館公式サイト:https://www.gotoh-museum.or.jp/

徳川美術館

愛知県にある徳川家ゆかりの美術館です。

平安時代に制作された《源氏物語絵巻》のうち、尾張徳川家伝来の3巻分が所蔵されています。

徳川美術館に所蔵されている《源氏物語絵巻》は保存のため額装されていましたが、2016年~2020年にかけて巻物に表装されました。

《源氏物語絵巻》原本の展示は非常に短い期間に限られているため、通常は複製などによる作品が紹介されています。

徳川美術館公式サイト:https://www.tokugawa-art-museum.jp/

源氏物語ミュージアム

京都府にある源氏物語ミュージアムは『源氏物語』をテーマにした公立の博物館です。

『源氏物語』に関する文献や資料だけでなく、光源氏の邸宅の六条院の模型や牛車や屏風などの平安時代の乗り物や調度品が復元されています。

また企画展では『源氏物語』に関するさまざまな作品を見ることができるなど、幅広く『源氏物語』に触れられるでしょう。

源氏物語ミュージアム公式サイト:https://www.city.uji.kyoto.jp/site/genji/

おわりに

平安時代から現代まで、多くの人に愛されている『源氏物語』は、時間がたっても色あせることなく魅力にあふれる作品です。
あらためて脚光を浴びているこの機会にぜひ『源氏物語』に触れてみてくださいね。

【参考書籍】
・川村裕子『ビジュアルでつかむ!古典文学の作家たち 紫式部と源氏物語』株式会社ほるぷ出版  2023年