風刺画/10分でわかるアート
2023年3月29日
ただよう記憶の世界/東京都渋谷公園通りギャラリー
現在、東京都渋谷公園通りギャラリーでは「アール・ブリュット ゼン&ナウ Vol.3 ただよう記憶の世界」が開催しています。
東京都渋谷公園通りギャラリーは、2020年2月にアール・ブリュットをはじめとするさまざまな作品を展示し、多様な創造性に触れられる文化施設としてグランドオープンしました。
東京都渋谷公園通りギャラリーで定期的に開催している展覧会シリーズ「アール・ブリュット ゼン&ナウ」。
国内、国外問わず、アール・ブリュットでの動向において、長く活動を続ける作家と近年発表の場を広げつつある作家をさまざまな角度から紹介する展覧会シリーズで、今回は3回目の開催となります。
本展では「ただよう記憶の世界」をテーマに5名の作家がそれぞれ視覚や味覚などの感覚、「記憶」から生まれた作品を展示します。
「アール・ブリュット」という言葉が使用されるようになったのは、1945年頃からと言われています。
フランスの芸術家ジャン・デュビュッフェが精神的障害者が制作したアートをコレクションしており、それらを「アール・ブリュット」と呼んだことが始まりです。
国内では、アール・ブリュットというと「障害者のアート」と思われがちです。
しかし、現在は伝統などに左右されず、自身から湧き出るアートや専門的な美術教育を受けていない人などによる、独創的な発想や表現方法のことを表すなど幅広く使用されています。
本展で紹介する作家は5名。
本展はアール・ブリュットをテーマにしながらもモチーフ、支持体、色彩はさまざま。
それぞれの作品のコンセプトについて深く考えたり、シンプルに見て感じて楽しめる展覧会となっています。
本展に出展している作家の一人、松原日光の作り出す作品はカラフルな刺しゅう作品です。
16歳頃から自宅にて刺しゅうを始め、旅行で訪れた山や景色、自宅の庭に咲く花などの植物が主なモチーフになっています。
本展では旅先で見た船や列車などの乗り物の作品も多くみられ、「船に乗りたい」という想いも制作のきっかけになったのだそう。
本来、船や鉄道は無機質な色味をしていることも多いのですが、色鮮やかな糸で一本一本、丁寧に刺しゅうされています。
船の中に刺しゅうで形が描かれておいたりと、見ていてわくわくするような色使いの作品です。
出展作家の一人、東本憲子は大阪市にある障害福祉サービス「西淡路希望の家」に所属し、さまざまな作品を制作しています。
本展覧会では気泡緩衝材(エアキャップなどとも呼ばれる)の気泡部分に、油性カラーペンや水性インクペンで塗り、離れてみたときに幾何学模様が生み出される独創的なアート作品を展示されています。
びっしりと描かれた模様の数々。背丈よりも長い作品はまるでカーテンのよう。
すべての気泡に色がつけられ、離れてみると三角などの幾何学模様が見えます。
一本の線を迷路のように辿っていったり、幾何学模様を探したりと楽しくなる作品です。
最後に小林一緒を紹介します。彼は調理師として働いていた経験があり、蕎麦屋や病院の給食センターなどで勤務していました。
18歳頃から、自分が食べた食事を思い出してメモに残すようになり、その後、現在のように絵を描き残していきます。
数々のお弁当などが描かれた作品たちは、どれも色彩豊かで立体的に描かれており、調理師の経験もあってか絵からは温かさやにおいまで伝わってくるようです。
さまざまな表現の作品たちを一度に見られる本展。ぜひ実物を見て暖かさや繊細さを感じていただけたらと思います。