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クロード・モネの世界にひたる。日本初公開作品を含む〈睡蓮〉などを堪能【国立西洋美術館】
2024年11月1日
日本には、美術館・博物館がたくさん存在しています。
年に何度か足を運んだり、旅先でお楽しみとして訪れたり・・・素敵な館が全国のさまざまな場所にありますよね。
「学芸員の太鼓判」は、全国の館の自慢の名品を詳しく知りたい! そんな想いから生まれた企画です。
本連載では、全国の美術館・博物館の自慢の所蔵品を詳しくご紹介。
今回は、国内外のすぐれた版画作品を数多く持つ、町田市立国際版画美術館の所蔵品を紹介します。
町田市立国際版画美術館
町田市立国際版画美術館は、世界でも数少ない版画を中心とする美術館です。1987年に開館してから、国内外のすぐれた版画作品や資料を収集・保存してきました。現在では32,000点を超える作品を収蔵しています。
豊富な作品をもとに版画について紹介する展覧会はもちろん、本格的な版画制作の設備が整った版画工房とアトリエ、イベントや講座など、美術・文化の交流の場としての役割も担っている同館。版画を「見る楽しみ」「作る楽しみ」「発表する楽しみ」を総合的に提供しています。
また、緑豊かな芹ヶ谷公園の中に位置しており、芸術と自然を両方楽しむことも!季節ごとに景色が変わる、ぜいたくな美術館です。
今回詳しくお話を聞いた学芸員は、藤村拓也さん。
藤村さんは、主に西洋古版画(15~18世紀)の研究をしながら、さまざまな展示も担当されています。
そんな藤村さんより、町田市立国際版画美術館が誇る作品、藤村さんのイチオシ作品をお聞きしました。
公式サイトはこちら
クロード・メラン《聖顔》1649年 エングレーヴィング 町田市立国際版画美術館蔵
《聖顔》*は、キリスト教の有名な逸話にもとづく作品です。
*以下、本作については水野千依(著)『キリストの顔 イメージ人類学序説』、筑摩書房、2014年、287-289頁を参照
十字架を背負いながら歩くキリストのひたいの汗を、聖女ヴェロニカが布でふいたところ、その布に彼の顔が浮かび上がったという奇跡のお話で、本作はこの「聖顔布」と呼ばれるキリストの聖遺物*を表しています。
*聖遺物・・・イエス・キリストや聖母マリア、諸聖人などの遺品、キリストの受難にかかわるものなどを指す
作者はフランスの版画家・クロード・メラン(1598-1688)。イタリアのバロック絵画をフランスに伝え、広めたとされるシモン・ヴーエに学び、宗教画や肖像画を中心に幅広い制作を行いました。バロック時代の画家ニコラ・プッサンの原画に基づく版画も残しています。
作品のポイント
・キリスト教の有名な聖遺物がテーマ
・作者は版画に優れたクロード・メラン
まさに超絶技巧!
メランの銅版画の特徴は、線を交差させて陰影を描き出す表現は極力使わず、平行線のみで量感や質感を表そうとした点にあります。また、刻む線を少なくすることで、制作の効率化を図ったとも考えられています。
17世紀のフランスでは、衣服の材質感や髪のツヤなどを、ビュランの線だけで表わす技法(エングレーヴィング)が非常に発展しました。ビュランは鋭い切っ先を持った刃物で、非常に細い線を版に刻むことができ、現在でも切手や紙幣の肖像に用いられるほどです。
《聖顔》は、メランの技巧の極致であると同時に版画史にも残る一品です。作品をよく見ると、キリストの鼻先から始まって円を描く連続した一本の線のみで全てが表されています。
《聖顔》展示風景
神の御業と版画家の手業
《聖顔》には、「一つのものから生み出されたほかならぬ唯一のもの」というラテン語の銘が記されています(もちろんこの文字も一本の線で形づくられています)。
この一文から、神の奇跡によって生み出された「聖顔布」というただひとつの聖遺物の存在と、メランの超絶技巧によって一本の線のみで刻まれた《聖顔》の存在が、重ね合わせられていることがうかがえます。
つまり、神の御業と版画家の手業が重ねられた《聖顔》には、作者であるメランの自負心が反映されているのです。
作品のここに注目!
・版画史に残る超絶技巧
・メランのプライドが感じられる作品
インパクト十分な《聖顔》は、ポスター・チラシ映えも良い作品です。当館に収蔵される前の展覧会「版画の表現500年展」(1990年)をはじめ、2016年の「森羅万象を刻む」展、現在開催中の「版画の見かた」展の印刷物のメインビジュアルにも採用されています。
また、美術館の「喫茶けやき」では、同展の期間限定メニューとして《聖顔》にインスピレーションを得た「うずまきローネ」を提供しています(2021年12月5日まで)。
こちらも来館の際にはチェックしてみてください!
ヴェンツスラウス・ホラー《猫の頭部》1646年 エッチング 町田市立国際版画美術館蔵
《猫の頭部》の作者は、プラハ出身の版画家ヴェンツェスラウス・ホラー(1607-1677)です。ヨーロッパ各地を遍歴し、1637年頃からロンドンを中心に活動しました。自らの創意による版画だけでなく、他の美術家による作品の複製版画も手がけました。
ホラーが扱った主題は風景や肖像、静物など幅広いものでした。細かい線描で生き物の毛並みや服飾の毛皮の質感を表すことも得意で、《猫の頭部》からもそれが分かります。上下の余白の文字は、チェコ語とドイツ語で「こいつは卑しくないからよい猫だ」と記されています。
作品のポイント
・ふわふわで柔らかさのある毛並み
・幅広い主題を扱ったホラーならではの作品
さわりたくなる毛並み
エッチング*と呼ばれる技法で描かれた猫の毛並みに注目してみてください。
トラ柄はもちろんのこと、柔らかさとつややかさも巧みに表現されています。耳の付け根の二重になった部分(俗称は耳袋、正式名称は縁皮嚢)もしっかり描写されており、実際の猫を写実したことがうかがえます。
*エッチング・・・銅板が酸に溶ける性質を利用して、くぼみを作って刷る技法
《猫の頭部》展示風景
ホラーの猫愛?
画中の文「こいつは卑しくないからよい猫だ」にあるように、本作はホラーが実際に出会った猫であることが想像されます。わざわざ絵に残すほどなので、よほど印象的な猫だったのでしょうか?
すこしデッサンがくずれてゆがんでいるように見えますが、逆にそこに味わいも感じられます。
作品のここに注目!
・実際の猫をもとに描いたリアルさ
・猫愛が感じられる!?
「学芸員」というよりも「猫の下僕」として推す一品です。
我が家の猫二匹(黒と白黒)は、隙あらばお互いのごはんを奪いあったり、人のごはんをつまみ食いしようとしたりで、意地汚いことこのうえないので、ホラーの言葉にはうなずくばかり。
でも行儀が悪かろうと良かろうと「猫はかわいい」ことを再確認させてくれる作品です。
版画史に残る超絶技巧の名品から、猫愛が感じられるあたたかい作品まで、多種多様な版画を所蔵する町田市立国際版画美術館。
両作品ともに、現在開催中の「版画の見かた―技法・表現・歴史―」展で鑑賞することができます!
※展覧会情報はこちら
同館のコレクション数は約32,000点超え。面白い作品がまだまだあります。
「版画の見かた」展では今回紹介した2点の他にも、版画ならではの魅力をもった作品が130点ほど展示されます。この機会にぜひ来館してみてはいかがでしょうか?
次回はポーラ美術館の自慢の名品を紹介します。お楽しみに!