風刺画/10分でわかるアート
2023年3月29日
デザインに恋したアート♡アートに嫉妬したデザイン/大阪中之島美術館
デザインとアートの境界線はどこにあるのか。この問いについて、美術館と来館者みんなで考える展覧会「デザインに恋したアート♡アートに嫉妬したデザイン」が、大阪中之島美術館にて開催中です。
2022年2月2日に開館した大阪中之島美術館にとって、「デザイン」と「アート」の2つは構想段階から活動の軸にしてきたもの。開館1周年を迎えた美術館は、今あらためて原点に立ち返り、この正解のないテーマと向き合います。
本展では、およそ100点に及ぶ近現代の作品を紹介。鑑賞者一人ひとりの感じたこと・思ったこと・考えたことを表現できる“ある仕掛け”が施されています。
一つひとつの作品を通して、デザインとアートの「境界」や「重なりしろ」を見つけていく。展示へ一歩足を踏み入れると、そんな小さな旅がはじまります。
まず、本展に足を踏み入れて一番に驚いたのが「作品についての説明がない」こと。こちらの写真を見てもわかるように、フロアには作品だけが並んでいるので、とてもスッキリした空間になっています。
本展の大きなテーマは、来館者と一緒にデザインやアートについて考えること。
なるべく先入観を持たずに作品を鑑賞し、自由に対話してほしいと、あえて作品についての詳しい説明は記載していないのだとか。
デザインとアートの境界線は人によって違います。たとえば、横尾忠則の作品『腰巻お仙』を見てみましょう。
みなさんはこちらの作品が、デザインとアートのどちらだと感じますか?
(左から) 横尾忠則 《腰巻お仙|劇団状況劇場(ピンクver)》1966年 国立国際美術館 ⒸTadanori Yokoo/横尾忠則 《腰巻お仙|劇団状況劇場( 青ver )》1968年 国立国際美術館 ⒸTadanori Yokoo
おそらく、それぞれに作品から感じ取ったものが軸となり、デザインかアートかの判断を下すと思います。
しかし、もしここで作品よりも先に説明を読んでいたら、デザインだと思っていたものがアートに見えてきたり、着目するポイントが変化したりしてしまうのではないでしょうか。
本展では固定観念を一旦置いておいて、作品に対して最初に浮かんだイメージや物事を重視。一人ひとりが異なるであろう「デザインかアートか」という問いに対する答えを「考える」空間がつくられています。
実際に私も作品の説明がない空間を歩いてみたのですが、先入観がない分、想像がどんどん膨らんでいき、自分で作品にキャプションをつけるような体験ができました。
美術館は基本的な枠組みだけを提供し、それがどう展開していくのかは来館者に委ねる。この自由で制限のない展示方式はとても新鮮です。
そして本展は作品を「考える」だけではなく、その考えを「表現」できる仕掛けがなされています。
その仕掛けがこちら・・・。
“デバイス”を用いて、以下の流れで作者や作品に対しての考えを投票・共有できるようになっているのです!
具体的な楽しみ方は以下の通り。
デバイスを使ってみると、作品をデザインかアートかの二択にしてしまうのではなく、「デザイン◯%」「アート◯%」といった融合したかたちで投票できるようになっており、ここにも美術館の工夫が感じ取れました。
デバイスは各作品の前に設置されているので、ぜひみなさんも自分のなかにある答えを導き出して、投票してみてください。
最後には全体の結果も開示されているため、自分の投票と比べることで、また新しい発見があるかもしれません。
私も手元に残しておいた自分の投票結果と比べてみたのですが、みなさんと同じところがあったり、全く違うところがあったり・・・。
特に違う投票結果になった作品について、「他の方はどうしてこの結果を選んだのだろう」と考えてみるのもとても面白い体験でした。
およそ100点に及ぶ近現代の作品たちの「見え方」は人によってさまざまであることを、あらためて感じます。
倉俣史朗 《Miss Blanche(ミス・ブランチ)》 デザイン1988年 / 製作1989年 大阪中之島美術館蔵 ⒸKuramata Design Office
たとえば、こちらの作品も美術に知見がある方は、すぐに倉俣史朗の最高傑作とも呼ばれる『ミス・ブランチ』だと理解できるはず。
しかし、ここで初めて美術と出会う方や、想像力豊かな子どもたちからすると、「花柄のガラスの椅子」などと、また見え方が違ってくるかもしれません。
(左から) 森村泰昌 《肖像(ファン・ゴッホ)》 1985年 大阪中之島美術館蔵 ⒸYasumasa Morimura/ 森村泰昌 《肖像(カミーユ・ルラン)》 1985年 大阪中之島美術館蔵 ⒸYasumasa Morimura
フィンセント・ファン・ゴッホは印象派の有名画家ですが、本展で展示されているのはそんな彼をポップに描いた『肖像(ファン・ゴッホ)』。こちらもまた、自分のなかにあるゴッホへの認知度によって見え方が違ってくるでしょう。
来館者一人ひとりが「これはデザイン?」「これはアート?」と自分自身に問いかけ、その答えを最後に共有し合う。
多様な視点を知ることで、自分が捉えていたデザインとアートの境界線に変化が生まれるかもしれません。
実は本展での体験は、美術館を出て家についたあとまで続きます。
先述した通り、本展には作品のキャプションがありません。デザインとアートについて考え、自分の答えと他の人の投票結果と比べた後は、ぜひ図録を手にとって作品についての知識を深めてみてください。
図録に書かれている作品の情報と、自分が展示会のなかでつけたキャプションをじっくり比べることで「なるほど!」「そうだったのか!」と、ここでもまた新しい発見が得られます。
そして、そこでの気づきをもって再び展示会に足を運んでみると、自分のデザインとアートへの捉え方の変化に驚くかも・・・。
およそ100点にも及ぶ戦後日本の多彩な作品と新しい展示のかたちによって、鑑賞を超えた「参加」という体験ができる本展。
みなさんもぜひ、さまざまな角度からデザインとアートに向き合ってみてください。